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MISSION42 血染めの空、涙の地平

復活です。お楽しみください!!

横一文字に展開した、イーグルナイトの爆撃隊を率いるフランクは、微量の恐怖を感じていた。眼前を埋め尽くす対空砲火。


 でも、これでいい。この瞬間にしか味わえない、スリルと生の実感。


「おい、こんな対空砲火を見たことあるか?エド」


「ない。だが、無駄口をたたくな」


 フランクの右翼に付くグレッグのF/A-18は何とか付いてこれているようだ。少し彼は感心した。


「グレッグ、大丈夫か?」


『イエスサー。自分は度胸だけがウリですから!!』


 グレッグは翼を左右に振って健在っぷりを示した。


『目標まで3000メートル。全機、爆撃準備!!』


 フランクの声を聞いたアリスは親指で武装選択スイッチをはじき、機首を下に20度ほど傾けて、爆撃体勢をとる。


「爆撃はあまり好きにはなれないです。大丈夫ですか?ロジャーくん」


「アイマム。自分も好きになれないです。危険ですし」


 右から来る丁寧な応答。彼女はこれほど礼儀正しい空の男に会ったのはかつての教官、クルトマイヤー以来だった。


「爆弾を落とし次第、離脱しましょう。ホーネットの推力なら問題ないと思います」


「アイマム」


 徐々に近づくターゲット。HUDの照準を目標の対空砲に合わす。爆撃は嫌いだ。関係ないものも巻き込んでしまう。だけど、これは任務だ。落とさなければならない。


 対空機銃の嵐に飲まれないように祈るようにアリスは操縦桿を強く握り、迫り来る運命の瞬間――爆撃のタイミングを待つ。


 この瞬間は怖い。空戦(ドッグファイト)なら逃げ道はある。だが一度爆撃コースに乗ったら回避運動は難しくなる。


『カウント、ファイブ・フォー・スリー・ツー・ワン……(ナウ)!!』


 フランクの声を合図にイーグルナイトの編隊は爆弾を全弾投下した。数量にして10トン近くの爆弾が沿岸地帯に降り注ぐ。


 真下に流れる紅蓮の炎、そして人の血。罪悪感を胸にアリスは機首を上げた。高い推力を誇るF-28は楽々と中空へと舞い上がった。


「ロジャーくん?」


 右を見た刹那、アリスの背筋に悪寒が走った。


『中尉、失敗しました……』


 さっきまで力強い声で話していたロジャーからは想像もできないようなか細い声だった。


『爆撃の際に尾翼を撃たれました。エンジンも……脇腹も……』


「脱出してください!!」


 アリスはその言葉を訊くなり冷静さを失った。脱出しても……助かる見込みは少ない。でも、機体を枕にしてバラバラになるよりはましだ。


『ダメです。作動しません』


「そんなっ……お願い、あきらめないで!!」


『はは。俺はとんでもない男だ。家族や中尉を泣かすなんて……』


 大地に吸い込まれるゆく雀蜂(ホーネット)。アリスはその姿が良く見えない。視界が霞んで。


『じゃ、遺品は家族にお願いします』


「ロジャーくん!!」


 彼の声は返ってこなかった。帰ってきたのはけたたましいノイズだけ。彼の乗るF/A-18はもう――火の玉になっていた。


 陸でははにかんだ笑顔の似合う優しい青年。そんな彼が、無残に死んだ。


「そんな……なんで?」


『アリス……一回、空母に戻ろう』


 とエド。


「いやです!!ロジャーくんの仇をっ!!仇を討ちます!!」


『戻るぞ!!』


「え……エドくん?」


 珍しくエドが声を荒げた。普段は冷静で物静かなエドが。


『今のお前の状況じゃ、確実に死ぬ。俺はロジャーみたいにお前をこんなところで死なせたくない。対空装備に切り替えて来い』


『エドの言うとおりだな。爆撃ってのは、度胸と適度な理性が必要だ。今の取り乱したお前だと、危なっかしくて見ちゃられない。船に戻って、補給して来い』


「はい」


 二人の言葉は的を得ていた。普段のアリスは激昂せずに自分の与えられた任務をこなすタイプのパイロット。だが、彼女は腹部にうごめくどす黒い何かの存在を自分自身でも感じ取れる。


アリスは、手袋のついた左手で涙を拭い、インメルマンターンで方向転換し、空母へ向かった。


「アリス……」


「心配なのか?エド」


「あぁ。1年以上一緒に戦ってきたが、あんな姿……」


「まぁな」


 フランクは隣を飛ぶグレッグに回線をつないだ。


「大丈夫か?」


『大丈夫です……ただ……』


 グレッグの喉に言葉が詰まる。爆破してしまいそうだ。


『スカしたアメ公でしたよ。あいつぁ……でも、死んで良い奴じゃなかった……!!なのに……畜生!!』


「あぁ。ちげぇねぇ。でもな、認めないとお前は死ぬかもしれない。仮に生き延びても、お前は前には進めない」


『はい。ウィルディー中尉』


「よし、俺たちはもう少し、対空砲をぶっ壊すぞ。続け!!キウィ野郎」


『ウィルコ』



「畜生、さすがに敵に『地の利』がありやがる」


 東京湾の制空権を確保するために翔たち空戦隊は苦戦を強いられている。ソ連の航空戦力は連合側とほぼ同数であるが、戦闘機の性能差、連合軍側の燃料不足がこの窮地を作り出した。


『風宮中尉、10時方向に敵編隊です。機種は多分、フルクラム。数は5です』


 イーグルナイト5の冴木怜准尉からの報告。翔は数秒の間で思考を巡らせる。やるか、やらないか――


 タイガーシャークの空戦能力はそれなりに高い。MIG29と互角に渡り合える。しかし、ここにいるのは奈々子以外は新米ルーキーばかり。翔の出した結論は


「よし、お前らは後方援護、俺が前に出る。俺が敵の編隊をつきくづしている間にアムラームの残弾を撃て。わかったか?」


『ウィルコ』


 翔以外の三機は、後方へ減速した後に奈々子をトップにV字編隊を組んだ。


「隼人、これで良いと思うか?」


「無謀だけど、妥当だと思うよ。奈々子はともかく、あの二人はドッグファイトの経験が浅いからね」


「行くぞ」


  パワーを巡航クルーズから戦速ミリタリーへ。紅の軌跡を描いて銀翼は東京の中空を駆け巡る。大空の生態系の王者とも比喩される最高の戦闘機に乗った最強のパイロット。彼らの目指す先は、ただ一つ――目標ターゲットMIG29が5機。


「イーグルナイト1、敵機目認タリホー


 さぁ、俺を狙え。全部よけてやる。


「ロックオンされた」


 甲高い警戒音。この音を聞いた翔は少し、不思議な何かを自分の中に感じ取る。


 甘酸っぱい?緊張感。腹をくすぐる高揚感。


これは戦闘に対してか?それとも、今を生きている満足感?


そんな事はいい。ミサイルを避けろ。避けて、敵を混乱させろ。


「来た!!」


 10発のアーチャーミサイルが放たれた。敵は多分、自分が相手にするのはイーグルナイト――風宮翔であると知っているからだろうか。こんなにミサイルで狙うのは。



「10発ね……」


 翔は左手の中指でチャフ・フレア散布ボタンを押し、操縦桿を巧みに操って上方へバレルロール。イーグルナイトのサーカスとも呼べる曲芸とも呼べる回避機動を始めた。


 空が傾き、地面が自分の頭に落ちてくる。狂ったように変わる風景に翔は酔いの一つも感じなかった。


 のた打ち回るエルロン。


休むことも無く動く推力偏向ノズル。


もはや、彼の空戦機動は100年の歴史を積み重ねた空戦の集大成とも呼べるほどの動きだった。


「今だ!!」


 MIGの編隊を音速で突破するや否や、翔は号令射撃の合図を後方に待機する、味方に出した。


発射。


20キロ先からの突然とも呼べる攻撃。敵機は先ほどからのロックオンは翔がしていたものだと思っていたのだろうか。散会する暇も無く木っ端と化した。


『イーグルナイト4より1へ。目標の殲滅を確認。凄い動きでした!!さすが中尉!!』


「んな事は良い。合流するまで警戒を怠るなよ」


『はい』


「ちょっと待って、正面から敵の小隊が急接近!!」


 隼人は赤い光点をレーダーのディスプレイに発見。その数、5機。



 Su47ベルクトとMIG29の10機編隊のクローベル隊は前方に弱小な敵編隊を発見した。


『大尉、11キロ前方に敵編隊が4機います。どうしますか?』


 クローベル2のクララ・ハリヤスキー少尉の伝令を聞いたリジーナは気だるそうに


「めんどくさい。あたしは早く奴と決着付けたいんだよ。雑魚にかまってられるほど暇じゃない。あんたらで片付けな」


『はぁ。わかりました、クローベル5から10は前方の敵機の迎撃せよ』


 クララの指令に後方を飛ぶパイロット達は遅いレスポンスで散開した。


「ったく。こんな教育課程もろくに終えてないひよっこ達をあたしにお守りさせるなんて、共産党の連中は頭わいちまったのか?」


『そんな事は……やはり中堅のパイロットの消耗が激しいのは否めないですが』


「そうさね。あんた含めてガキんちょってのは学校でお勉強してるほうが、よっぽど健全なのに、なんだってこんなアホみたいな戦争に狩り出されるんだろうね」


 彼女はレーダーで隊員ガキんちょ達の戦いを見守る事にした。戦うのは好きだが、他人の戦いを見るほどつまらない事は無い。そう、思いつつリジーナはレーダーディスプレイに目をやっていると、敵の一機が突出している姿を見た。


「ん?こいつ……まさか?」


 レーダー上で放たれたミサイル10発をいとも簡単に避け、敵機に肉薄し、後方の

味方機のミサイル攻撃をさせる……ものの数十秒で5機のMiG29が全滅した。


リジーナは一連の様子を見て、脳内に興奮物質を分泌させた。


「クララ、あんたは9時にいる敵機の迎撃」


『どうするつもりですか?大尉』


「いいから」


 リジーナの声は不思議と弾んでいた。楽しい遊びを前にした子供のような声。彼女にとっての空戦とは殺し合いではなく、命をかけた『遊び』なのかもしれない。


 赤い翼のベルクトは僚機を気にも留めずに直進。目指すは最高の遊び相手――風宮翔イーグルナイト


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