表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年と空-EAGLE KNIGHT-  作者: マーベリック
第3章 動き始めた歯車
26/81

MISSION24 騎士と魔女

2015年 8月14日 午後1時09分


第7人工島 グレイシア航空基地


パイロットスーツに着替えた隼人は亜衣と共に、滑走路へ向かっていた。


この日、隼人の相棒――翔はひょんな事?で空軍のエースであり、亜衣の双子の姉の由衣と模擬戦を行う事になった。


「ごめんね、隼人君……私の姉のわがままに――」


「亜衣ちゃんが謝る事ないよ。それに空軍のパイロットと模擬戦を一回ぐらいはやりたかったし」


 亜衣は隼人の言葉を訊いても、まだ申し訳なさそうに俯いていた。気まずい沈黙が二人の間にまた流れる。毎度の事ながら。


「あそこかな?」


 歩いて数分の所に、人だかりが出来ていた。空軍と海軍の制服が入り混じった人の海を二人は見つけた。


コンクリートを照り返す夏の暑さに負けないくらいの熱気に満ちた人だかりからは、『腰抜けの空軍になんかに負けるな』、『磯臭ぇ海軍野郎になんかブッ飛ばせ』などと、帰属意識に満ちた野次が飛び交っていたり、ある者――フランクはギャンブルの元締めをしていたり、とても軍隊とは思えない雰囲気が亜衣と隼人の目の前に展開していた。


「う……すごい人だかり……亜衣ちゃん離れないでね」


「うん」


亜衣は頷いて、隼人の手を握る。柔らかく生暖かい手だった。


「え?」


「こうすれば……はぐれないよ」


 暑さゆえか、照れたからか不明だが隼人の頬は赤みを帯び始めた。だが、それは亜衣とて同じ事。真っ赤な顔をした二人の男女が人波をかき分けて進む。


 空軍のF-29と海軍のF-28が駐機されている間に、翔と由衣はいた。


「隼人、遅いぞ」


 最前列を抜けて現れた隼人に翔の放った第一声がこれだった。いつも遅れてるくせに何だよ、と心の声帯を隼人は震わした。


「来たね、ん?亜衣も――って、何であんた亜衣の手を握っちゃってんの?」


 不覚だった。亜衣の姉、由衣の前で手を握ったまま現れるなんて……


「え……あ……これは……」


 言葉に迷う隼人の後ろに隠れているようだった亜衣は一歩前に出て、自分の姉に自ら説明する。


「私がはぐれないように自分で手を握っただけだよ……隼人君は悪くない」


「ふぅーん」


 由衣は興味ぶかく、品定めをするような目で隼人の体をなめる様に見た。そして、合点したようにポン、と拳で手のひらを打って翔に向きかえる。


「勝ったら、彼もらって良い?」


彼――隼人を由衣は指差していた。その瞬間、騒がしかった人混みは一気に静まり返った。数秒後、ざわめきの色が戻り始めた時になって、二人は正常な思考が出来るようになった。


「「はい?」」


 長い間、同じコックピットで死地を何度も乗り越えたコンビらしい息ぴったりのリアクションをとる。


「だから、私が勝ったら隼人君ちょうだい」


「コンビ的な意味でか?恋人的な意味でか?それとも性的な意味でか?」


「もちろん、恋人的な意味でだよ」


 当然のような口調で翔の質問に由衣は答えた。


「ダメ!!翔君は良いけど隼人君は……」


 隼人の反論の前に亜衣が声を彼女なりに大きな声を珍しく出した。


「翔君は良いって――傷つくなぁ、おい」


翔の存在を忘れたように、亜衣は由衣に、怖くないが彼女なりの最大限の怒気を帯びた眼光を照射した。だが、悪びれることなく由衣は亜衣に問う。


「そう――じゃぁ亜衣、隼人君と付き合ってる?」


「え……それは……」


「それなのに、あれこれ言うのってお門違いじゃないの?」


 弱気になった亜衣に由衣は追撃をかけた。亜衣は言い返す言葉も見つからずに、ただ俯いてしまう。


「じゃ、決まりね!!翔、あんたが勝ったらあの事を秘密にするね」


「おう。でも、由衣のほうが賞品がでかいってのは気のせいかな……?ま、隼人なら良いや」


 そう言って、ヘルメットを片手に機体に乗り込もうとした翔の手を誰かが掴んだ。亜衣だった。


「どったの?」


「お願い。勝って」


「あ、あぁ」


 意味深な頼み事をされた翔は首をかしげたが、亜衣の真剣な眼差しに翔は報いなければいけないと思った。


 翔は軽やかなフットワークで梯子を上り、コックピットに身を滑り込ませ、コンソールを操作し、火竜を眠りから覚ます。


 腹の底を震わすエンジンの咆哮。高まるエンジンの回転数。離陸の合図が出るまで、翔は待機せねばならない。


『管制塔より、イーグルナイト1へ、離陸を許可する』


「了解」


 スロットル操作でエンジン出力を上げ、機体を前進。ランウェイを疾走する。


「V1、V2、VR」


アフターバーナーでアスファルトを焦がしながら、F-28Dは急加速。揚力を得て、離陸速度になり、翔は宣言した。


離陸テイクオフ


 銀翼は風をはらんで、真夏の空へと舞い上がる。



高度3000メートル、空軍のエースと海軍のエースは15キロの間合いの中、戦いの戦端を切って落とされるのを待っていた。


「隼人、敵さんの情報は?」


「秋月由衣中尉、第28航空隊クルセーダーズ所属のユニコーン小隊の隊長で、一撃離脱を得意とするパイロットだって」


「やっかいだな……雌豹リジーナだったり由衣だったり、女ってのは一撃離脱が好きなのかよ?」


「差別的な発言はよくないよ。でも、由衣は確かだ。彼女はこれまでの相手とは格が違いすぎる」


「なら良い。弱い奴倒したって面白くないしな」


「勝てるかな?」


 隼人は心配そうに呟いた。


 この勝負の鍵は、いかに愛機の良さを引き出させるかだ。旋回性能で勝るF-29に対し、F-28は上昇、降下性能と高いエンジン出力でF-29に勝っている。タイプの異なるこの2機の空戦は神のみぞ知ると言っても過言ではない。


あとは――パイロットの腕次第。それだけだ。戦力の違いも無いこの私闘では自分の腕だけが頼りだ。


「あぁ。勝つっきゃないだろ!!負けたら……俺は……」


 お前を失う。と帰ってくることを期待した隼人だが、その期待は空対地ミサイルを撃たれたダムのように崩壊する。


「のぞきがばらされちまう!!」


 ごつん、と背後で音がした。隼人がどうやらレーダーディスプレイに頭をぶつけたようだった。


「どうした?」


「気にしないで良いよ、僕の事なんて」


「?」


 隼人の言葉がいまいち理解できない翔は首をかしげた。


 2分後、時速800キロで直進する二機のパイロットは互いの姿が見えるほどの距離にまで迫った。距離にして5000メートル。実戦ならミサイル攻撃をするが、今回は機銃だけの決闘だから、さらに距離を詰めねばならない。


「イーグルナイト1――敵機目認エネミータリホー


 翔はそう宣言すると、安全装置を解除し臨戦態勢をとった。機体だけじゃない。彼の瞳も、引き締まった空の戦士の目に変わっていた。


色々な意味で負けられない一戦の火蓋は切って落とされた。


すれ違う二人の騎兵パイロット


両者とも発砲せずに右に旋回した。


ここでの発砲は、パイロットの尊厳が許さないからだ。実戦で行う者はいるが、これは模擬戦。お互いに、一種のスポーツマンシップに基づいて戦わなければならない。


 最初に相手の尻尾に噛み付いたのは、由衣の乗る旋回性に優れたF-29だった。


「こっちは制空戦闘機――マルチロールの28とじゃ格闘性能が違うのよ!!」


 由衣はコックピットの中で独語する。前進翼がもたらす不安定だが、高い運動性能の恩恵を使いこなせる由衣の空戦技能は芸術の域に達していた。


空の魔女――人が彼女をそう呼ぶゆえんがこれだった。


「なんつぅー旋回性能だよ!?」


翔はコックピットの中で驚嘆でその声帯を震わした。一瞬で背後を取られたのは彼にとっては二回目で、初回はリジーナとの初戦だけである。


 だが、翔も負けてはいなかった。由衣の放つ火線を鋭い旋回でくぐり抜け続ける。一見、劣勢に見えるが、常人なら由衣が放った一太刀でやられている。翔は生まれもっての動体視力と反射神経のなせる技だった。


「隼人、アレ行くぞ。舌噛むなよ」


「わかった」


隼人は言わずとして分かった。翔が、彼の得意技である『フォーリング・インメルマンターン』を行おうとするという事を。


エアブレーキ展開。機首上ピッチアップげ。ループを描くようにF-28は上方へと舞い上がる。


由衣がしっかりとついて来ている事を機内のバックミラーで翔は確認した。


スピードはぐんぐんと落ち、翔の握る操縦桿からは失速の前兆現象として起こる振動が走る。


数秒後、速度と一緒に揚力を失ったF-28は遂に失速状態に陥り、力無く引力に引かれ、海面へと吸い込まれると同時に由衣の機体が翔たちの上へと抜けていった。


「今だ」


――フルスロットル。


 燃え上がるアフターバーナーは反撃の狼煙のように紅く鮮やかに燃え上がる。機内を支配していた無重力はプラスGへと変換され、翔と隼人の体を締め付けた。


失速状態からエンジンの推進力だけでF-28は復帰し、猛然と由衣のF-29が描いた飛行機雲の軌跡をたどる。


翔は、F-29の真後ろへ操縦桿とラダーペダルを駆使して機体を持っていった。


 ガンロック、暴れるようにブレイクする由衣に照準を合わせ、引き金に指をかけた刹那だった。緊急無線を2機が受信したのは。


『こちらグレイシア基地。イーグルナイト1とユニコーン1へ――敵爆撃機の6機編隊が当基地に接近。至急帰還し、迎撃せよ。繰り返す――』


 勝負はお預けとなった。翔は機を由衣と並べて変態を組む。


『訊いた?敵さんが来たって』


 由衣は不服な様子で編隊無線で翔にこぼす。


『ねぇ、確か私達って4発ぐらい護身用のサイドワインダーを装備してるよね?』


「あぁ。だからどうした?」


『敵は6機、サイドワインダーの数は8発――全員やっつけてもお釣は出るって計算だよね』


「あぁ――ってお前!!何考えてやがる?」


 由衣の意図を読みとった翔は珍しくツッコミをかました。


『別にあたし一人でもやるけど、心許ないって思ったから話しただけよ。嫌なら良いけど』


 数秒間考えた末、翔は折れた。


「わぁーった。俺も行く。戦場に女子残して帰るなんて、パイロット以前に男としてのプライドが廃るからな」


『そうこなっくっちゃ!!磯臭い海軍のパイロットはプライドだけは高いって話だしね』


「うるせぇ、逃げ足だけが取りえの空軍が。土壇場になって逃げんなよ」


『あんたこそ』


 いがみ合いながらも二人のエースは共通の目的を持って、敵爆撃機の出現ポイントへ、アフターバーナーで紅の軌跡を描きながら向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ