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MISSION21 EAGLE KNIGHTS

すみません!!改稿のため再投稿します!!


マーベリックより


2015年 8月2日 午前 9時12分


空母J・グラフトン 飛行甲板


空は雲ひとつ無い晴天。だが、その空の下にいる兵士たちの心の雲は晴れてはいなかった。空母J・グラフトンではこの日、『尖閣海戦』で戦死した兵士を弔う、慰霊会が行われている。


先に逝った戦友に生ける兵士は涙を流して、その死を悼み嘆いた。


ここは戦場後の海域。あるのは涙と悲しみだけ。


悲しみに満ちた会場の一角に、風宮翔中尉は先に逝った仲間たちの事を思っていた。一条明大尉、宮島竜也少尉、そしてこの作戦で死んだヘルハウンズの14人の隊員の笑顔や優しい瞳を網膜の裏側で思い出している。


40ミリの弔砲が彼らの魂が眠る、尖閣諸島の海域へと放たれた。


4発放たれた後に、政府高官の筋書きを持つ、肉付きの良い中年の男性が壇上へと上がった。彼はマイクを軽く叩き感度を確かめた後に、口を開いた。


「兵士諸君、君達は国のため、資本主義を護るため、正義の為に。私、マイケル・ウィルソンはここに来たのは他でもない……この海原に散った英雄の魂を弔うためだ」


何だよ?正義って?


翔は胸の中で問う。


正義など、目に見えない物の為に自分たちは命を懸けたのではない、と言おうと思ったが、のどの奥に押し込めた。


「君たちの戦友は、国家の盾になるという大いなる役目を担って死んだ。これほど美しい死は無いと私は思う!!故に兵士諸君、君達は彼らの躯の上に立って生きる諸君の義務は唯一つ……憎き社会主義者を皆殺しに……」


熱を帯びる彼の演説に翔は妙な虚無感を覚えた。


人の死ってのはアンタが思ってるほど綺麗なものじゃない。


翔は心の中で独語する。


「そして、国家と自由を護るために小さな命を投げ棄て戦った兵士の為に勝たねばならないのだ!!」


「ふざけないで!!」


翔の斜め後ろ辺りから少女の声がした。抗議と嘆きの念が入り混じった声の持ち主は、人波をかき分け壇上で熱弁を振るう話者の前に歩み寄った。


「光?」


翔はその少女の姿を遠目に見て認識出来た。光らしき少女はウィルソン議員の前に立ち、にらむ様な目を浮かべた。


「何だね君は?」


彼は突然の乱入に少し驚き声が上ずった。少女は敬礼してその問いに答えた。


「私は、看護婦の吉田光少尉です。この海戦で多くの友人を無くしました」


「それは……かわいそうに」


「思っても無い同情なんてしないで下さい!!」


水を打ったように静かな会場に光の声は良く響き渡った。


「あなたみたいに遠くから戦場を見て命令するだけの人に、この戦いで亡くなった人たちが何のために戦ったか解らないでしょう?」


問いの答えが返ってこない。彼女の指摘は図星のようだ。光はそれでも続けた。ぶつけようの無い怒りと悲しみを。


「彼らは……いや、ここにいる私たちも……目に見えもしない、主義主張の為に戦っていません。皆、家族や、恋人、友人を護るために戦っているんです。主義主張を護るために戦っているのは、あなたじゃないんですか!?」


翔、いやここにいる兵士は光と同じ事を思っていた。誰も、文字でしか見えない『資本主義』なんかの為に戦ってはいない。心の中に思う大切な誰かの為に血を流し、命を掛けているのだ。


「衛兵!!この小娘をつまみ出せ!!」


美麗甘言で塗られたメッキは剥げ落ちた。議員は公衆の面前で恥をかかせたという怒りで醜くゆがんだ表情を浮かべた。光は警備兵らしき人物に手を掴まれた。


「触らないで!!」


振り払おうとしたが、手を掴んだ相手の顔を見て光は思いとどまった。


「行こう」


翔は抑揚の無い声で友人に言い聞かせた。


「すみませんでした。上官として彼女を指導するので、少し席をはずします」


翔は敬礼と形式ばった言葉を議員に見せ、光の手を引いて格好のつく程度の歩幅で去った。



場所をいつものデッキへ移した翔と光。それまでの道中で二人は言葉を交わすことも無かった。重い口を最初に開いたのは光だった。


「悔しくないの?」


「何が?」


「あんな綺麗事で、あの戦いを言い表されて!!一条大尉や死んだ皆の命が『小さい』って言われて!!」


光は怒りに震えながら翔に訊いた。


「悔しいさ」


「なら何で……!?」


光の声は翔の様子とは真逆に悔しさに震えていた。


「俺達が怒っても何も変わらないし、何も還ってこないから」


仲間が死んだのは、変わる事の無い事実。戦争が続いているのも事実。あの政治家に憤怒の感情をぶつけても、気分が晴れたりしない事を翔は悟っていた。


「でも……悔しい……!!助けられなくて……何も出来なくて!!」


光の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。悔しさと悲しみが入り混じった涙が光の頬を伝う。


「泣くな。光」


翔は一呼吸を置く。


「泣いても、水分を失うだけで何も得やしない」


光は涙をぬぐって翔に言い返す。


「うるさい。翔のくせに……こういう時って普通、男が泣いてる女の子を抱き寄せるのが常識でしょ」


「俺はあいにく、男を抱く趣味は……ごふっ!!」


翔の言葉は光の鉄拳で制された。だが、悼みの変わりに翔は光の笑顔をとりも出す事が出たのであった。




2015年 8月2日 午前13時21分


東シナ海 上空


3機のV字編隊でF-28は、夏の大空に白き軌跡を描き、東へ向う。


「隼人、輸送機とその取り巻きのミグはどこにいる?」


編隊の先頭を担う風宮翔中尉は後部座席に座る、相棒の矢吹隼人中尉に問うた。翔は一条明大尉亡き第2小隊の隊長の任を担っている。


「40キロ先にいる。報告どおりに4機編隊とダンスしてるよ」


「アリス、フランク、お前らも見えるか?」


『見えます。急いだほうがいいと思います』


編隊の二番機のアリシア・フォン・フランベルク中尉はいつも通りに冷静な回答を隊長機にする。


『レーダーで捕捉出来てるし、スパローをぶちこもうぜ』


3番機のフランク・ウィルディ中尉は血気盛んな具申を隊長にした。


『落ち着け、そんな事して輸送機に友軍誤射フレンドリーファイアしたらどうなる?』


『う……考えてなかった』


エドワード・エンフィールド中尉は相棒のフランクに誰もが言いたかった事を代弁、彼をその下を以って沈黙させる。


「フランク、エドの言うとおりだ。輸送機には、お偉いさんが乗ってる。殺したり、殺されるわけにいかない」


『そうだな』


フランクは任務の概要を思い出し、編隊長の翔のコメントを紳士に受け止めた。


この任務は先ほど空母に訪問した議員が帰国の為に乗った輸送機が敵機に襲われた挙げ句に護衛の機が全滅、翔達の小隊に援護を要請したのであった。


数分後、隼人は慣れた口調で編隊に通信を送る。


『距離が10キロに縮まった。すぐに始まる』


「聞いたな野郎共?全機、マスターアームを解除して増槽タンクを捨てろ。花火大会の時間だ」


『2、エンゲージです』


『3、エンゲージした』


各々、デッドウェイトになる増槽を捨て、アフターバーナーに点火。大空の捕食者となり、敵の編隊に亜音速で襲い掛かる。


「アリス、フランク、お前らは右翼の敵機だ。俺は左翼の敵機をやる」


『でも、翔君……左翼は2機展開してます』


「そうだけど、何?」


『危険すぎですっ』


「んなこと、言ってる場合か?ミサイル来てんのに」


ミサイルアラートがコックピット内にこだましている。10キロ先から殺意と排気ガスを帯びて、ミサイルが急接近。翔達は入神の操縦桿捌きでそれを回避しようと上空へ舞い上がる。


急激なGに耐え切れずに、ミサイルは胴から真っ二つに折れ上がった。


上昇反転インメルマンターンの後に翔は、編隊に無線で交戦宣言をした。


「全機攻撃開始だ、フランクとアリスが輸送機を護衛。俺が陽動をかける」


『2了解』


『3了解』


「風の導きがあらんことを」


これが海軍のパイロット達の開戦の合図。その一言で、体は武者震いで震え、どんな臆病者の目でも戦士の瞳へと変わる。


「行くぞ」


翔の瞳もたった今、戦士の目に変わった。高速で突撃する敵の2機編隊は横一文字隊形アブレストを組み、翔たちの下を通り過ぎるが、翔はロールで反転、そのまま操縦桿を手繰り、スプリットSで相手の背後へと回りこむ。そして、短距離ミサイルのサイドワインダーでターゲットをロック、後に引き金を引き絞った。


「FOX2、FOX2」


ミサイルのお返しはミサイルでと言わんばかりに放たれたサイドワインダーはロケット推進剤の力を以って目標のMig29に飛翔し、百億円に近い価格のハイテク機材を一介の鉄塊に変えた。


破片をエンジンが吸い込まないように翔は右に少し旋回し、もう一機のフルクラムを追尾する。Mig29はF-28の速度、旋回性能、何よりもパイロットの手腕的に振り切れずに、翔のスコアの1ページに記された。


「2機撃墜」


2機撃墜するのにかかった時間は5分も無かった。翔はソ連からは恐怖の対象とされ、連合軍からは最高の友軍機として見られているのだ。彼の総撃墜数はこの戦闘で42機となり、連合軍の歴戦の撃墜王エースと肩を並べた。


「フランク、アリス、後の二機は?」


『全部やっつけたぜ、そっちは?』


「もちろん、二機撃墜」


『早っ!!』


空域が安定した後に、3機はC-3輸送機を囲むようにV字編隊を組んだ。そして、編隊に一本の通信が入る。


『こちら、第3輸送航空隊ハミングバーズのパイロットだ。貴官らの奮戦により、ウィルソン議員の命は救われた。搭乗員の代表として礼を述べたい』


女性の声だった。翔はその言葉に答える事にする。


「どういたしまして。援護も戦闘機の仕事のうちだ」


『そうだな。貴官の名前と所属を知りたい。私は滝沢美代中尉だ』


「俺は第184戦闘機隊ヘルハウンズ所属の風宮翔中尉。コールサインは……」



「イーグルナイト1だ」


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