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MISSION19 旗色の違い

高度6000メートル。戦場より遙か上を仲睦まじく、Su47とF-28は編隊を組んでいた。話をするさい味方に良からぬ誤解を生まない為の翔の心使いだった。


「クララ・・・何で?」


『だって……話したかったんだもの。翔君と』


Su47のパイロットであるクララの声が通信波に乗って、翔のスピーカーを振るわした。ちなみに、翔の後部座席に座る隼人は戦闘の疲れで眠りに落ちてるようだ。


『戦場で会いたくなかったけど……話せて嬉しいよ。翔君』


「全くだよ。会うんだったら池袋や新宿で会いたかったよ」


『はは。そうだね』


そんな繁華街で会えたらどれだけ幸せなのであろう。と、二人は同じ事を思った。


とびきりのおしゃれをして、翔と池袋や新宿で遊ぶ。叶わない空想をしたらクララは辛くなってしまった。クララはそれ故に数秒間、沈黙してしまった。


『何で属した旗の色が違うだけで、同じ人間が殺し合わなければならないの?』


クララはごく小さな声で独語したが、翔には聞き取れた。


宗教、人種、主義主張の違いを理由に大体の戦争は起こる。


人間が戦争を起こす理由は太古から変わらずに、その「違い」の為に海を構成する海水より多くの血が流れた。


数秒の間を開けて翔は自分の考えを敵国に属している友人に答えをのべる。


「わからない。強いて言うなら、頭の固い大人のせいだ。でも、たとえ旗や肌の色が違くても俺達は理解し合えるはずだよ。だって、俺とクララは理解し合えてるじゃないか」


『そうだね……解りあえるはずだよね。解りあえるなら戦争なんて起きないのにね』


人類全員が寛容な心を持っていれば、戦争など起きない。そうすれば、翔とクララは殺人に手を染めずに済んで、今頃、二人は喫茶店で談笑していてもおかしくはないはずだった。


「この戦争が人類最後の戦争になればいいのにな」


『私はこの戦争が戦争の後にくる平和をみんなが大切に守っていけるって信じてる。その平和バトンを私達の次の世代に渡す義務が私達にはある。そうやって命と平和って巡っていくものだと私は思うの』


命と平和。戦場では最も軽んじられる物が、戦争を終わらす重大な鍵であると人は最後に気づいては忘れてしまう。


「クララ、人間って本当にバカだよな」


『うん。でもね……きっかけさえあれば人間は今より賢くなれるよ』




二人を戦場の意志は必ずと言っても良いほどに引き裂く。




『翔、隊長がピンチだ!!早く来い』


フランクの緊急通信が翔の耳をつんざいた。


一方、クララもリジーナの通信が入る。


『ペペリヤノフのおっさんが敵小隊に袋叩きだってさ。早く援護しろ』



「畜生……クララ。俺、行かなきゃいけくなっちまった」


通信を終えた翔はクララに無線で告げた。


『私も』


「再会はこれでおしまいか」


『そうらしいね』


キャノピー越しに見えるクララはヘルメットにその表情を隠されても何処か寂しげに翔は思えた。


「クララ、さよならは言わないからな。平和な時にまた会おう」


『うん、翔君。またね』


夕暮れにそまる通学路のT字路で別れる友人のような口振りでクララは翔に別れを告げた。


そして、2機は旋回して二人をいるべき陣営へと引き戻した。


もう、会えないかもしれない。


二人はそう思いながらも、再会を信じ戦火に燃える空へと舞い戻る。



ソビエト空軍のエースと連合海軍のエースは刃を交えて、20分以上たっていた。


「ぐわっははは!!よく動く奴だ!!」


ペペリヤノフはF-28のパイロットが自分をここまで興じさせたことに対して喜びを感じ得なかった。


大抵のパイロットは15分で動きが直線的になり、落とすのはたやすくなってしまうが、彼は違う。鋭い旋回や急降下を繰り返すのだ。


「いい加減……諦めて、失せろよ!!ペリカン野郎!!」


乱れる呼吸。整える間も与えずに追撃するペペリヤノフに毒を明は吐く。こうも長く空中戦を続けられるのは、明の屈強な精神力がなせる業だった。


「風宮隊長……もう、限界です。約束破ってしまうけど、怒らないで下さいね」


今は亡き上官の風宮三郎少佐との約束、それは「無茶な機動」をしないという事だった。


10年前、明が19歳の新兵だった頃に配属されたのが風宮三郎率いるFー15イーグルで構成された第102航空隊「イーグルズ」だった。


19歳の明は看板付きの問題児で、問題を起こす度に風宮少佐に指導を受けていた。しかし、彼には空中戦の比類無き才能があった。


彼の得意技は急減速とループで失速状態を作り出し、相手の背後を強引に奪う「フォーリング・インメルマンターン」だった。


そんな彼にある日事件が起きた。


日本海上空で敵航空兵力と戦闘になった際に、彼は敵機に追い回されて彼の得意の空戦機動「フォーリング・インメルマンターン」を使った。


相手の背後の強奪には成功した。しかし、エンジン不調のせいで失速状態から復帰できずに、自由落下を開始してしまったのだ。


そのせいで、相手の良い的になってしまった明は敵機から機銃攻撃の餌食となるが、明のFー15にはただの一発の弾丸も当たらなかった。


その代わりに風宮隊長の機体は蜂の巣に近い状態になってしまった。彼の機体が明の盾になってくれたからだ。


その敵機は風宮隊長が撃墜し、明は何とか失速状態から立ち直れた。


明はその日、隊長に泣きながら謝罪した。


だが風宮少佐は笑顔で言った。


『謝るくらいなら、約束してくれ。もう無茶な機動はしないって』


その日から、明は心を入れ替えたのであった。問題児から堅実さに定評のあるパイロットに生まれ変わったのだ。



「行くぞ」


10年前の約束を愚直に守り続けた明はついにそれを破った。


エアブレーキを機動。


そのまま機首を上げ、ループ機動を描き始めた。


まんまと引っかかったペペリヤノフの姿をコックピット内で明はほくそ笑んでやった。


落ちていく速度。操縦桿に伝わる失速の際に起きる振動。


ついにF-28は失速ストールし始めた。


すれ違うSu36とワイバーン。


コントロールも利かずに落下していくF-28の中で、Su36とのすれ違いざまにペペリヤノフに見えるよう、中指を立ててやった。


「何!?」


一瞬もせずに攻守は交代した。今度はペペリヤノフが逃げる番だ。しかし、敵機は彼に逃げる暇も与えずに機銃を放った。


放たれた20ミリ弾は左エンジンと垂直尾翼を穿った。


「ぬぅ。戦闘は無理だな。撤退する」


そう宣言して、黒煙を引きながらペペリヤノフは空母に帰投する為に右に旋回する。



「イーグル1より各機へ、はぁ……はぁ。無事か?」


乱れる呼吸を立て直して明は格好がつく程度に通信をイーグル小隊全員にする。


『2無事です』


『4無事ですよ』


「イーグル3、翔はどうした?」


『はぐれました』


アリスのしゅんとした声が還ってきた。明ははぐれた翔を放っておけないと思って、判断を下した。


「燃料が40パーセント切っている者は帰投しろ。ちなみに俺は60だから翔を探してくる」


『2了解』


『隊長、俺も翔探し手伝いますよ』


「燃料は?」


『その……49です』


フランクの声からは嘘の臭いがそこはか漂っている。明はフランクが虚偽申告していると判断した。


「嘘言え。実際29だろ?」


『う……いえ……』


「お前の気持ちは分かる。でも、こいつは命令だ。早く帰って飯食って戻ってこい」


『了解』


しぶしぶ了解したフランクとアリスのFー28は母艦へとその機首を向け退却した。


「さて、迷子の翔でも探すか」


日もすっかり傾き始めた戦場の空を明は、息子を捜す父親のような様子で飛行している。


『イーグル3より、各機へ。どこにいる?』


突然、翔の声が明の耳を打った。


「こちらイーグル1。今何処だ?」


返答が来て、翔は安堵した。どうやら少し混線していて、翔の通信波が届かなかったらしい。


『隊長、どこですか?』


「俺は今、ポイントDだ」


『自分もDの南の外れにいます』


「解った。今すぐ迎えに行く。合流したら空母に帰るぞ」


『はい』


明は通信をいったん終わらせて南へ旋回、翔をピックアップする事にした。



「いたいた」


白基調に赤と黒のカラーリングが施されたFー28をリジーナは自分の下方で発見した。さっき戦って、見失った風宮翔の機体だ。


右翼を飛ぶクララにリジーナは無線をつなげる。


「クララ、あんたは先に帰って補給をすませな」


『了解しました。大尉は?』


「ちょっと野暮用をね」


『大尉?』


クララがそう言ったときにはもう遅く、リジーナ機は急降下し始めた。



「翔か?」


2キロ前方でこちらへ向かって飛行するF-28のシルエットを発見した。


「翔、翼を左右に振れ」


『了解』


見つけた機体は左右に翼を振っている。翔の機体だ。


「お前の前方を飛んでるのが俺だ。早く合流するぞ……ん!?」


翔の上方から漆黒の機影がハヤブサのように彼のFー28に襲いかかる様が明には見えた。


「翔!!」


明は体と頭脳が離れたかのように、スロットルでエンジン出力を全開。


「間に合え!!」



「死ね」


リジーナは油断しきっている風宮機に照準を合わした。


引き金を引いた刹那だった、風宮機とは違うFー28が射線に割り込んだのは。放った弾は全て、割り込んだF-28に着弾。風宮機には傷一つつかなかった。


「何!?」


リジーナは割り込んだ機体に衝突しないように右に急旋回した。


砲弾で風防ガラスは砕かれて、その破片は明の肉をえぐり鮮血でコックピットは染まる。腹部に刺さった破片が彼の胃袋に吐血を強要。彼は体の言うとおりにマスクの内で血反吐を吐き捨てた。


「逃がすかぁぁあぁぁああぁぁあぁあぁあぁあぁああ!!」


彼の発した音声は、言語というより雄叫びに近かった。


キャノピーの破片で傷を負いながらも、明は逃げるリジーナ機を追撃。そして発砲した。


怨念を込めて放たれた20ミリ弾は持ち主の復讐を果たすべくベルクートへ飛翔。砲弾はエンジン付近に

着弾し、その復讐と役割を果たした。


黒煙を上げ敗走する敵エースの牙が翔の機体に及ばなくなった時に明は翔に通信する。


「大丈夫か?二人とも……?」


『……』


明の狂気とも呼べる行動に翔と隼人は声を失ってしまった。

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