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MISSION OMAKE 決戦前夜

翔が発進前に隼人に言った夜の話を書いてみました。


どうぞお楽しみください

2015年 7月16日 午後9時43

 

空母 J・グラフトン


「こんばわ隼人君」


「あ。アリス」


不安に駆られて空母を散歩していた矢吹隼人少尉は同じ部隊のアリシア・フォン・フランベルク少尉に廊下で遭遇した。


「どうかしましたか?」


不安の色を隠し切れていない隼人の表情に気付いたアリスは隼人に問うた。


「少し不安でね・・・明日の作戦が」


「私もですよ。どうです?これから一緒に教会チャペルでお祈りしませんか?」


空母内には教会チャペルも完備されているのだ。ちなみにアリスは敬虔なクリスチャンでもある。


「でも僕キリスト教徒じゃないし」


「主は何人たりとも拒みません。それにチャペルには一応、仏教の祭壇もありますよ」


「そうなの?」


「はい」


「行ってみようかな」


「本当ですか!?行きましょう」


どこかうれしげなアリスと一緒に隼人はチャペルへと歩きだした。


数分後にはチャペルに到着し、隼人はアリスと別れてチャペルを見て回ることにした。


簡素な作りの教会の中には、決戦前に祈りを済まそうと多くの兵士がここに集まっていた。十字架に明日の加護を神から得ようと皆、荘厳な様子で祈りを捧げていた。


響く祈りの言葉。


十字架を手に祈りを捧げる人々の中、一際美しく祈る少女がいた。


凛とした黒い長髪。整ったあどけない顔立ち。白百合を思わす清楚な雰囲気を携える少女だ。


隼人はその少女を知っている。


秋月亜衣だ。


自分の意志も関係なく、隼人は白百合を思わす亜衣のいる場所へ歩きだした。


「……?」


少女は突然感じた気配が気になり、祈りを中断し後方を一瞥した。


「矢吹君?」


「や、やぁ」


隼人の心臓は理由もなく異常加熱し、激しくのたうち回っている。隼人は光のコネで何度か話した事があるが、いつも心臓がバクバクしてしまう。


「矢吹君もお祈り……?」


「い、いや僕はその……」


「?」


疑問符が頭に浮遊しているような亜衣の表情を見た隼人はたまらずに言ってしまった。


「かっ、観光だよ!!」


「観光?」


「うん。まぁね」


亜衣はくすくすと笑い始めた。


「矢吹君って……おかしな人だね」


「え……あ、ありがとう」


後頭部を掻きながら礼を述べる隼人の頬は赤くなっていた。そして、亜衣も同様に赤かった。


言葉を失った両者は重い沈黙を作り出す。聖歌や祈りをBGMに互いを見つめ会う二人を包む沈黙は鉛より重く、それに耐えかねた隼人は内に秘めた勇気を出して声を出す。


「あ……秋月さん!!」


「はいっ」


「そのぉ……よかったら……外行かない?」


「はい」


言われるがままに亜衣は隼人と一緒にチャペルを後にした。




空母のデッキは無音に近かった。波は低く、静かな潮騒が辺りを包んでいた。


「どうしたの……矢吹君?」


「いや……何というか……その」


「不安なの?明日の作戦が……」


「う……バレたか」


隼人は暗くても解るくらいに頬を赤くしてしまった。


「秋月さんは、その・・・どうして祈ってたの?」


「大切な人たちが傷つかないようにってね……」


「へぇ。優しいんだね」


「いえ……そんなんじゃ」


互いの視線と視線が交差した瞬間、羞恥心が泉のようにこみ上げて一気に二人は俯いてしまった。


隼人の呼吸も出来ないほど苦しくなり、血管を流れる血は熱く早く流れている。


鼓動を高鳴らせ、隼人は隣にいる亜衣に目線を移づ。月夜に照らされた亜衣の横顔は少し赤かった。


「矢吹君……」


隣から聞こえるハープのようにか細い声が隼人の耳の中にかすかに響く。


「明日……不安なんでしょ?」


「うん……」


「私も……不安なの……私が死ぬ事じゃなくて……大切な人が死ぬことが」


「え……」


隼人は言葉を失った。自分よりも他人を重く見られる亜衣の優しさと強さに。


「すごいな秋月さんは……僕なんて明日死ぬことが怖いだけだよ」


「私なんかより……矢吹君は立派だよ……いつ死ぬか解らない最前線に直接行くんだから」


「そんなこと無いよ……秋月さんだって、傷ついた人達を助けてるんだ、殺すことしかできない僕らに比べればずっと素晴らしいことだよ」


「……なんだか悲しいね」


「え?」


「矢吹君達が戦わなければ私達は死んで、矢吹君達が戦えば矢吹君達が傷つく」


悲しみを帯びた亜衣の瞳。彼女はここにいて良い人間じゃない。そう隼人には思えた。彼女はここにいるのには優しすぎるのだ。


「優しいね……秋月さんって」


「矢吹君こそ……」


「亜衣ちゃ……いや、秋月さんはどうして看護士になったの?」


「亜衣で良いよ」


隼人の失敗を優しい笑顔で亜衣はフォローした。亜衣の中で、隼人は心の許せる人物に友達の一人から昇華したのである。


「なら、僕のことは隼人で良いよ」


「うん……隼人君」


こくりと頷いて亜衣は話し始めた。


「……私ね戦争で両親を失ったの。私の目の前で……血だらけになったあの二人の姿は思い出しただけで……死にたくなるほど辛い。だから……私は戦争を憎んでる……でも、憎んでるだけじゃ何も変わらないから、私は動くことにしたの……もうあの光景を作らない為に、私は人を殺めないで救う道を歩くことにした」


普段はあまり感情を露わにしない亜衣は彼女の持てる感情を隼人という心の許せる人物の前で露わにした。


「亜衣ちゃん……」


隼人は気付いてしまった。月の光に反射する一筋の流動体を。


「ごめんね。辛いこと思い出させて」


「良いの……弱い私がいけないから……」


「いや!!亜衣ちゃんは弱くないよ!!優しさと弱さをはき違えちゃだめだよ」


「隼人君?」


「僕の索敵士になった理由は、何もできない自分が嫌だったんだ。沢山の人が傷ついてるのに、何も出来ずにのうのうと生きていくのが辛すぎたんだ」


隼人は涙に暮れる亜衣に語り始めた。


「君は他人の痛みを見るのが嫌でこの道を選んだ。でも、僕は違う。僕は自分の心が痛むのが嫌でこの道を選んだんだ」


「隼人君は優しいんだね……あの時も……」


あの時……亜衣と隼人が最初に出会った日だった。隼人は自分より大きな男から亜衣を護ろうと立ち上がったのだ。


「あの時も……傷つくって解っていても、私のために立ち上がってくれた。隼人君の戦う理由は優しい心だよ」


「それなら……亜衣ちゃんだって、傷ついた人を見捨てられないっていう優しさでここにいるんだ」


「そんなこと……」


「あるよ。だって亜衣ちゃん優しいもん」


亜衣の網膜に映る月はどこかかかすんでいた。しかし、彼女の右手は温かい何かに包まれていた。


「隼人君?」


隼人の左手だった。それは彼女に確実な温もりを与えてくれる。


「ごごごごごご……ごめん!!勝手に触っちゃって!!」


赤面しながら、隼人は亜衣の右手に乗せた彼の手をどけようとしたが、亜衣はそうさせずに彼の左手を逃がさないように捕まえた。


「……泣き止むまで一緒にいてくれる?」


予想外の返答に戸惑いながらも隼人は優しい笑顔を浮かべて答える。


「僕で良ければ、一緒にいるよ」


「……ありがとう……隼人君」


亜衣は握った隼人の手を強く握った。彼の手は決して大きくは無かった。しかし、その手は柔らかく温かい。彼女の不安に冷やされた手には十分な温もりを与える事ができるのだ。


この瞬間を永遠に……


同じ事を二人は思う。


しかし、口に出さない。


だって、恥ずかしいから。

亜衣と隼人はマーベリックのお気に入りキャラですwww


本編は来週にでも上げるつもりです

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