表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年と空-EAGLE KNIGHT-  作者: マーベリック
第1章 天かける問題児
2/81

MISSION1 始まりの風

2015年 4月12日 午後8時30分


太平洋 第17太平洋機動艦隊 J・グラフトン 居住区


 太平洋を東へ、東へと突き進む船団、太平洋第17艦隊の旗艦、J・グラフトンの居住区の通路を全身黒ずくめの服に銀行強盗を彷彿させる黒いマスクを被った二人の見るからに怪しい男達が二人、体勢を低くして歩みを重ねていた。


「二等兵、任務の概要を報告せよ」


「はっ軍曹。資本主義の犬共の機密を撮影。偉大なる将軍様にそれを献上することであります」


 二等兵と呼ばれる屈強そうな体躯を持つ長身の男は軍曹に任務の概要を述べた。


「よろしい。ならば急いで任務に取り掛かるぞ」


 ふふふ、と低い声で笑い声を軍曹は漏らす。


「サー!!敵兵であります」


 T字路越しにパトロールをしている巡回兵の姿を見つけた二人は手近な部屋に飛び入った。


 隠れた部屋には無機質なロッカーとその先に、薄いガラス戸がある。そして、石鹸のほうじゅんな香りと水の音が溢れる空間であった。


「どうやらここのようだ」


 軍曹は確信の笑みをマスクの下で見せる。だが、二等兵は訝しい様子で軍曹を見て、そして問うた。


「ここに在るのですか例の『軍事機密』が?」


「その通りだ二等兵。あれを準備しろ」


「はっ。ここに」


 そう言った二等兵の手にはCANONのデジカメが用意されている。



 軍曹は熟練されたフットワークでガラスに接近。扉をゆっくり慎重に開く。その幅は約一センチ。作業を終えた軍曹は二等兵に『来い』とジェスチャーを出した。


 その指示通りに二等兵は中腰姿勢ですばやく移動。軍曹の背後に回り込み、彼の作った隙間の向こう側に存在する『撮影目標』を一心不乱に取りまくる。


 重要な作戦が故に緊張のために浅くなった呼吸で手元が揺れる。だが、歯を食いしばり手ブレを抑えた。この任務はいかに正確に写真を撮影するかで成否が左右されてしまう。ミスの許されない危険な任務である。


「……もう、無理です。はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ…………がはっ」


 荒い呼吸が無くなったと思われた刹那、どさりと鈍い音が軍曹の背後でした。


「ん?」


 音につられた軍曹は背後を一瞥した。だが、後方では惨劇が起きていた。


「に、二等兵!?」


 驚きを隠せずに軍曹は小さく叫ぶ。なぜなら、後方で二等兵が仰向けに倒れていたのだから。さっきまで健康体で銃撃も予測されないこの場所で。


 すかさずに軍曹はその顔にしてあるマスクを外し、二等兵の元へ駆けつける。そのマスクで隠された素顔はまだ、年端行かない東洋系の少年だった。


 駆けつけた軍曹は、二等兵のマスクを外してやった。二等兵の正体もまた少年だった。あどけなさの残る白人の少年だ。


「すみません、軍曹。もう自分はだめです」


 最後の力を振りしぼってカメラを軍曹に二等兵は手渡そうとした。その手はプルプルと振るえ、そしてその顔、鼻の辺りから出血が見られる。


「自分の屍を超えてください……軍曹」


 普通の指揮官ならここで彼を見捨てる。しかし、彼は違った。


「行くぞ二等兵。閣下の下へ」


「す……すみません。軍曹」


 肩を担がれた二等兵は涙を瞳に浮かべ、軍曹に感謝の意を伝えた。


「気にするな行くぞ」


 二等兵を軍曹抱えながら軍曹は踵を返す。その場から撤収し彼を治療するため、撮った機密を『閣下』に献上するため。


 ガラガラ


 背後の扉の開放音。人の気配。その両者が軍曹に背後を確認させた。


「げっ!!光!!」


 一瞬、軍曹は言葉を呑んだ。彼の視界には、ショートヘアで体にバスタオルを纏った可憐な少女がいた。


 しかし、彼女のタオルの下にあるはずの双峰は平らたく、関東平野を彷彿させた。


「何してんの?翔」


 彼女の発した第一声は棘も嫌悪感も無くただ普通に訊いたような口調だった。そして両者を不気味な沈黙が包む。


その沈黙の中、少女は今の状況に気づく。




                 女子シャワー室+男=覗き魔




という事を。そして、地味に逃げようとした軍曹を見た彼女は、噴火寸前の火山のような形相と、握りこぶしを突き出して言った。


「このぉ……変態がぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁあ!!」


「あべら!!」


 大気を切り裂くストレートパンチがまっすぐと、軍曹こと翔と呼ばれる少年に飛翔する。

 

 着弾。そして二等兵を巻き込み彼は5メートルほど低くスピンの効いた弾道で吹っ飛んだ。


 まさに、場外ホームランと言わんばかりに彼らは吹っ飛んだ。


                       沈黙の空母<完>







そして、始まるのであった。本編が。








一時間後……


「翔!!フランク!!てめぇら何回目だ!?女子シャワー室覗いたの!?」


 一条明いちじょうあきら大尉は、軍曹と二等兵に怒鳴りつけた。


 ここは、空母J・グラフトン所属の航空隊、第184航空隊ヘルハウンズの待機室である。


 そして、今お叱りを受けている二人の少年の一人、『軍曹』こと風宮翔かざみやしょう少尉は指を折って回数を数えている。その相方の『二等兵』、フランク・ウィルディ少尉はその姿を見てため息をついていた。


 この二人は、このヘルハウンズ所属のイーグル小隊でパイロットの任を担っている16歳の少年兵である。


「……6、7、8、9、10……わかりました!!32回です!!」


「一回殴るぞ。グーで」


「すんません」


 ぺこりと頭を翔は下げた。あまり反省した様子を見せずに。


「もう良い。お前ら、公用トイレ掃除3ヶ月の刑だ」


「そんなぁ、自分たちは……」


 翔は抗議をしようとしたが、隊長はそれを遮る。


「本当は3ヶ月飛行停止にしてやろうと思ったんだぞ。だがな、今の戦況で飛べる奴を飛行停止にできるほど今の戦況は甘くないんだ。ホントはお前ら軍法会議モンなんだからなありがたく思えよ」


「はい」


「イエス・サー」


 不満の色を残して、二人はその指令を受諾。それを確認した明は『解散』の一言を出した。


「失礼しました」


 二人はそう言い残し、敬礼。そのまま待機室を出ようとしたが明は呼び止められた。


「カメラは没収な」


「なぜですか!?」


 そう言われた途端、さっきまで平静を保っていた、フランクは血相を変え抗議する。


「盗撮写真の入ったカメラなんて没収意外どうすんだよ。そもそも、お前達はこの俺、将軍の為にやったことだろ……あ……」


 自分の失言に気づいた隊長は、口を押さえて隠蔽しようとした。


 将軍――それは、ソウシャルネットワークサイト『MAXI』にある、この空母のサークル内で『女の子の写真 買います』で有名なS級の変態である。そして、この二人は彼のため、自分の為にこの無謀な任務を敢行したのであった。


「こほん、と言う訳だ。早く渡せ。これは、上官命令だ」


 上官の命令が絶対の軍隊でこの言葉は上の者にとっては最強の武器であり、下の者にとっては最凶の脅迫である。


「はい。了解です」

 

 翔はポケットから潔くカメラを出して、彼に差し出した。


「翔!!」


フランクは彼の名を呼び、制止させようとしたがカメラは隊長の手に渡ってしまった。


「失礼します」


 翔は踵を返し、その場を去った。その背を追うようにフランクも敬礼し去る。


 待機室から出た翔とフランク。フランクは不満そうな表情で翔に問う。


「何で渡しちまったんだ?」


 その声とともに鉄面皮を保っていた翔は破顔一笑する。


「どうしたんだ?」


 突然笑い出した翔にフランクは訝しい表情を見せた。


「見ろよ。これ」


手のひらには一枚のメモリーカード。


「翔、お前まさか……」


「あぁ。すり替えたさ。今頃、隊長は……」


 ふふふ、と翔が笑みを笑いをこぼしたのと同時、待機室のあたりであろう。叫び声が廊下に響く。


「何じゃこりゃぁあぁあぁぁぁぁぁぁああっぁぁぁぁあぁあぁあぁあぁぁ」


 場所は変わって待機室。


 明は隊の備品のノートパソコンで、収穫の品を確認しようとして、メモリーを開封した。しかし、そこには桃源郷には程遠い地獄のような景色。男子シャワー室の屈強な筋肉ダルマ達のシャワー姿が液晶画面に映し出されていた。


 彼の上げた悲鳴を背にほくそ笑む変態二人。そして、二人のテンションは最高潮に達し踊るような足取りで廊下を歩き出した。


「天国が俺達を待ってるぜぇぇぇぇぇぇえぇ」


「天国って何?」


 凛とした声が背後からした。その、声の持ち主はショートヘアの小柄な少女、吉田光よしだひかり少尉だった。


 彼女はこの空母の救難ヘリ部隊の『レスキューエンジェルス』に所属の看護兵である。年齢は16で翔と同い年で、同じ訓練校の出身だ。ちなみに、15歳が連合軍での志願兵の最低年齢であり、18歳からが徴兵年齢である。


「あ、ひ……光」


 翔は突然の彼女の登場に怖気ついた。その一方、フランクは何の事だが分からず、きょとんとしている。


「ねぇ、天国って何?」


「俺が、教えよう」


 フランクが一歩前に踏み出し言った。翔は彼がきっと上手くやり過ごすのであろうと思った。そして期待の第一声は。


「この、メモリーカードに入っている。かわい娘ちゃん達のシャワー姿の写真を見てウハウハする事だ。どうだお前も、一緒に……」


 その続きは誰も聞けなかった。彼女の華麗なドロップキックがフランクを強襲。彼はパイロットらしく後方へ3メートルは吹っ飛んだ。


「どういうことかなぁ?説明してくれる?」


 ドロップキックの着地のせいで崩れた態勢を立て直した光は笑顔だった。どこか、人を殺しそうな。


「あ……これは、その……はい……ごめんなさい」


 頭を下げ、光に翔はメモリーカードを差し出した。そして、そのカードを光は受け取った。


「翔」


「はい」


 顔を上げた翔に光は満面の笑みを浮かべた。


「この、馬鹿ちんがぁあぁぁぁぁあぁ」


 その瞬間、翔もまた空を舞う。フランクより高く、遠くへ。


どさ、と音を立て落着した翔は光に一言。


「なんで……こんなことを……」


 光は翔に言った。


「この、ラブリーチャーミーなあたしの体を見れたのよ。命があるだけ神様に感謝しなさいよ」


「けっ。なにがラブリーチャーミーだ。ノーオッパイの間違いだろ」


 と吐き捨てた翔に光はギロリとにらんで言う。


「何?今度は海に落とされたいの?」


「いえ、何でもありません!!美人端麗、才色兼備の吉田光様!!」


「よろしい。それと二度としないって誓う?」


「はい!!」


 福島名物の赤べこが如く首を縦に振り首肯する翔に光はさらに問う。


「ホント?」


「もちろんです!!」


「なら、お詫びとして、売店でアイス」


「はひ?」


 突然の事に翔は困惑を隠せなかった。


「お詫びにおごれっての。嫌って言うなら、皆にばらすわよ。盗撮した事」


 どうやら、この事件を知るのは隊長と光だけのようだった。


 脅迫にも似たおねだり。翔には選択の余地がなかった。


「はい」


「よろしい」


そう言って光は倒れている翔に手を差し伸べた。


しかし、そんな平穏な空気も戦争は壊す。


けたたましいサイレンが廊下に響き渡る。そしてスピーカーからはアナウンスが流れた。


『敵航空団が本艦に接近。総員、第一種戦闘配備。ヘルハウンズは緊急発進せよ。繰り返す……』


敵の来襲。光はさっきとは裏腹に不安げな表情で翔に話しかける。


「敵襲だよね」


「あぁ。俺達行かないといけないな。アイスは帰ったらな。おい!!フランク」


倒れているフランクを翔はつま先で突っついた。


「スクランブルだ」


「あいよ」


フランクはそう言って、素早く立ち上がって翔と共にロッカールームへ走り去ろうとしたが、光が口を開き


「二人とも!!」


「どうした?」


翔とフランクは振り向く。


「生きて帰らないと許さないからね!!」


「わーってるって」


笑顔で翔は答えた。


そして、走り出す。


死地、戦場とも呼ばれる空へ少年や少女達は向かう。名誉の為、家族の為、愛する者の為に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ