MISSION18 再会は突然に
シクラメンさん、レビュー感謝します
フランクは敵艦隊の第一陣を破らんと奮闘していた。彼の撃墜記録は巡洋艦を3隻。第1陣の5分の1は沈めた計算だが、残り10隻近く残っていた。
「フランク、少しオーバーワークが過ぎやしないか?」
「大丈夫だ、レールガンならあと19発残ってる」
エドの忠告を無視してフランクは弾幕の海へと再び飛び込んだ。
火線をロールで避け、敵艦に肉薄。
射程距離に入りしだいにフランクは敵艦に照準を合わせ引き金を絞る。
「何だよ!?」
引き金を引いても引いてもレールガンは雷を放たなかった。
「フランク、レールガンは銃身冷却で使用できないぞ」
「マジかよ!?おい、ガスは大丈夫か?」
「57%は残ってる」
「よし、アリスと隊長の援護へ向かうぞ」
「対空装備はあまりないぞ」
「I Don’t give a fuck(知ったことか)」
そう言ってフランクはアフターバーナーをふかし、上方の空へ飛翔した。
「フランク、俺のいる前でFワードは使うなって何回言えば気が済む?」
「わりぃ。テキサスの癖でな。会話にF入れないとムズムズするもんで」
「次、英国紳士の俺の前で下品な発言してみろよ……お前を機内だろうがどこだろうが殴るからな」
「あいよ。ワトソン君」
「黙れ、ホームズ。そんなことより前方9000に敵だ。速度からするとMig29」
エドは優秀な成績で英国の索敵士育成学校を卒業した。彼の特徴は記憶力だ。敵機の性能、自機の性能、編隊のパターンなどが彼の脳内に記憶されている。
ちなみに、彼のIQは180近くと判明している。
「距離5000。アムラームの命中率はざっと80%だ。撃てよ」
「イエッサー」
ちゃらけた口調でフランクはエドに言う。フランクは兵装を中距離ミサイルに切り替える。
そして、ロックオンを告げる鐘がコックピット内に響いた。
「ファイア!!」
フランクの宣言と指の屈伸運動と同時にミサイルは放たれた。白い尾を曳きながらミサイルは目標へと確実なる死を運ぶ。
その数秒後、抵抗虚しく5キロ先に火の玉が生まれた。
†
明とアリスは激しい空中戦に身を投じている。大気を切り裂き、重力に縛られながらも、生き延びるために二人は操縦桿を握る手を休めなかった。
『隊長、包囲されてますぅ。援護お願いします』
「俺は今ペペリヤノフの野郎と一戦やってんだ。泣き言言うな」
そう言いながらも明の体力も限界に近かった。超絶機動の連続する空中戦をかれこれ15分もこなすと常人なら失神するが、明は自分の精神力でなんとか意識を保っている。
「ペペリヤノフの野郎もばててんだろ……この野郎!!」
背後を蛇のようにしつこく追い回す敵機を振り切る為に明は右に鋭く旋回する。
「良い回避機動だ……だが!!」
ペペリヤノフはそれを読んでいたかの如くの機動で明の思惑を阻止した。
「常人ならもうヘバっているはずなのだがな。やるな……」
ペペリヤノフは自分の敵を初めて賞賛した。
資本主義者は取るに足らない存在、そう彼はずっと教わってきた。だが、この敵は取るに足る存在だと認識したのだ。
場所は数キロ離れた空域。アリスは二羽のカラスと空中戦を繰り広げていた。
「しつこい人はモテませんよ」
と彼女にしては珍しく毒素を前後を囲む敵機に吐いた。それほどにしつこい追撃なのだ。
右に左に機体を動かし、アリスは敵機に牽制をかけるが、彼らは柔軟にフォーメーションを変えてアリスの牽制を抑えた。
「はぁはぁ・・・もう・・・限界かも・・・」
旋回する度にかかるGはか弱い乙女の体を獲物を食らう蛇の如く締め上げる。もう、彼女の体力は限界を遥かに越していた。
諦めかけ、力無く操縦桿を放し脱出レバーに手を伸ばそうとしたアリス。しかし・・・
『諦めるな!!アリス!!』
「エド君?」
突然のエドからの通信。普段は冷静なエドが声を張り上げるのは天地がひっくり返るほど珍しい。
『今から援護する』
「え……でもあなたたちの任務は?」
『I don’t give a Fuck』
「へ……!?」
『は!?』
Fワードを嫌うエドだがついつい言ってしまった。言った本人は気恥ずかしさ故の咳払いを一回し、いつも通りの冷静な彼に戻った。
『エド君、フランク君……私待ってますよ。早く援護してください』
おっとりした口調にも力強い何かがアリスからは感じられた。
「エド・・・イギリス野郎ってのはいけ好かないけどお前は最高だよ!!」
「うるさい。だからテキサス野郎は下品で嫌いなんだ」
「はは、違ぇねぇや。じゃ、ピンチのお姫様の救出と行きますか」
「あぁ」
フランクとエドを乗せたF-28は最大戦速で戦場を駆け抜ける。音の壁をぶち破り、大気を切り裂く姿は何人たりとも見ることはできない。
「イヤッホー!!行くぜエド」
「飛ばしすぎるなよ!!」
フランクはすれ違うミグ29に挨拶代わりに機関砲弾をたたき込む。ミグ29は爆炎を散らし大空を彩らす。
「アリスだ、背後と上にベルクートがまとわりついてる」
エドはフランクにアリスの置かれた状況を伝えた。
「アリス、合図したらに右に大きく旋回しろ」
『わかりました。フランク君』
アリスとの通信を終えたフランクはレールガンを起動し、チャージを開始させた。
「何する気だ?」
「狙撃ですよ。エド君」
「レールガンでか?」
「もち。銃身冷却できてんだろ?」
「出来てるが、当てられるのか?」
「俺に不可能はなァい」
そう言った直後だった。レールガンのチャージの終了を知らせる電子音がコックピット内で鳴ったのは。
フランクは機体の向きをアリスと正面から衝突するように合わせる。
「アリス、3つ数えたら右に旋回しろ」
『はいっ』
「1、2、3」
「回避」
フランクの合図と同時にアリスの機体は動いた。
その瞬間にフランクは彼女の背後を追い回していたSu47に照準を合わせ、トリガーを引き絞る。
速燃性火薬の代わりに電磁力の相反で撃ち出される砲弾は亜音速で迫りくる目標の右エンジン当たりを貫いた。
そして着弾した敵機は爆発。フランクの撃墜数の一部となった。
『アリス、上の奴をやっつけろ』
「まかせてください」
アリスは上方を飛ぶ敵機に視線を移す。だが、もう一機のベルクートは僚機をやられた恨みをはらさんばかりに機銃を撃ちながらアリスのF-28に襲いかかる。
「あぶないです」
アリスは荒れ狂う猛牛の突進を受け流す闘牛士のように華麗に旋回。下方に抜けていった敵機に追撃をした。
HUD上を力無く飛ぶ敵機にアリスはサイドワインダーでロックオンをする。
「発射」
ドイツ語でアリスはミサイル発射のコールをする。引き金と連動したハードポイントからミサイルは放たれ、目標へと殺意の固まりとなって襲いかかった。
「ごめんなさい」
数秒後に空の向こうで爆発を確認したアリスはそうもらした。コックピット内でうつむくアリスの右に約10メートルの場所にフランク機は現れた。
『アリス、大丈夫か?』
エドの声でふと我に返ったアリスは顔を上げ右を見た。彼女の視界に映ったのは二本指で敬礼するフランクとエドだった。
『隊長が危ないんだろ?助けに行こうぜ』
とフランクの通信が入る。アリスは沈む心を奮い立たせて、操縦桿を握り直す。
「行きましょう……!!」
『そうこなくっちゃ』
二機のワイバーンは遥か上方の空へと舞い上がった。
†
クララは東西を代表する二大エースのドッグファイトを400メートル上方より見守っていた。
「すごい……」
リジーナと翔の描く飛行機雲は超絶機動のせいでいびつな軌跡を描いていて、それはまるで二匹の蛇が互いを絞め殺そうと絡み合っているようだった。
「あきらめやがれよ!!」
垂直上昇のGに締め付けられながらも翔は背後を追い回すリジーナに届かぬ罵声を浴びせる。
空中戦で互角の技能と同じぐらいの性能の機体を使用した際に、結果を左右するのはパイロットの体力といても過言ではない。体力のある戦士に女神は微笑むのだ。
「いい加減やられなさいって!!」
一五分も続く空中戦はリジーナにも苦痛に等しかった。女性で翔よりも体力的に不利なリジーナをここまで戦えたのはひとえに「復讐心」のなせる業だった。
この前の戦闘で翔に敗れたという屈辱が彼女の支えとなっているのだ。
「カザミヤァァァアァ」
怨念を込めた声でリジーナは好敵手の名をうめく。そして、30ミリ機銃の照準を合わした。だが同時に彼女の体は悲鳴を上げ始めていた。
「っう」
意識が遠のく。加速や旋回でかかるGフォースが彼女の限界を超し始めた。
「クララ、援護して……意識が……」
『……え!?』
クララは突然の交戦命令に驚きを隠せずにいた。本当に翔と戦うことになってしまったからだ。
「援護した後に、ペペリヤノフの隊と合流ね」
『はい……』
クララの承諾を聞いた後、リジーナは垂直上昇からインメルマンターンをして離脱した。
「よし……やってみよう」
クララは「ある事」をする決意をして降下を開始した。
「なんだ?」
バックミラーを見て翔は訝しく思えた。血気盛んなエースのリジーナ機が離脱したからである。
「翔、とりあえず僕らもみんなの所へ行こう」
「そうだな。場所は?」
「南東に20キロ」
「てか、それって奴が行った方じゃねぇか」
「まさか、彼女の飛行隊とイーグルが交戦中なのかな?」
「そうしか考えられないだろ」
そう言って翔はリジーナが逃走した方角に機首を向けた。
「上から何か来る」
隼人は上方から緩やかな角度で接近してくる機影を見つけた。そのシルエットは純白のSu47であると解ったが妙だった。
「背面飛行で僕らに近づいてる」
「は!?」
翔は目を疑った。背面飛行で本当に上から近づいてきているのであった。
その機体は距離を詰め、ついにはキャノピーとキャノピーがすれるような距離までに近付いたのであった。
「女?」
キャノピー越しに見えるパイロットは女性だと翔は判断した。細身の体に少し膨らんだ胸などが彼の判断材料だった。
「どうすんの?翔」
「解らん。アイツの魂胆が読めないし・・・ん?」
翔はパイロットが指を立て始めた。指を数字にたとえているようだと翔は判断した。
「1、4、8、9、2?」
「無線の周波かな?繋げろってことかな?」
「隼人、やってくれ」
言われるがままに隼人は周波数を148.92に会わす。
「……くん?」
日本語がノイズと共に聞こえる。
「翔君?」
聞き覚えのある声だった。だが、思い出せない。記憶の海を潜水しても見つからない声。
「そうだけど。お前は……」
「覚えてる?クララだよ」
名前と声がリンクしてようやく翔は思い出した。
「クララ!?」
「翔君……また話したかったよ」
そう言ってクララと名乗るパイロットはおもむろにヘルメットを外して素顔をさらした。
美しい金髪が引力に引かれ下に垂れているが、翔の目に映ったのは牢獄で出会った少女の山村クララだった。
「クララ……」
クララの乗るベルクートは左にロールして、翔のFー28と並ぶように水平飛行状態をとった。
「野暮なことはしないよ。楽しんでね~」
隼人はそう言い残してスピーカーの電源を落とした。