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MISSION16 戦火の空へ

2015年 7月17日 午前3時42分


尖閣諸島近海 ソビエト連邦 キエフ級空母 航空隊待機室


接近する敵艦隊を迎え撃たんとする、若き勇者達は本日始まるであろう作戦のブリーフィングを受けていた。


第42航空隊隊長のアンドレイ・ペペリヤノフ中佐は2メートルはあろう筋骨隆々な体躯の持ち主であり、30機近くの資本主義者達の戦闘機を地面または海面に接吻させた男だ。


人は、彼を「人喰いペペリヤノフ」と呼ぶ。


歴戦の隊長が率いるのは「シベリヤの雌豹」こと、リジーナ・カリヤスキー大尉を筆頭とするソビエト軍の軍神の加護を得たエースパイロット達。


「本日の作戦では、迫り来る資本主義の豚共を一掃する事が第一だ。この「鉄壁艦隊」が負けることは無いが、うるさいハエ共が飛んでたら落ち着いて飯も食えん。だから諸君の健闘を祈る。解散!!」


彼の放ったジョークに隊員達は野次と笑い声を飛ばす。


そんな中、一人だけ笑えずに緊張の面もちで借りた猫のように端で大人しく座る少女がいた。


ロングの金髪と初々しい表情を持つクララ・ハリヤスキー少尉である。


つい1ヶ月前に訓練を終えたクララだが、高い成績で初等訓練を終えた彼女の初勤務はこのペペリヤノフ戦隊。しかも、連合との決戦が初陣となる。彼女には荷が重すぎる。


「クララとか言ったね。ちょっと来な」


飛行服に身を包んだ黒いショートヘアが特徴のクールビューティのリジーナが極度の緊張状態のクララに話しかけた。


「え……はい」


言われるがままにクララはリジーナについていく。


クララが連れてこられた場所は格納庫だった。


「あんた、今日が初陣?」


「はい」


「そうかい。ならあたしのケツについてきな。そうすりゃ生き延びれられる」


リジーナが姉御肌である事であることは訊いたことがあるクララだが、同時に戦闘を楽しむ女とも訊いたことがある。


「あたしはね……出撃が待ち遠しいんだよ」


「何故ですか?」


自分とは反対の感覚のリジーナに疑問を感じたクララは、自分の意志も関係なしに真意を問う。


「あたしは自慢じゃないけど、一回も被弾したことがないんだ。でも、最近ね、面白い奴に一回だけ機銃を食らちゃってねぇ……そいつと今日戦えるんだよ。連合の『鷲の騎士』さんと」


「鷲の騎士?」


クララは訝しげに訊き慣れない名を聞き返す。


「そう。鷲の騎士。あんたみたいなヒヨっ子は知らないと思うけど、最近スコアを伸ばしているエースだよ」


「どのくらい撃墜したのですか?」


「もうなんやかんやで、10機は殺ってるってウワサよ」


「名前は知ってるんですか?」


リジーナは頭を掻きながら答える。


「ショウ・カザミヤってんだ。日本人だよ」


「え!?」


突然の事にクララは、少し大きめな声を出して驚いてしまった。


「どうした?」


「え……なんでもありません」


首を激しく横に振りクララは何かを隠すが、リジーナは詮索する様子もなく、クララに告げた。


「明日はあたしの小隊であんたの面倒を見る。早く準備しな」


「はい。ありがとうございます大尉」


感謝の言葉と共にクララはリジーナに敬礼。一方リジーナは、ラフな敬礼を残してその場から去ったのであった。


「翔君……何故あなたと?」


リジーナが去って、一人となったクララは第二の母国語である日本語で呟く。漆黒の海面に彼女の声は吸い込まれるだけだった。


明日、自分は彼と殺し合うかもしれない。


悲しくても、願っても変わらない悲しい現実。それが戦争である。




同日 午前5時56分


空母J・グラフトン 飛行甲板


天気は晴天とは呼べなかった。鉛がかった雲が空を覆い、兵士たちの心をより陰鬱にさせる。


今日は第二次尖閣諸島攻略作戦、通称「雪崩作戦オペレーションアバランチ」の決行日だ。


第17機動艦隊と第7艦隊の混成編成で、敵の「鉄壁艦隊」を打ち崩し、海兵隊の上陸部隊で尖閣諸島を攻略することがこの作戦の意義である。


白を基調に赤いラインの入ったF-28Dのコックピット内で待機している風宮翔の手は震えていた。


今日、死ぬかもしれない。


大規模な決戦を前にそう思って平然といられる兵士はそうそういない。いくら敵機を10機以上撃墜しても、場数不足の翔は熟練兵のような横柄な態度ではいられないのだ。


「情けねぇもんだな」


翔は祈るように手の中にある「お守り」を握る。


お守り。それは、翔の友人でもあった宮島竜也の遺品の「認識票ドッグタグ」だった。


「野崎小将からのあいさつだ。総員、傾注せよ」


突然、沈黙を保っていたコックピット内に放送がはいる。数秒後、咳払いと共に演説が始まった。


『あー、兵士諸君。私はこの作戦の指揮をとる野崎だ。言うことは特にないけど、がんばってくれ。別に、何のために命は懸けていい。国のためでも、家族のためにでもね。でも、これだけは約束してほしい。生きて帰ってきてくれ。以上だ。総員第一種決戦配置』


気の抜けた演説だった。名将と呼ばれる男から吐かれた言葉は何も飾らずにシンプルだった。


ただ生きろ。これが彼の唯一の命令だった。


「面白い奴が提督になったもんだな。どう思う?」


翔は後ろに座る隼人に意見を求めた。


「そうだね。僕のイメージだと『国のために死ね!!』って言いそうだったけど違ったね」


「そうだな。髭ヅラおやじだけ提督ってイメージだけどな。野崎提督は違うな」


『お二人さん!!』


機外から近接無線で整備主任の弥生那琥准尉が話に介入した。


「どうした?」


『今回搭載するレールガンの説明するからね』


「「レールガン!?」」


隼人と翔は声を上げて驚く。


レールガンとは相反する電磁の力を用いて弾丸を発射する兵器だ。


だが、その莫大な電力のせいで艦砲サイズしか開発されてないと言うのが2015年の常識である。


『うん。最近ね航空機サイズのが開発されたのよ。で、この作戦が初使用ね』


「電力はどうすんだよ?」


翔の質問に那琥は胸を張りながら答える。


『そりゃ、エンジンを余剰回転させて作るに決まってんじゃない』


「ゑ?」


常識から外れた答えに翔は声にならない何かで対応した。


エンジンの余剰回転は下手をすればエンジンをその熱により爆発が起きる可能性がある。


『で、あとコブラは御法度だからね。エンジンにかかる負担がヤバいから』


「エンジンを余剰加熱する方が負担かかると思うんだけど……」


「隼人!!ツッコまない!!」


「はい」


自分より下の階級の整備兵に言いくるめられた隼人は肩をすぼませた。


『で、撃つのには最低40秒は必要だからね。それと、装弾数は30発』


「ありがとう。良い兵器です」


翔はどこかのCMのような口調で皮肉った。


『ま、翔の腕なら余裕でしょう。がんばって。あと翔にお客さん』


「お客さん?」


那琥の方へ翔は視線を移した。那琥の隣にはヘルメットをかぶった小柄な人物のシルエットは認識できたが、翔はヘルメットのせいで誰だかは認識できなかった。


『翔?』


救命ヘリの看護婦の吉田光だった。この作戦では治療班として空母に残ることと先日の夕食で言っていた。


「光か?」


『うん。言いたいことがあって』


スピーカー越しに伝わる彼女の息づかい。深呼吸をしているようだ。


深呼吸から間が空いて数秒後、光は語を放った。


『生きて帰ってきて』


「は?」


『だから生きて帰ってきなさい!!怪我したあんたの治療なんてばっちくてする気しないからね!!』


「お前何言ってんの?」


案外冷静な翔だった。だが翔は付け足す。


「安心しろ。俺はお前の人工呼吸なんて死んでもイヤだから怪我せずに帰るからな」


『翔……』


返ってきた光の声には嬉しさの色が混ざっていた。


その間にも赤いウェアを着た作業班は戦闘用の兵装を搭載させている。


『イーグル3、準備完了だ』


二人の時間は終わった。これから翔は戦場へ行くのだ。


「3了解。係留具チョークを外せ」


作業班たちはストッパーを外す。そして、那琥のサインで火竜のエンジンに宿る莫大なエネルギーを目覚めさせる。


腹部にエンジンの振動が響きわたる。


回転するエアインテイクの空を切り裂く音は甲高さを増し、振動を強くする。


そして、F-28Dは進み出す。


『風の導きがあらんことを』


光は翔に聞かせる最後かもしれない言葉を放った。敬礼と共に。


「ありがとう。行ってくる」


翔は感謝の言葉と共に敬礼した。そして操縦に集中するために、未練を断つために正面を向く。


「お熱いね」


タキシング中にも関わらず隼人は翔をからかった。


「うるさい。昨日、亜衣と何した?」


「へ!?」


医務室勤務の秋月亜衣と隼人は昨日の晩、デッキで一緒にいたという情報は短時間で航空隊に回っていた。


「童顔のくせにやる事やるんだな」


「ほっといてよ!!」


悪意のこもりまくった発言に隼人はめげてしまった。


数分も経たないうちに、F-28Dはカタパルトに連結された。廃熱遮蔽板も立ち上がり、完全に発艦準備ができた。


『デビルよりイーグル3へ。発艦後はポイント201で第7艦隊の艦載機隊と合流し作戦に入れ』


「了解」


北条神海少尉は強ばっていた。緊張しているのであろう彼女もまた。


「あと神海、肩の力抜けよ。たださえ聞きにくいお前の声が更に聞きにくくなってんぞ」


『なっ!!うるさい!!お前なんて……』


死んじゃえ。神海と言いたかったが、戦いにいく兵士にそれは言ってはならない事。彼女はとっさに喉の中で押さえた。


「お、抜けたじゃん力」


『へ?』


「この調子で指示頼むぞ」


普段はムカつく翔だが、今日は珍しく彼女の神経を逆なでしなかった。


『イーグル3。風の導きがあらんことを』


「3了解」


翔は飛行前の最終点検を行う。高揚力発生装置フラップ補助翼エルロン水平尾翼エレベーター垂直尾翼ラダーをはためかせる。


異常なし。全てなめらかに動く、最高の状態だ。


ワイバーンの準備は万全だが、当のパイロットの準備はまだまだだ。


「竜也……」


翔は手に握ってあるドッグタグを祈るように気分で見た。


「翔、僕もいるよ」


背後から状況を察したかのように隼人が声をかける。


「そいだよな。行くか!?相棒」


「良いぞ相棒!!」


そして、翔は掌帆長に敬礼する。それに応えた彼は、舳先に剣を突き刺すような発艦サインを出した。


二秒後、Fー28Dは大空を舞う。その機首は戦場へ向いており、燃えたがるアフターバーナーは闘志を現すかの如く燃え上がっていた。


行くぞ。隼人。そして竜也。


亡き友の魂を背中に背負い、若きエースパイロットは戦場へ向けて、その白銀の翼をはためかした。


東シナ海の風に乗り、コース201へ飛翔する。空母から20キロ離れた空域の高度6000メートルで地点で、空母J・グラフトンの航空戦力は集結した。


F-28ワイバーンの24機編隊とA-13イントルーダーⅡの36機編隊と支援用の戦闘攻撃機F/A-18スーパーホーネットが24機の混成編隊は大きなV字編隊を打ち合わせ通りに作った。


計77機の大編隊は30キロ先のポイント201で、その倍の数に膨れ上がる。




2015年 7月17日 午前7時30分 




動員人数約10万人の空前の攻略作戦『雪崩作戦オペレーションアバランチ』の火蓋が切って落とされるのだ。



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