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MISSION15 前哨戦

2015年 6月27日 午前 8時42分


空母 J・グラフトン 作戦会議室


「はぁ。厚い壁だな」


衛星写真に写る軍艦が構成要素となるピラミッドを見た若い提督はため息を吐き出す。ラフな制服を身につけた野崎進のざきすすむ少将は将官らしからぬ雰囲気と容貌を持つが、彼は連合海軍最年少の将官である。


「いかがしますか?閣下」


「どうって言われてもなぁ……とりあえず、艦隊を三角形に布陣して一点砲火で壁を破るって手とな」


自分より年輩の副官に野上は頭を掻きながら案を出していく。


「う~……この海域は湾だし地形的に迂回は無理。揚陸艇を守らねば我々の敗北は必須だ」


「しかし、そうも言ってもられませぬぞ閣下。あと3日で作戦は始まります故に」


3日後に第7艦隊と第17艦隊は尖閣諸島攻略作戦を敢行することが海軍総本部で決定された。


対するソビエト側は「鉄壁艦隊」と呼ばれる防戦に重きを置く艦隊指令のワン・シャオピン大将を筆頭に大艦隊を沿岸部に配備してあるとの事である。その艦隊の陣形は旗艦を沿岸近くに配置し、それを頂上とするように十数隻で構成するピラミッドのような布陣展開をしてあるのである。


そして、それをいかに最小限の被害で攻略するかは、海原の天才と呼ばれる彼もこの困難極まり無い宿題を解こうと努力するが、何も重いかない。


数分後だった。海原の天才の頭を掻く手を止め、閃きが脳内ではじけたのは。


「湾……と密集陣形ファランクス……!!これだ!!」


「何ですか?」


「敵艦隊の密集しすぎた陣形は、狭い間隔と狭い海域に挟まれてるせいで、回避行動も取れないだろ?」


「そうですな」


「そこで、航空戦力と長距離砲撃って言うパンチを打ち続ければ、自ずと敵艦隊は回避しようと湾の外に出るか、壊滅するかのどちらかだ」


野崎は艦船の模型を取り、海図に自分の艦隊の布陣を作り出す。


天才が思い浮かべた芸術ともよべる展開図に、副官は驚きの声を少し上げた。


距離50000メートルにイージス艦などの攻撃機能の付いた鑑定を、相手のピラミッドの底辺と同じ数を横に配備。そして、その背後に2隻の航空母艦と、揚陸艦隊を並べるという布陣をとった。


「相手の壁を一枚壊したら前進し、次の壁を作る艦隊を包囲殲滅をする。これが今回の作戦だ」


若い艦隊司令官は子供じみた笑顔を浮かべた。



7月3日 午前9時32分


東シナ海 上空


夏の空。夏と言えども外気はマイナスを割っていた。


雲より高くF-28DとCの混成編隊は一糸乱れない完璧な横一文字アブレスト編隊を組み、銀翼を夏の日に反射させながら飛んでいた。


初めての上陸休暇を持て余した風宮翔は2週間のブランクを解消できるか不安の半分に、新たな愛機の手綱を切れることをコックピット内で喜びを感じていた。


F-28Dワイバーン。従来のB型との違いは外見だけで言うなら、高機動カナードだけだが、中身は大きく変わっていた。


高い機動力を持たすために推力偏向ベクターノズルを搭載し、ステレス性能を上げるために一種の妨害電波をだすARSアンチレーダーシステムや高い精度の火器管制システムなども搭載された。


『イーグル1より各機へ、今回は軽い迎撃任務だが気を抜くなよ』


『2了解』


「3了解」


『4了解』


敵の航空隊が4機ほどが接近したことを彼らの母艦は察し、スクランブルで迎撃に向かう事になったヘルハウンズだが、今回の敵の接近は一つの理由がある。敵の勢力圏内に近い海域を航行しているからだ。


現在、尖閣諸島はソ連に奪取されており、プロトニウムはソ連が独占使用している。


しかし、戦況はやや連合に有利に傾き、一進一退の局地戦が各地で行われている。


シベリア、中東、東欧、大西洋、バルト海、太平洋、そしてここ東シナ海で。


プロトニウムの所有権はソ連に有るのに対し、連合側は食料と物質的に有利に立っている。


中東のほとんどを制圧した連合は石油資源と農作に優れた地理を生かすが、地理的にも恵まれないソ連は補給面で支障を来し、局地戦では大敗を期している。


「隼人、会敵時間は?」


「ざっと4分」


他愛の無い質問を答えるかのような物腰で隼人は翔に会敵時間を教えた。


「那琥の話だと、空戦能力が跳ね上がったって訊いたけどさ、どう思う翔?」


「機体の性能の前にパイロットの腕が戦いを左右するって思うぜ。俺は」


「それも一理あるね」


F-28はマルチロールファイターと呼ばれ、対地任務から対空任務を装備次第で難なくこなす機体だが、DとC型は空戦に重きを置いたらしく、旋回性能や加速性能、上昇性能が跳ね上がったと那琥の報告書には書かれていた。



数分後、火竜の千里眼は敵機の姿を捉えた。美しい流線を描くような機体を持つSu37の8機編隊だ。どうやら、機体を密着させてあたかも一機のようにレーダーの目を騙したようだった。


対するイーグル小隊は4機。戦力差は2倍の違いがある。そこで、一条は隊員に問う。


『イーグル1より、各機へ。敵は7機だが、逃げるか戦うか、多数決を取る。どうする』


『私は戦力的に逃げるべきだと思います』


とアリス。


「俺なら戦いますよ。隊長」


と翔。


『翔の言うとおりですよ。俺たちなら行けますよ!!』


『以上だ。3対1で、交戦だ!!』


一条大尉は高らかに交戦宣言を編隊に轟かす。


安全装置マスターアーム解除。


ターゲットロック。


一列の編隊を組む最新鋭の戦闘機部隊は、レーダー誘導ミサイルを発射した。


ロケット噴射炎がマイナスの外気に水蒸気の尾を作り出し、猛然と決死の突撃を敵飛行隊にかける。


音速の刺突を回避しきれない未熟な兵士達は業火に包まれ、そのままこの世から離別をした。


数十秒後。音速で迫り来る両隊はすれ違うのを合図にドッグファイトの戦端を切って降ろす。


「超過勤務のお給金は払ってもらいますよ」


ドイツ出身の才女は不条理な交戦宣言に文句を言いつつ、着実な働きをする。空戦や対地攻撃をマルチロールにこなすことに定評のあるアリスの総撃墜スコアは7機。彼女はエースとして君臨しているのだ。


「動かないでください」


円を描く旋回をする敵機の背後を的確に追い回し、旋回し疲れてよれた所に彼女は短距離ミサイルをたたき込んだ。


数秒もすればサイドワインダーは37の流麗なボディを火球に包み込む。


「ごめんなさい」


これは彼女の癖だ。


撃墜して奪った命とその遺族に対しての謝罪の言葉を彼女は日々忘れない。


天上にいる創世の主に魂の救済の願いを込め、祈りの言葉も忘れない。


7人の人間を殺め、そして彼らの関係者に心の傷を負わせた事。これは優しいアリスには辛い現実だった。しかし、その現実に負けない心の強さをアリスは持ち合わせていたから今まで戦ってこれたのだ。


勝利のない戦いと知っても彼女は戦い続ける。



一方、翔は早くも一機を撃墜し、彼の背後をついたもう一機のSu37と空中戦をしていた。


『フランク、暇か?』


「あぁ。なんとかな」


『後ろの奴をやっつけてくれ』


無謀な機動で敵機を葬ってきた翔はここの所、きちんと考えた上で動けるパイロットになりつつある。この通信はその現れとも言える。


フランク機は翔を援護せんと銀翼を翻し、翔の援護に向かう。


敵機の背後に回り込んだフランクを確認した翔は急降下。敵機もそれを追って急降下。


「あれか」


この前の模擬戦で翔とフランクが考案したフォーメーションの「サンドウィッチ」だとイーグル4、フランクは直感的に感じ取った。


「カウント3、2、1」


回避ブレイクナウ!!」


かけ声とともに翔は操縦桿を巧みに操り水平飛行に機体を持っていく。


それに合わせフランクは機銃攻撃を前方のスホーイに敢行した。テキサスの父親に射撃のいろはをたたき込まれたフランク。外すことなどまずあり得ない。


20ミリ弾をいたる所に撃ち込まれたスホーイはきりもみ状態で海面と接吻を交わすこととなった。


「イーグルより、各機へ。残る敵機は退却した。俺達の勝ちのようだ」


戦闘が終わって数分後に火竜達は自分の群に戻り、空母に向け旋回した。



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