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MISSION13 聖母

今回は少し明るめです

2015年 6月15日 午前9時58分


横須賀沖 空母 J・グラフトン ヘルハウンズの待機室


「吉田少尉を基地に送る?」


初老の大隊長、望月聡中佐から出された異例の命令に一条明大尉は声を上げた。


「そう。火器管制に問題があってファクトリーに出そうと思った214号機で」


彼の言う、214号機は飛行には問題が無いが戦闘には支障をきたしている。空母内での修復が困難と診断され、国内の工場での調整が必要と判断されたのであった。


「しかし、明日には横須賀に入港しますよ」


「本部の命令でさ、彼女にどうしても血液検査を受けさせたいって言うんだよ。たのむよ」


一瞬明の顔が渋くなり、拒絶の表情を浮かべた。


理由はただ一つ。今晩、パイロット仲間たちと入港前祝いの麻雀大会があるからだ。


空母内は基本的にギャンブルと飲酒は禁止されているが、酒はある程度黙認さていて、同様にギャンブルもわずかな額ならおとがめ無しだ。


そして、待ちに待った麻雀大会をパスするなど明にとっては正気の沙汰ではない。彼は思考を巡らる。そして、何かが彼の脳内ではじけた。


「隊長。お言葉ですが、この任務の適任者がいます」


ふと、明は整端なマスクを引き締め提唱する。


「誰だ?」


「風宮少尉であります」


「翔?」


望月中佐は怪訝な表情を浮かべ、深い渓谷のようなしわが彼の顔に浮かび上がった。


「風宮少尉はB型のパイロットで、吉田少尉より友人関係があります。故に、彼なら楽々とこの任務を成し遂げると思います」


明の論に望月中佐はあごを撫でながら検討した。


「わかった。この任務は翔に任すよ。で、代わりに」


「いっ!?」


先ほどまで安堵の表情を浮かべていた明の顔に戦慄が走った。なぜなら、中佐は明に百科事典ほどの厚さのある紙の束を突き出したからである。



「下士官の評価と、前回の戦闘での航空隊の損害評価を明日までに提出してね」


「はひ……」


良い歳の男が泣きそうな声を上げ、その紙の山を自室に持ち帰ったのであった。



同日 午前10時53分 


空母J・グラフトン 飛行甲板


「そういや、お客様は?」


冗談めかしい口調で風宮翔は、F-28Bの214号機のコクピット内でステップに身を乗せる整備士の弥生那琥に尋ねる。


この任務の詳しい概要を訊かされていない翔は、誰が後部座席に座るのかが気になった。


「え?あぁ、彼女はあともう少しで来るよ」


「彼女?」


「うん。とびっきりかわいい娘」


「ふぅん」


関心のない素振りを見せた、翔の鼻はどこか下に伸びている。そして、その口元はどこかほころんでいたりする。


「あ!!来たよ翔。こっち~」


那琥は艦橋からこちらに歩いてくる少女に無邪気な様子で手を振った。


翔は艦橋の方を一瞥。彼の目線に飛び込んだのは、小柄でショートヘアの少女だった。

「翔、いくら吉田少尉がかわいいからって、機内でいやらしいことしないでよね」


那琥の一声は翔の幻想をビルの爆破解体が如く破壊した。


「吉田少尉!?」


翔は慌てて振り向きその姿を鷹のように凝視した。彼の視力1.5の目はついに少女の姿を認識する。認識した瞬間、翔は現実から目を背けた。


「あれ……女の子ってにいるの?」


「は?彼女だよ。吉田ひか……」


「嘘だ!!あんな凶暴な生物が女の訳あるか!!女の子ってのは、おしとやかである程度の胸囲を持つ人物のことを言うんだ。そしてアレはどちらも適合しない。よって、アレは女の子じゃない!!」


「翔君……誰が凶暴生物ですって?」


ドス黒い殺意がこもった声が下からした。殺意を感じ取った那琥は暗黒のオーラを身に纏った光に、通常よりも高めのテンションで挨拶した。


「あ、来ましたか。ども、自分は弥生那琥准尉です。この機体の整備士を担当しています」


那琥の敬礼のおかげで光はバーサーカー状態から、通常状態に戻り、敬礼した。


「私は吉田光少尉。第54救急飛行隊の看護士。よろしく」


ふぅ、と安堵の息を那琥はもらし、翔にちらりと目をやる。


「ぐっじょぶ」


翔は親指を立て、整備士の功績をたたえたのであった。


「じゃ、少尉。手荷物をこのポッドの中に入れて下さい」


「うん」


普段は武装を搭載する収納ハードポイントには、荷物を入れる為のポッドが搭載されていた。


荷物の収容を終えた光はステップを慣れない様子で上り、狭い後部座席に小さな体を納めた。


「じゃ、ハーネス締めますよ~」


そう言って那琥は光を機に固定するためにハーネス、車でいうシートベルトを装着した。


「じゃ、お二人さん。良い空の旅を」


「ありがとう」


光は笑顔で那琥に例の言葉を述べる。


後部座席に掛けてあるステップを軽やかに降り、機体の前に立つ。そして、人差し指を立て、エンジン始動サインを出す。


コクピット内では翔が慣れた手つきで、主電源、エンジンスタートボタンの順で眠れる火竜の力を呼び起こす。激しい胴震いと共にエンジンは回り出した。鋼の呼吸と鼓動がコックピット内に震撼する。


そしてFー28は足かせを外され、誘導員の指示に従い右舷第一カタパルトへと向かった。


「光、最初に言っとくぞ」


「なに?」


ガチャン、ギアとカタパルトが連結した際に出る特有の金属音が響いた直後、翔は光にインターコムで告げる。


「カタパルトの衝撃ってすごいからな」


「へ?」


突然の一言だった。だが、翔の言うことは事実だ。


何十トンもの鉄の塊を90メートルの距離を使って、時速220キロまでに加速させるのが投石機カタパルトの役目。その際に襲いかかる衝撃は1トンとも言われる。


「ちょっ!!そんなの訊いてないって!!」


光の訴えむなしく、カタパルト士官のカウントダウンは始まってしまった。





カタパルト士官の発艦サインが出た刹那、火竜は業炎と蒸気をまき散らし、90メートルの距離を疾走、青き世界へと舞い上がった。



同日 午後5時21分


横須賀 海軍航空基地 独身士官寮


光の診断後、本日の宿である独身士官寮に到着した翔と光はフライトスーツのままで、チェックインをすますためにフロントデスクへと向かう。


「風宮少尉だ。部屋二つある?」


翔は気の弱そうな黒人の下士官に話しかけた。だが、下士官はおそるおそる答えた。


「いえ……第18艦隊が停泊中なので部屋に空きがないのです。もし、良ければツインでお願いします」


「えぇぇえええぇえ!?」


突如、光は甲高い悲鳴に似た驚きの声を上げる。


「嫌よ!!こんな奴と同じ部屋なんて!!」


彼女はガンと机を叩き抗議した。


「ですが・・・明日からは部屋が空きますので、それまでは仮に形でお願いします」


「わーった。じゃチェックインするよ」


そう言って翔はおもむろにチェックイン用紙にサインをしその後、405とタグの付けられた鍵や鞄を受け取りフロントを後にした。


自分たちが宿泊する部屋がある階層へ向かうエレベーターの中で、光は翔に小さな牙をむける。


「なんであんたと同じ部屋にならないと行けないのよ」


「何でってお前・・・」


翔は区切る。


「理由その一、タダの宿がここしかないから。理由その二、金がない。そして、最後!!お前の事を女と思ってないから」


「最後のってどういう意味?」


何処と無く殺意を漂わせた光は拳の骨を鳴らし、翔に襲いかかる準備を始めている。


「その72センチの胸でよく女って言えんな?まだ関東平野の方が膨らんでると・・・」


翔の発言はここで終わった。いや、光の放った女子には思えない力強いストレートパンチが彼の口を閉じさせた。


「うるさい!!あんたみたいな変態と同じ部屋だと、何かしらの問題が起きて18禁タグ貼らないといけなくなるでしょ!!」


「は?何のことだよ?そもそも、俺はお前に欲情なんてしねぇよ。シベリヤ平野め」


シベリヤ平野とは、世界最大の平野の一つである。その意をくんだ光はとどめをスーツケースで刺してやった。


暴力地獄のようなエレベーターから解放された翔はツインルームの鍵を開けて、中に入った。


15畳ほどの空間に二つのベッドが鎮座されている、簡素な作りの部屋が光と翔の眼前に広がった。茜色の夕日と白基調のたたずまいの部屋には微妙な色合いを醸しだし、見る者に意外な芸術を見せる。


「以外に良い部屋じゃない」


「あぁ」


鞄を置き終えてベッドに飛び込んだ翔は、ベッドに顔を押しつけながら答える。


「先、シャワー浴びさせてもらうよ。翔」


「好きにしろよ」


「くれぐれも覗かないでよ。軍曹」


皮肉の色たっぷりに光は翔に釘を深く突き刺した。


「誰がするか!!お前なんかのを」


シャワー室に入った光のいた空間に翔は顔を向け抗議したが、負け犬の遠吠えが残響した。


「ちくしょう」


忌々しげに翔はベッドの上の天井を見上げたきり睡魔に身を任せ、意識を暗黒のそこへと落とす。


湯気がそぼ立つシャワー室。なめらかな四肢にまとわりついた汗を払拭せんと光は貪るようにシャワーの湯を浴びている。


「やっぱ、労働後にはこれしかないな~」


ついつい、言葉に出してしまった光の気分は高まり、風呂カラオケの十八番、某タイタニックのテーマを歌い出す羽目にまでなった。


だが、誰も知らなかった。


彼女が破滅的に音痴であることを。


フォークで皿をひっかいた様な怪音波に近い歌声とめちゃくちゃな旋律と音程が、新たな音楽を創作した。


「なんじゃこりゃぁぁあぁぁぁあぁ」


怪音波のせいで翔の脳内に住み着いた睡魔達は逃げ出してしまった。


「光!!何の音だ!?」


「へ?」


恐ろしい余韻を残し怪音波止まった。



同日 11時41分 


暗い部屋の中でコンピューターのディスプレイに映し出された、数値を金縁眼鏡の男は口元を歪め確認していた。


「そうか・・・この娘か」


「はっ。本日の検査で、『聖母マリア』の適合者と診断されました」


白衣の研究員風の長身の男が紙で出来たカルテを渡した。


「吉田光か・・・彼女がこの『計画』の鍵となるのだ!!」


肉付きの良い男は、吉田光海軍少尉の個人情報が記されたファイルを手に取りながら狂乱の笑みを浮かべた。



久々のギャグです。


多分、ドン滑りですが温かい目で見守ってやってくださいwww

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