MISSION12 歌声とバンドエイド
新章です。
ガンダムで言う哀・戦士編です。
ここからがしょねそらの本番ですよww
あと、コメントとか来たら発狂して喜びます。
マーベリックより
2015年 6月11日 午前10時34分
太平洋上空
晴天の静寂をジェットエンジンの雄叫びは打ち壊す。大気を震わせ、切り裂くFー28は至烈を極めるドッグファイトの最中であった。
急旋回、宙返り、急降下。目を回すような空戦機動をイーグル3こと、風宮翔はやってのけた。
「しつこいぞアリス!!」
「翔君こそ!!」
翔を追撃する、イーグル2のアリシア・フォン・フランベルク少尉は声を荒げ無線を翔に言い返す。
普段はおっとりとした彼女だが、今回ばかりは自分のキャラを忘れ、翔の撃墜を目指す。
翔とアリスの模擬戦内での戦闘結果は4勝3敗と翔が勝ち越しているが、一ヶ月前までは翔は一回も勝てなかった。だが、翔は急な追い上げでアリスのチャンピオンベルトをむしり取った。
「動かないで下さい・・・!!」
アリスは直線的に飛行する敵機に照準を合わす。
「来たな」
翔は彼女が照準を合わす為に隙だらけの運動を始めていることを見計らって、操縦桿を引き倒す。
その瞬間、火竜は一瞬ながらも鋭く急上昇。突然の回避機動に為す術もなく、アリスは翔から自分の有利な立ち位置を譲る羽目になった。
翔はペダルで左右を微調整して照準。
発砲。
放たれた赤いペイント弾はアリス機の優雅なボディにシミを作り出した。
「よっし」
無線からアリスは翔の歓喜の声を聞いて、自分の「模擬」戦死を通告されたことに気づく。
「また・・・負けちゃいました。帰投します」
ぐすん、と言わんばかりの悲しそうな声が翔に帰ってきた。そして、そのまま左に旋回。アリスは空母に帰投するのであった。
翔は編隊用の無線で自分の僚機のフランク・ウィルディ少尉とエド・エンフィールド少尉に問うことにした。
「イーグル3より4へ。そっちは?」
「非常にまっずい!!ってうほ!!」
フランクの激しい空中戦を物語る通信が帰ってきた。
今、彼らの相手をしているのは、イーグル小隊の隊長である一条明大尉である。卓越した空戦技術を持つ一条大尉とフランクの一騎打ちなど結果が見て取れる。
「どうする?翔」
背後から優しさを帯びた矢吹隼人少尉の声がする。翔はその声にこう返す。
「決まってんだろ?」
翔はそう言ってフランクに回線をつなぐ。
「フランク、今から援護しに行くから、何とか持ちこたえろ」
「サンクス、翔」
フランクは意外そうな声色で感謝の語を結んだ。
これまで、月に一回行われる模擬戦でただの一度も翔はペアの「援護」を行わなかった。いや、実戦でも援護という動作を行わなかった。
翔は「協力」という言葉を知らなかった。
「隼人、フランクの場所教えてくれ」
「了解、右斜め下の高度4000メートルの場所にいるよ」
「あいよ。今行くぞ」
「フランク、俺のカウントで急降下しろ」
「わかった!!ASAP(出来るだけ早く)でこい!!」
フランクと一条の二機を目視した、翔は右斜め下に緩い角度で旋回した。振り回されるようなGを感じつつ下方へ舞い降りる。
「5」
翔はカウントダウンを始めた。勝利か敗北かはフランクにかかっている。
模擬戦で翔は一度も明に一矢報えず、辛酸をなめる羽目になっていた。
今がペイント弾を彼に撃ち込む最高のチャンスなのだ。故に、フランクはその立役者なのである。
「4、3、2、1。今だ!!」
フランクはその声と同時に手を動かす。彼の愛機は超反応で機首を下げ、急降下を開始した。
案の定、一条機はフランク機を追うように急降下を同様に行った。
「かかった!!」
翔も一条機の背後に回り込める角度で降下を始める。その角度はやく70度と深い。
急降下を初めてから20秒。ついに翔は一条機の背後を取った。
すかさずに、目標をロックオン。有効射程まで、一気に距離を詰める。
「クソッ」
子供のような精神年齢を持つ31歳の一条大尉は小さくした打ちをした。
急降下の際には、緊急的な回避機動は出来ない。明は完全に翔の術中にはまってしまった。
「そこだ!!」
翔の声と同時に、電動回転のバルカン砲は模擬弾を分発6000の早さで吐き出す。硝煙と共に現れたペイント弾は時速1500キロの早さで飛翔。
的確に目標を射抜き、その本分を果たしたのであった。
一瞬の沈黙。
イーグル3と4が状況判断に要した時間は一瞬より少し遅い。そして彼らが正確に状況把握をさせたのは、一条大尉の通信だった。
「イーグル1より、3と4へ。お前等の勝ちだ。畜生・・・」
明の悔しさを噛み殺した声色は、「勝利通告」だった。
数秒後だった。2機のワイバーンのコックピットの中が歓喜の声で満ちたのは。
†
同日 23時02分
空母 J・グラフトン ハンガーデッキ
鼻を突くようなオイルの臭いが漂う、格納区画では多くの若者たちが昼もなく夜もなく働いている。
機体のメンテや整備を行うこの区画に隼人はいた。空で自分の命綱となる、愛機の様子を見に来たのであった。
「あ、隼人」
216号機の上部装甲板に那琥はいた。どうやら、尾翼の調整を行っている様子だ。
「整備ご苦労さん。調子はどう?」
「最高よ。特に油圧系統が・・・はぁはぁ」
艶めかしい声を上げ、尾翼に頬ずりする那琥を隼人は少し恐ろしく感じた。
「いや・・・機体じゃなくて、那琥の調子だよ」
「え!?あたし!?お腹空いた」
素直で端的な応答が帰ってきた。隼人はうなずき言う。
「良いよ、ご飯食べに行って」
「もう少しで整備終わるから待って。あと、フラップとエルロンの整備だけだから」
「ダメ」
「何でさ?隼人」
頬を膨らませ那琥は言う。那琥はゲームの最中にお母さんがご飯の召集をかけられた子供のような気分だった。
「お腹空かして、整備ミスなんてあったらたまったものじゃないから」
「あたしの腕を信じてないなぁ?」
そう言った那琥の腹部から情けない音が鳴り響く。
「行きなって。上官命令だ。食事した後に整備せよ」
少尉と准尉、どっちが偉いかは小学生でも解る。そして軍社会は命令が絶対。那琥は口を尖らせて言う。
「う~~職権濫用だ~」
渋々と那琥はステップを身軽に降りた。降りた那琥に隼人は優しく告げた。
「仕事熱心なのも良いけど、ご飯は食べないとね」
「心配してくれてあんがとう。あと、整備資料はあたしの工具入れの上にあるよ」
那琥は鼻をこすりながらいった。そして、そのまま格納区画をあとにした。
隼人は彼女の背中を見送った後、整備資料が置いてある工具箱へ歩み寄り、それを拾い上げ目を通す。
整備資料には、事細かに機体の異常や、エンジンの整備状況などが手書きで記されていた。
「那琥って、真面目なんだな・・・ん?」
隼人の耳に、何か美しい音が入る。
格納庫にはふさわしくない音。
隼人はその音に吸い寄せられるかのように、足を音の源に運び出す。
「何だろう?」
どうやら、その音は旋律を宿しているようで、歌声の持ち主は女性だと伺える。
整備区画の外のデッキがその歌声の発信源のようだった。しかし、デッキには声だけが響くだけで誰もいなかった。
「どこだろう?」
隼人は辺りを見回す。
すると一人の長い髪を持つ白衣を纏った少女を見つけたのであった。彼女は海の上に浮かぶ白銀の満月を眺めている。その長い髪は優しく吹き抜ける潮風でなびき、漆黒に輝いていた。
そして、少女は歌っていた。
透き通る清流のような歌声は、静かな潮騒と調和し美しい調べを奏でていた。
「あ・・・」
隼人は言葉を失っていた。声を掛けたいのに、声がでない。そして心臓は破裂せんとしないばかりに高鳴る。
「よう。嬢ちゃん。俺と良いことしないか?」
突然、彼女の背後に位置するハンガーデッキから酒瓶を持った白人の兵士が千鳥足で現れた。制服から海兵隊と推測される。
「え・・・イヤです」
彼女は小さな声で拒否の意志を表す。しかし、泥酔状態の男は乱暴に手首をつかむ。
「おらぁ知ってんだぜ。女のNOはYESって事くらい」
気味の悪い獣のような笑みを男は浮かべる。
「やめてください・・・!!」
少女はその手を振り払おうと抵抗するが、鍛えられた海兵隊員の腕力に勝など万に一つ無い。
「まずい!!」
隼人は走り出し、二人の間に割って入った。理由なんていらない。今、困っている人がいるのなら助ける。それだけだ。
「何しやがる!?」
男は乱入者に忌々しげに呪詛の言葉を投げかける。
身長165センチの隼人に対し男は180後半。冷静になった隼人の腰は軽く引けてきた。
「その・・・彼女嫌がってるじゃないですか!!」
「知るか。ジャップめ!!」
空いている手で隼人の頬を殴りつける。
鈍い音共に、隼人の小柄な体はデッキの手すりに叩きつけられた。そして、海兵隊員は乱暴に隼人の胸ぐらを掴み上げ、揺さぶりながら言う。
「来いよ!!海軍野郎!!」
「やらない・・・僕はお前なんかと違うから」
「ちっ」
海兵隊員は舌打ちをして隼人を手すりに突き飛ばし、そのままハンガーデッキへと消えていった。
「あ、あの・・・大丈夫ですか・・・?」
少女は叩きつけられた隼人に駆け寄った。
「僕は大丈夫から・・・君は?」
「大丈夫です。ありがとうございました・・・」
「無事なら良いんだ。じゃ」
隼人はおぼつかない様子で立ち上がり、その場を去ろうとした瞬間だった。
「あのっ!!」
「ん?」
「頬を怪我しています・・・良かったら手当させてください・・・」
隼人は殴られた頬に手を添えると、痛みと共に右手にぬるりとした、生温かい物の感触があった。
「あ・・・じゃ・・・お言葉に甘えて」
隼人はその場に留まることにした。
「座ってください」
言われるがままに、隼人はその場にあぐらをかいた。少女は膝を付き、白衣のポケットから消毒液を取り出す。そして、傷口にそれを噴射した。
一瞬の痛み。
その後、なれた手つきで傷口にバンドエイドを張り付けた。
「終わりました」
「ありがとう」
隼人は立ち上がり、その場を去ろうとしたが、少女は彼の袖を掴む。
「どうしたの?」
「最後に・・・お名前を訊きたいです。私・・・秋月亜衣です。あなたは?」
「え・・・僕は矢吹隼人。よろしくね。秋月さん」
「はい・・・矢吹さん」
顔を赤らめ、隼人そそくさと早足でその場から逃げるように去った。