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静から動へ

ジュストがフィオレに会いに来るのかと思ったら、フィオレを王宮に呼んで会ったらしく、こちらには来なかった。


平民の私が王宮に呼ばれるわけもなく、接点がない。


まあ・・このまま二人が婚約、結婚したらそれはそれで失恋したということになるのかしら?


マスターの顔が浮かぶ。・・・あれ?マスターってどんな顔してたっけ。人間として過ごしている年月とともに、マスターのことがぼんやりとしてきた。


でも、ちゃんと失恋しないとダメな気がする。


ランベルトは以前よりうちに来るようになり、毎回泊まっていく。


ルチアノと私とランベルトの三人でゲームして夜更かししたり、一緒に買い物に行ったり、ランベルトとは喧嘩にならない。私とルチアノが喧嘩しても、しょうがないなと苦笑して、より怒っている方の機嫌を直してくれる。


□  □


会うチャンスがないまま3年が経った。


ジュスト18歳、私は16歳。フィオレとは婚約せずに交遊はあるらしい。


まさか私を待ってる?記憶もないのに私に出会えるのを待っているのだろうか。


そんな風に考えると涙がこぼれそうになるから考えないようにしているのに、心のどこかで会いたいと希ってしまう自分が嫌でしょうがない。今までの人生でも憶えがある。思春期になると自分の心の揺れに敏感になってしまう。ホルモンの成長だと思えばやり過ごせると思っていたのに、たまに暴力的なほど感傷的になる。


「千回も繰り返し好きになってると、本能レベルで求めちゃうのかな・・」


いっそ決意をポイッと捨ててしまいたくなるけれど、何も私のわがままで恋愛しないと決めたわけじゃない。大切な人だからこそ、私以外と築ける幸せを味わって欲しいだけだ。


「千回も繰り返したら執着もかなりだと思うの」


執着を手放してみて欲しい。私としか幸せになれないわけじゃない。

今回無事に執着を手放してくれて、その上でまだ私がいいというのなら、もうそれでいい。


だから!今回は絶対に結ばれないんだから!

じゃないと、執着されているという執着を手放せない。

よし。センチメンタル終了。やっぱり夜は寂しい気持ちに囚われやすいわ。


何も動かないなら、私が動く。だてに千回も同じ人に恋をしてない。



□  □


「ジュストに会う方法?」


「ええ。何かないかな」


「会っていいの?」


「そろそろ動かないと失恋もできない」


「それはそうだけど」


「どこかよく行く場所とか・・パーティとか。平民が行けるパーティなんて限られてるけれど」


「うーん・・・。あ!それなら僕の家のパーティに来る?」


「公爵家のパーティに行っていいの?」


「その場合、君を僕の恋人候補として招待・・かな」


「え、いいの?」


「え、マリレーヌはいいの?」


「うん。候補でしょ?マナーならちゃんと守れるし、他にも候補呼ぶ?」


「いや、呼びたくない。君だけがいい」


「家の都合もあると思うから、他にも候補がいても構わないという意味できいたの」


「うん」


「私はまだ誰にも何にも応えられないけど・・いい?」


「うん。マリレーヌがいい」


「ランベルト」


「ん?」


「いつもありがとう」


ランベルトと二人で話し合って、もさいマリレーヌとして行くことになった。


「可愛いマリレーヌをジュストに見せるわけにいかない」


ぼそっと呟いたランベルトの独り言がしっかり聞こえて少し嬉しかった。


□  □


「さ、さすが公爵家・・」


地味なりにマナーを守ったドレスで眼鏡はかけたままルチアノと二人で門を車でくぐる。

招待状を渡し、案内されるのを待つ間に玄関を見回す。天井が高くて劇場みたいに広い。


「うわあ!すごいね」ルチアノが素直に驚いている。


いくらうちが裕福でも、こういう家の建て方をしようとは思わないだろう。

順番に案内されて入った部屋はさらに広く、招待客で賑わっていた。


「これじゃあランベルトを見つけるのも大変だわ」


「心配ないんじゃない?ほら」


ルチアノの目線を辿ると、ランベルトがこちらに向かって来るのがわかった。


「マリレーヌ!」


「お招きありがとう」腰を落として貴族的な挨拶をする。


「とても綺麗だ」


「お世辞でも嬉しい」


「君の眼鏡姿はお気に入りなんだ」


「うん」ランベルトが本当に気に入ってくれているのがわかる。


「後で両親に紹介するけど、まずは会場を見渡せるほうがいいよね?」


「ええ」


手を引いて誘われた椅子に座ると、上手く植物の影になっていて、入口やテーブル席を見渡せる。


「ここ、最高ね」


「だろう。わざわざここに用意させたから」いたずらっぽく瞳が光る。


「ルチアノはお腹空いてるか?」


「うん」


「じゃあ僕が戻るまでマリレーヌのそばで食べながら護衛してくれ」


そういって立ち去るランベルトの背中を見送ってから、入口をチェックする。

王族が来たらきっとざわめくわよね。

食べ物を乗せた皿を手に戻ってきたルチアノと、貴族の世界を目で楽しむ。

最近は貴族と結婚する平民も多く、だらしのない貴族は身分を剥奪されることもしばしば。

あと100年もしたらこの世界から貴族階級は無くなるだろう。


でも今はこのきらびやかな世界を楽しめる。

だてに千回分の記憶残ってないわ。


そんなことを考えていたら、玄関が騒がしくなった。

女性たちのはしゃいだ声が聞こえる。


ジュストのお出ましだ。

感想ありがとうございます。

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