Op.3『なんで私、逃げなかったの!?』……
彩ノは椅子に座るミカンを見てみぬふりをしながら、昨日友達から借りた文庫本の読みかけの頁を開きベッドに寝そべった。
彩ノは表面上普段通りに振る舞いながらも、その心中は全く穏やかではなかった。
(……なんで私、逃げなかったの!?)
彩ノの頭の中で同じ思考がグルグルと周り続ける。
もし、こいつが幽霊とかオバケなら、私が『こいつが視えている事』を悟られてはマズい!!
何故か彩ノはそう思ってしまい、『普段通りの態度を取る』ことを選択してしまったのだ。
(すぐ逃げりゃよかったぁぁ!!なんで私は部屋に残ってしまったんだ。……なんなのこいつ一体マジで!!なんで『ミカン』!?)
彩ノは心中の動揺をミカンに悟られぬように、ベッドに寝そべったままゆっくりと文庫本の頁をめくる。内容など頭に入ってはいない。
今日は土曜日だ。
父は朝から『ゴルフ』、母はママ友と『歌舞伎』を観に出掛けている。
二人共帰ってくるのは夕方の6時過ぎになるだろう。
ベッドの置き時計を確認する。
午後3時半……。
つまり、両親が帰るまで『2時間30分』。
その間、彩ノは『部屋の中にミカンの皮をした人外のおっさんがいる』というグレートにヘビーな状況に『一人で』堪えなければならない。
………