表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/70

二十六の章 イザの悪意、ツクヨミの叫び

 イワレヒコ一行の前で勢いを増して燃え広がる黒き炎。

 ヨモツの火である。普通の水では消せぬばかりか、勢いを増させてしまう。

「皆の者、離れよ。今から私が、この火を飛ばす」

 イワレヒコが剣を構えた。

「如何なさるおつもりです、イワレヒコ様?」

 タジカラが尋ねた。イワレヒコは炎を見据えたままで、

「この炎を、ウズメが元に飛ばす。ウズメに鎮めてもらうのだ」

「何と!?」

 タジカラはイワレヒコの途方もない作戦に唖然とした。ナガスネやスサノ達も驚愕している。

「そのような事、おできになるのですか、イワレヒコ様?」

 スサノが言った。イワレヒコはチラッとタジカラ達を見て、

「見ていよ」

と言い放つと、ブワンと剣を振り回した。

『たけひこ様、先ほどの手筈通りに参ります』

 ツクヨミが声をかける。

『わかりました、ツクヨミさん』

「我ヨモツのほむらを舞いに舞わせて届かせん!」

 ツクヨミの言霊が、ヨモツの黒い炎にぶつかった。言霊は炎の周囲の空気を捕らえ、炎を宙に浮かばせた。

「いざ行かん!」

 イワレヒコの声に合わせて、炎は遥か彼方へと飛び去った。

「おおお!」

 ナガスネ、スサノ、タジカラが、異口同音に叫んだ。クシナダはすっかり驚き、天を仰いだままである。

(す、凄い……。何たるお力)

『そして、ウズメ様にお伝え致します』

 ツクヨミは更に言伝ことづての言霊をウズメに放った。

『やりましたね、ツクヨミさん』

 武彦はホッとしたが、ツクヨミはまだ気を抜いていない。

『まだです。ウガヤ様が進軍、お止めせねばなりませぬ』

『ああ、そうでした!』

 イワレヒコは馬に跨った。

「さて、時が惜しい。行くぞ、皆の者! 父上をお止めせねばならぬ!」

「はは!」

 イワレヒコ、タジカラ、スサノに加えて、クシナダ、ナガスネと、オオヤシマの名立たる武将が一斉に馬を走らせ始めた。


 闇。一切の光が入り込まない世界。そこがヨモツ。イザ女王の支配する国だ。もちろん、彼らはそんな闇の中でも眼は見える。だから何も不自由はない。

「イザ様」

 ヨモツの国の兵であるシコメが跪いて報告する。シコメには性別はない。姿は半身が腐りかけた女性に見える。

「如何した?」

 女王イザ。その姿は美しい巫女。しかし、着ている服は全て漆黒。頭を飾る王冠すら黒。彼女に瞳はなく、眼は只黒い。長い髪は足元にまで及ぶ。

「ウカシめがしくじりました。如何なさいますか?」

 シコメの言葉に、イザはニヤリとし、

「大事なし。まだ我には駒あり」

「左様で」

 シコメは額ずいて応じた。


 その頃ウズメは、ツクヨミからの言伝の言霊を受け取っていた。

(何と、ヨモツの焔?)

 彼女はすぐさま、八百万やおよろずの神の中から、海神わだつみを召喚し、黒火を待ち構えた。

「ウズメ、如何したのですか?」

 ウガヤ軍の進撃を見ていたアキツが尋ねる。

「ツクヨミ殿が、ヨモツの焰をこちらに……」

 ウズメの言葉にアキツはハッとした。

「ウカシがヨモツの焰を運んでいたのというのか?」

「そのようです」

 ウズメは悲しそうに答えた。

「何という事を……。ヨモツ、誠に許し難し!」

 アキツは声を荒げた。そして、

「ウガヤ殿もそこまで参っておる。ウズメ、巻き添えにしてすまぬ」

「恐れ多きお言葉にございます、アキツ様。私はオオヒルメ様とアキツ様の御ためならば、いつでもこの命、差し出す覚悟です」

 ウズメの顔は真剣そのものである。アキツは目を潤ませ、

「ありがとう、ウズメ」

とウズメの手を握りしめた。


 ウガヤの軍は、遂にアマノイワトの前に到着した。

「如何致す、オモイ?」

 ウガヤは馬上から軍師オモイに尋ねた。オモイは跪き、

「イワトは大きな洞穴にございます。そしてその奥はヒラサカ、更にその奥はヨモツに通じております。焼き払うが宜しいかと存じます」

「そうか」

 ウガヤはニヤリとした。彼にとって、オオヒルメもアキツも、もはやどうでも良い存在なのだ。ヒノモトも軍が崩壊し、返す刀で攻め入れば、たちどころに滅ぶ。すでにオオヤシマの支配者は自分。そう確信したウガヤは、その心に鬼が棲み始めていた。

「火を放て。オオヒルメ、アキツ諸共、ツクヨミを焼き殺してしまうのだ!」

 ウガヤがそう命じた時、空からヨモツの黒火が降って来た。

「何事ぞ!?」

 ウガヤは狼狽えた。オモイも仰天していた。

(これはヨモツの焰? 何故それが天から?)

 さすがの彼にも何が起こったのかわからなかった。


「おお!」

 ヨモツの焰が進軍するウガヤ軍とイワトの間に降り、その行く手を阻んだのを見て、アキツとウズメは思わずそう叫んだ。

「お見事です、ツクヨミ殿は。ウガヤ様を止めました」

「ええ」

 ウズメは感動している。アキツはツクヨミの力に驚嘆しながらも、感謝していた。

「さて、ここより先は進ませぬ!」

 ウズメが降臨させた海神が、ヨモツの黒火を浄化する。黒火は海神を恐れるかのようにウガヤ軍の方へと広がり始めた。


「ええい、何じゃ、この火は!? 早う何とかせぬか!」

 ウガヤは黒火の恐ろしさを知らないため、兵達に消火命令を出した。

「陛下、これはヨモツの焰にございます。人には消せませぬ」

 オモイが慌てて進言した。

(冗談ではない。この私が、ヨモツの焰に焼かれて死ぬるなど、ご免被る)

「一度お退き下さいませ」

「ううう……」

 ウガヤは悔しそうにイワトを睨んだが、

「全軍、退け!」

と命じた。ウガヤ軍はヨモツの火に追い立てられるように後退した。


「ウガヤ様の兵が、立ち往生しておりますな」

 水に調べさせたクシナダが告げた。

「そうか。ヨモツの焰が父上を止めたようだな」

 イワレヒコが言った。タジカラはチラッとイワレヒコを見た。

(あれもまた、ツクヨミの力なのか? 誠に恐るべき男よ)

「イワト攻めは何としても止めねばならぬ。イワトが攻められれば、ヨモツが雪崩を打ってオオヤシマを攻むる事となろう」

 イワレヒコはそう言うと、また馬を走らせた。タジカラ、ナガスネ、スサノ、クシナダの順でそれに続く。


 ヨモツの女王イザは、ウガヤ軍とイワレヒコ達が接近している事を知った。

「時は満ちる。オオヤシマは闇に染まる」

 彼女はニッと笑い、闇の中に消えた。


「ぬっ?」

 ヒラサカで祈り続けていたオオヒルメが異変に気づいた。

「如何なる事か? 闇がヒラサカの向こうだけではなく、イワトの外からも迫っておる……」

 オオヒルメの額を汗が伝う。

「イザめ、何を企む……」

 彼女は唇を噛み、身体を震わせた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ