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十七の章 ナガスネのこだわり、オモイの野望

 武彦はイスズの部屋を出た。

「お待ちしておりました、たけひこ様」

 姿を消した状態のツクヨミが声をかけた。武彦はホッとして、

「ツクヨミさん、驚きましたよ。イスズさんがいきなり抱きついて来たんです」

「ほう」

 ツクヨミも、イスズがそんな行動に出るとは思っていなかった。

「元々、イスズ様とイワレヒコ様は、仲がよろしゅうございましたから」

「そ、そうなんですか?」

 武彦は、今後もあんな事があると、どうにかなってしまうと思った。

(で、でも、僕、あの時、好きな人がいるんですって言っちゃったな……)

 武彦はその時、自分が亜希の事を好きなのを思い知った。

(アキツさんを助けてあげたくなるのも、委員長に似ているからなんだよな)

 それでも亜希の事は「委員長」であった。


 アマノイワトでは、オオヒルメが休まずに祈り続けていた。アキツもその隣で祈っている。

(オオヤシマを覆う悪しき心が、多少は和らいだように思える。タジカラが退き、イワレヒコ殿がたけひこ様になられたからか)

 アキツが安堵していると、イワトの奥が鳴動した。

「何じゃ?」

 オオヒルメが祈りをやめて奥を見た。その先には、ヨモツとオオヤシマを隔てるヒラサカがある。そこを大昔、自分の命を投げ出し、封じたワの国の王がいた。

「ヨモツが、(うごめ)いておる。まだ何やら起こる兆しが見えるぞ、アキツ」

「はい、そのようで」

 アキツは立ち上がり、イワトの外へと向かった。

「ナガスネ、まだ諦めないのですか?」

 彼女は拳を握りしめてそう呟いた。

「たけひこ様、ナガスネをお止め下さい」

 彼女は武彦にその思いを送った。


 ナガスネは、ホアカリには何も告げず、軍を集結させていた。

「海伝いに行くは確かに良い案であったが、隙を突かれる恐れもある。残された道は一つのみ」

「はい」

 スサノとクシナダは、ナガスネを見つめている。

「どうなさるおつもりですか?」

 もう一人の賛同者であるウカシは、ナガスネの無謀な策を恐れているかのように尋ねた。

「アマノヤス川を越え、ヤマトの国に攻め入る」

 ナガスネの作戦は、玉砕覚悟のものだ。ウカシは呆れていた。

(やはり、潰れてもらうか、この能無し将軍には)

 ヨモツに通じているウカシは、女王イザの命を受け、ヒノモトの国を内部から焚き付けるのが役目である。彼は別に血を好む人間ではない。ナガスネ達が勝手に戦い、自滅してくれるのが一番楽な方法である。

「ナガスネ様、それでは兵共が無駄に死にまする。ここは一つ、我ら二人にお任せ下され」

 スサノが言った。ナガスネは、

「何やら策があるようじゃな、スサノ?」

「はい」

 スサノはニヤリとし、クシナダと顔を見合わせた。


 ツクヨミと武彦は、そのままイワレヒコの部屋に行った。

「このヤマトの城で心を許せるは、イツセ様とイスズ様とタマヨリ様のみにございます。決してそれ以外の方をこのお部屋にお入れなさいますな」

 ツクヨミは姿を現して武彦に注意した。

「はい、ツクヨミさん」

 言われるまでもなく、この部屋には誰も入れないようにしようと思った武彦だった。

「何やら、先程アキツ様の声が聞こえました」

「ええ。僕にも聞こえました。ナガスネをお止め下さいと言ってましたね」

 武彦は椅子に腰掛けて言った。ツクヨミはその前に跪いて、

「ナガスネは諦めの悪い男でございます。まだヤマトを攻むるつもりかと」

「そうみたいですね」

 武彦は腕組みして思案した。

「どうしたらいいのでしょう?」

「今日はひとまずお休み下さい。いくらナガスネでも、夜に攻め入っては来ますまい」

「そうですね」

 武彦はツクヨミの言葉にホッとして、

「お休みなさい」

と言うと、そのまま椅子で眠ってしまった。

「やはり、限りがあるようだ。たけひこ様をこちらに長くお留めする事は難しい」

 ツクヨミは、武彦が元の世界に戻ってしまうまでの時間を引き延ばせないかといろいろ考えてみた。



「あっ!」

 武彦は、急に声を上げて目を覚ました。

「どうした、磐神?」

 黒板に向かっていた年配の教師が振り向いた。

「す、すみません、何でもないです」

 武彦は慌ててそう言った。クラスの一同がクスクス笑う。亜希が振り返り、ムッとした顔で自分を見ている。

(うわ、委員長、怒ってる……)

 亜希は答え終え、椅子に座った。

(あれ、委員長が答えていた。僕はそんなに眠っていなかったのか?)

 ツクヨミが、武彦の時間のほんの一瞬を切り取って呼び込んだのだ。だから、武彦は本当に一瞬眠っただけだった。

(どういう事なんだろう?)

 それを説明されていない武彦には、謎であった。


「武君」

 授業が終わり、亜希が話しかけて来た。

「な、何、委員長?」

 武彦はギクッとして、亜希を見た。

「何よ、そんなにビクついて……。そんなに私って怖いの?」

 亜希は口を尖らせて尋ねる。そんな仕草も可愛い、と武彦は思った。

「そ、そんな事ないよ、怖くないって」

「本当に?」

 亜希はズンと顔を近づけた。思わず武彦は赤くなった。

「ほ、本当だよ」

「そう」

 亜希はニコッとして教室を出て行く。

「やっぱり、アキツさんとは違うよな」

 完全にドッキリ説はなくなったと思った武彦であった。

(ああ、委員長はともかく、姉ちゃんと顔を合わせるの、嫌だなア)

 姉の美鈴そっくりのイスズに抱きつかれた事を思い出した武彦は、姉と会うのが憂鬱になっていた。



 ヤマトの国では、ウガヤとオモイがウガヤの書斎で密談していた。

「やはりそうか」

 ウガヤは、オモイから、イワレヒコをツクヨミが操っていると聞かされていた。

「して、ツクヨミはどこにおるのか?」

「それはわかりませぬ。恐らくは、アマノイワトではないかと」

 オモイは跪いて答えた。ウガヤは立ち上がって、

「何としても、あの物の怪の策を破らねばならぬ。このままでは、ヒノモトに攻め込まれてしまうぞ」

「はは」

 オモイは頭を下げながら、ニヤリとしていた。しかし、ツクヨミはその密談を姿を消して聞いていた。

(やはり油断ならぬはこのオモイだ。何を企んでおるのか?)

 ツクヨミは静かに書斎を出た。


 ツクヨミの読みは外れていた。ナガスネは、わずかな兵を伴い、スサノ、クシナダと共に出立していた。ヤマトの斥候に気取られぬために、明かりを灯さず、まるで這うような進軍である。

「いくらイワレヒコが強かろうとも、隙を突かれれば一たまりもなし。勝利は我らにあり」

 ナガスネはそう呟いて、満足そうに笑った。

「我らは先に参ります、ナガスネ様」

 スサノとクシナダが告げた。

「うむ、頼むぞ、スサノ、クシナダ」

「はは!」

 スサノとクシナダは、夜目の利く馬に跨がり、先発した。

「すまんな、クシナダ」

 スサノが言う。

「何の事です、お館様(やかたさま)?」

 クシナダは(とぼ)けて尋ねる。

「このような、負け戦の道連れにしてしまった事だ」

「何を仰せです。まだ負けと決まった訳ではありませぬ」

「相変わらず、気が強い事よ、お前は」

 スサノは低く笑った。クシナダもフッと笑い、

「そうでなければ、お館様と夫婦(めのと)にはなれませぬ」

 二人は暗がりで顔を向け合い、笑った。

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