よい終末を 〜天国に一番近い舟〜
♠︎「ミスター。残念ですがご乗船できません。
レッサーパンダのつがいは、すでにリストにございます。
それでは、よい終末を」
♣︎「終末に良いも悪いものあるか!
俺は見てたぞ。前にいた奴らは、ネパールレッサーパンダだ。
俺はシセンレッサーパンダ、別種だよ!」
♠︎「……ほぼ、似たようなものかと。
舟のスペース、もういっぱいいっぱいなんですよ。
私見を申しますと、ジャイアントパンダがいるなら、レッサーパンダは、要らないんじゃないかと」
♣︎「横暴だな!目の下のクマ以外、あのクマと共通点ないから!」
♠︎「さらに言えば、オーナーが無理やり乗せたパンダトレノも要らない」
♣︎「そんなもん乗せてるから、スペースないんだろ!降ろせよ!」
♠︎「それはもう、本当に。
車はフィアットパンダだけで我慢しろと、何度申し出ても聞かなくて」
♣︎「オーナーどれだけパンダ好きだよ!
それだけ無類のパンダ好きなら、シセンレッサーパンダも乗せてコンプリート目指そうぜ!オーナー呼んでこい!」
♠︎「オーナーは留守ですよ。神と一緒に、休暇とってパチンコ行ってます」
♣︎「なに終末エンジョイしてんの?!
しかもパチンコって、せめて暴力教会みたいにベガスとか洒落たジョーク言えないの?」
♠︎「事実ですので」
♣︎「事実なんだ。なんかもう、ほんとガッカリだよ。
すっからかんになるまで負ければいいわ。
泣きながら、吉野家で最後の晩餐、食えばいいわ」
♠︎「明日には通貨の価値も無くなるので、ノーダメかと」
♣︎「なら、むしろなんでギャンブルするんだろうね。
こども銀行券で人生ゲームやるのと何が違うんだろうね。
なあ、頼むよ。乗せてくれよ!俺だけ特別にさあ、いいだろ?」
♠︎「……私に不正をしろと?
いいですか、ミスター。私は人間社会にウンザリでした。
文句は言ったもん勝ち、声の大きなものが優遇される世界、そんな現世に辟易しておりました」
♣︎「……でもよう。死にたくねーじゃん。きっと、先に来た奴らは家が近かったんだ。不公平じゃないか」
♠︎「チャンスは等しくありましたよ。
不満を言う前に、自らを悔い改めるべきです。
社会が悪い?世界が悪い?違う、あなたが悪いのです」
♣︎「そんなこと、言われてもよぉ。今更悔い改めても終末だし。
大体気に入らないから、世界作り替えるって、レゴランドじゃないんだから……」
♠︎「あーもう、めんどくさい!
まだまだ後ろ並んでるのに、時間取らせないで下さい。
いいよ、リストちょろまかすから、乗ってください」
♣︎「GO.NE.DO.KU!
次の新世界も碌なもんじゃないからな!断言する!
でも、ありがとうな!俺乗るから!」
♠︎「ちょいちょい!ミスター!
1人じゃ乗れませんよ。つがいが条件です。ツガイ、ワンペア、お分かり?」
♣︎「え……、つがいって、無理だろ。俺、彼女いた事ねーし」
♠︎「oh、ミスターチェリー。
大丈夫ですよ。このまま死ぬか、俺とまぐわうか選べと言えば、多分ついてくるでしょうよ」
♣︎「誰がミスターチェリーだ。あとまぐわうとか下品なこと言わないでくれる?
俺はな、昔、好きだった幼馴染に『世界にたった2人だけになったらどうする?』って訊いたら、
『悪いけど絶滅する』って言われた男だぞ。無理だろ」
♠︎「……、突然ですが問題です。
ミスターの歴代のご先祖様が例外なくできて、ミスターだけができないことなんでしょう?」
♣︎「……まぐわい」
♠︎「その通り!」
♣︎「ぶっ飛ばすぞ!」
♠︎「はい、はい。つがいは絶対のルールだから。
わかったら、さっさと向こう行って下さい。
では、よい終末を」
♣︎「くそが!ちくしょう……」
❤︎「あの……、お話聞いていたんですが、私ではダメでしょうか?」
♣︎「え!?話って、つが、つが、つがい?」
❤︎「はい」
♣︎「いいんですか?!」
❤︎「あなたが良ければ、私は、是非」
♣︎「お、お、お、お願いします。
お、お、おれ、シセンレッサーパンダのパン吉です!」
❤︎「私は、ネパールレッサーパンダのパン子です。
ちょっと亜種ですけど、いいですよね?」
♣︎「あれだけ言った手前、無理だ……」
馬鹿馬鹿しいお話にお付き合いいただき、ありがとうございます。