一国の王女ノフィナ
「ああどうにか出られないかしらここから…」
ノフィナはこう漏らす
『待て、いい事を思いついた』
ノフィンがこう言う。
『いい事?』
ノフィンは含み笑いする。
「何よ勿体ぶらずに教えてよ!」
『落ち着きのない娘だなお前のようなのはこうだ!』
グリグリ…。
「ひゃん!このっ!!」
グリグリされるもノフィナは尻尾を握って応戦。
『駄目…駄目…ふやぁ!!』
ノフィナの尻尾にもなっているノフィンはそこから物凄い勢いの水鉄砲を発射した。
ブシュウウウゥ!!!
「ノフィナ様、お食事に…きゃっ!!」
看護師がノフィナのそれにやられ、飛ばされる。
その勢いが強過ぎたのか、看護師はドアを打ち破り、外のガードにガシャリと当たり、その場でぐったりとしてしまった。
そして独特の臭いのする付着液に看護師の全身が塗れてしまった。
『あわわどうしようどうしよう……』
「これは…」
『とりあえず逃げよう…!』
ノフィナ達は逃げ出そうとする。
「逃がしません!!!」
そこで新たな刺客が現れる。
「シャム!どうして…!」
現れたのはノフィナの親友、シャムだった。
遊郭の場でシャムはいじめられ、部屋も占拠されると言う不遇ぶりだったがノフィナに助けられ、無二の親友となった。
そして短い間とは言え、二人は切磋琢磨して、協力し合ってきた。
そんな彼女はなんと科学者の出立ちをし、ノフィナの前に立つ事となったのだ。
「ノフィナさん、あの看護師は私が懸命に治療しますのでとりあえずはここに居ていただけませんか!?」
「それよりシャム、どうして貴女がここに…?」
「話すと長くなりますが…」
ーーーシャムが研究員となった経緯に遡る。
シャムはルギャを含めた先輩グループから激しい攻撃を受けまくっていた。
「はっはっはこの顔じゃ遊郭出来ねえな!!」
「ごめんなさい私は先輩の彼氏を誘惑しました…その罰は重んじて受けます…」
先輩に抵抗出来ないシャムは先輩達に土下座してひたすら謝る。
「これで気が済んだかいっ!?」
そんな時物陰からママが現れた。
タバコを吸い、相変わらずのママっぷりを見せる。
「シャム、もうお前はここにいる必要は無い、荷物をまとめて出て行きな!」
「で…でもそうしたら…」
深い事情があり辞める事が出来ないシャムだがママはこう紡いできた。
「アンタの事は守ってやるから、研究チームからアンタに惚れた人がいてそいつから連絡が来てるんだ、だからここにいる必要は無い!」
それを聞いたシャムは夢を見ているような感覚を覚えたと言う。
ここに身を落とした以上研究員の道は諦めていたが世の中どんな奇跡も、不幸もあるのかわからない。
そしてシャムは遊郭から身を洗い、長年の夢だった研究員となる事が出来たのだ。
「そう…夢が叶えて良かったね…」
ノフィナの瞳はしっとりと潤み、自分の事のように喜んだ。
『良いんですかノフィナさん?貴女はここにいるままなんですよ!』
ワイマは慌ててノフィナにフォローを入れる。
「コロナにかかったみんながずっと通ってきた道なんだ!それを私が耐えられなくてどうなるの?」
「その通りです、ノフィナ様にはもし仮にコロナが判明したら病棟に移らせていただきます。
ベッドの空きの事がありますので暫くはここにいる事になるかもしれません…」
シャムはあくまで事務的な態度で臨んだ。
「それでも構わないよ…」
ノフィナは快く答えた。
(辛くないと言ったら嘘になるけど私はリアナイ・パトリシカ・ガーランドと言う元はガーランド国の王女だ!耐えられなくてどうなんの!)
と耐え忍んだ。
ノフィナは気位の高い少女だ。こんな事でへこたれない、へこたれてはならないのだ。
「すぐに代わりの食事をお待ち致します」
シャムはそう言って怪我を負っている看護師を保護して代わりの食事を持ち出した。
(でも今後が心配だなぁ…)
暫くすると食事が来るのだが、正直喉が通らなかった。
何故ならコロナが判明されたら最後、ユグドやゾノミの悪夢も考えられない事ではないからだ。
『早くいただこうよ、僕もお腹空いてる』
「でも…色々心配で…」
グリグリ…「わ、わかった食べるから弄らないで!!」
ノフィナは食事を摂りだす。
『そうだよ!考える暇はない!オイラもいるから!!』
ワイマもそう言って餌を貪る。
「うんそうだね!」
ノフィナはとにかく食べた。
悩んだって仕方がない。これは成り行きでなってしまった事だ。
ーーー
その時シャムはとある男性と食事を取っていた。
「そう……君はそれ程ノフィナと言う女の子を気にかけてるんだね、確かにあの子は良い子だ」
何故知ってるのかと言うと何の偶然か、シャムを呼んだのはあの転売ヤーであり、転売ヤーも研究員を本職としていたのだ。
「しかし割り切って欲しい。君を研究員とする代わりにノフィナの「敵」となる契約を交わされたからには!」
「バイヤーさん…」
転売ヤー、バイヤーはキリリとした目となり説得した。
「僕もあの子の敵とならなくてはならないのは心苦しい…でも僕らの力ではどうにもならないから…」
「そうですね…」
シャムはガラスの向こうの夜景を見て心の中で詫びた。
(ノフィナさんごめんなさい…これより私は貴女の敵になります……)
バイヤーはルギャと恋人として付き合っていたが実質は言いなりとなっていた。
ただし恋は盲目と言うのか、ルギャ以外に考えられない状態となっていたバイヤーは転売ヤーとなってルギャにお金を放り込み、ルギャも私腹を肥やしていた。
しかししかし、心のどこかでは悲鳴を上げていて、研究員に戻りたいと願いまくっていた。
そこで現れたのがノフィナとシャムである。
そして奮闘によりルギャから解放され研究員の立場を取り戻す事の出来たバイヤーは研究所の所長にシャムを助けて欲しいと願い出る。
シャムは研究員の資格を持つ者にしか持てないケースを持っており、彼女も何らかの理由で身を落としていると睨んだからだ。
所長は言った。
「ケケケ、それならシャムにもノフィナとか言う小娘の敵になるよう言っておくが良い、ノフィナと言う小娘は儂の顔に泥を塗ったのだ!」
雷と同時にその所長のシルエットが映される。
その所長はなんとノフィナを奴隷にしようとしたヘルと言う男だった。
「わかったね?もうノフィナが何か言って来ても相手にしてはいけないよ?」
「はい…」
親友をダシにするのは辛いが、遊郭にずっといて惨めな毎日を送るよりはずっと良い。
それに自身の頭の良さを活かして研究に没頭出来る。
シャムはこの絶好の機会を逃したくは無かった。
『シャムへ、研究員としての夢を叶えられて私も自分の事のように嬉しいよ!私が夢を叶えられる日もそう遠くはないね!私は実は今は滅んじゃってるけどガーランド城の王女リアナイ・パトリシカ・ガーランド!実はお姉様から〜』
こう長々と送られたメール。
しかしシャムは既読無視を決め込んだ。
何故なら送ったところでシャムを研究員として迎えてくれたバイヤーや、ヘルにバレるのがわかっていたから。
「ノフィナに構うと研究員から剥奪するぞ、スマホのメールの情報もお見通しだからなっ!」
ヘルは闇に覆われた表情でシャムに告げる。
彼の背にはドス黒いオーラが漂っていた。
ノフィナちゃんの敵になるしかない!
シャムは追い込まれていた。
そうだ、別に親友なんて期待しない方が良い、それにバイヤーさんやヘルさんだってそうしている限りは私の事を大事にしてくれている。
だから私はノフィナの敵として接するだけだ。
シャムもまた「ビカァ!」と言う雷音と稲光とともに白のシルエットが浮かんだ。
ーーー
既読は付くが返事は一向に来ずどうしたものかと悩むノフィナ
『きっと忙しいんだ、無理に聞いたらかえって嫌われるよ』
「そうだね…」
ノフィナは待っていたが結局返事は一向に来なかった。
でもシャムが研究員になれたと言うだけでも幸せに思わなきゃ!
研究員にはなれたはずなのに元カレに脅されたばかりに遊郭で働かされてチャンスを奪われたのだから。
そしてそして先輩にいじめられてて遊郭の中でも肩身の狭い思いをして来たのだから。
彼女の研究員の立場を確立させた事によりノフィナにも何か奇跡が起こるのだろうとそんな感じにもなれた。
でもでも、こちらはなんだか体調がおかしい。
頭が痛いし息苦しさが止まらず、咳が続いている。
食事もくるのだが食べ物の味とかしない。
そうか、これがコロナと言う奴なのか。
『大丈夫?ノフィナちゃんにノフィンさんっ!??』
ワイマがキョロキョロして悲鳴を上げる。
その時ノフィナの携帯に着信音が入る。
「ゴホゴホ!シャムちゃん!?」
声はシャムだった。
『ノフィナ様、コロナ検査にて陽性である事が判明されました』
そんな…陽性!?
ノフィナは闇に突き落とされる感覚を覚えた。
そしてシャムは義務的な姿勢を崩さない、親友ならオーバーな程同情しても良いはずだ。
『つきましては隔離病棟ですが……』
「シャムちゃん…!どうしてさっきから無愛想なの!?私貴女に何かしたの!??」
ノフィナは咳き込みながら熱くなる。
事務的な態度のシャムに業を煮やしている。
『研究員は国民の命も預かっています、誰かが特別と言う訳にもいきません、コロナ罹患のリスクは大いにあると思いますがご了承願います!』
シャムはこう返す。
「ごめん熱くなっちゃった、でもお願い、私の情報は垂れ流さないで!私の事は良いけど今までお世話になった人達の顔は汚したくないもの!!」
『……わかりました最善は尽くしましょう、しかし私の力量ではそれは保証出来ない事と思っていただければと思います、それでは』
プツッ!
それだけ言うと有無を言わさずシャムは電話を切ってしまった。
どうして?親友なら最後に「頑張ってね!応援してるから!」の一言でも入るのに。
シャムちゃん一体どうしちゃったの!??
ノフィナの気の焦りはノフィンやワイマにも伝わる。
『ノフィナちゃん、残念だがコロナにかかると感染のリスクとかに敏感になっちゃうんだ!君がコロナを克服してほとぼりが冷めたらまたシャムとも仲良くなれる!だから今は耐えるんだ!』
ワイマはこう鳴いてきた。
(うんそうだよね、それにシャムちゃんなら絶対になんらかの形で私を助けてくれるはず!)
ノフィナはせめて期待は持つ事にした。
それが叶わないものであるとも知らずに。
ーーーいっぽう。
「ヘルさん、あの…」
「どうした?あの小娘を助けたいとか言うのじゃあるまいな?」
「い、いえ…」
「残念だが諦めるのだ、これは政府がそうしろと決めた事だからな!」
「は…はい…」
(ノフィナちゃん……ごめんね……)
ノフィナの思いも、シャムの思いもトップには伝わらなかった。
それどころか……。
「嫌だ嫌だ嫌だ!感染者がこんなに………俺はコロナにかかりたくねぇ!かかりたくねぇんだよお!!!」
首相は事もあろうにベッドに蹲り、汗をドバドバ流し、枕で頭をしっかりガードしていた。
「罹患者の情報は漏れなく流せ!この国にコロナを広めた人間は許すわけにいかん!!」
首相は罹患者の事情などそっちのけでコロナへの恐怖から全国のコロナ罹患者の情報を流すようにメディアに働きかけた。
それは更なる混乱と悲劇を生む事など、コロナに怯えまくりの首相にはどうでも良い事だった。




