不穏な空気
ワイマは夢を見ていた。
触手が追いかけて来る夢を…。
触手は不気味な畝りをあげ、ジュルリジュルリと物音を立てながらワイマを追いかけ回している。
ダダダダ…ワイマはひたすら決死の表情で逃げ惑う。
『ハァハァハァハァ…僕は食べても美味しくないよ誰か助けて!!』
しかしこの場にはワイマと触手しかいない。
触手は『グオオオオ美味そうな犬だ!!』と不気味な声を上げながらワイマをどこまでも追い回す。
ーーー
「………ワイマ…ワイマ!!」
『んあ?』
ワイマは夢から覚めた。
目の前には心配そうに見つめるノフィナの姿があった。
『あ、紐が解かれてる…』
ワイマはノフィナを男から救おうとしたが逆に押さえつけられ、グルグル巻きにされていた。
それを今ノフィナが解いてあげたのだ。
「私のために助けてくれてありがとう…」
ノフィナは涙をボロボロと流してワイマを抱きしめる。
そうされて、いきなりどうした!?
と言う感覚のみが今のワイマを支配する。
『や、やめてくださいよらしくない!』
ワイマはそうされて気持ちのやり場に困ってしまう。
……とその時。
「アンタ!いつまでそこでままごとやっているんだい!客人待たせてるんじゃないよ!!」
と女の怒号が響いた。
「はい……」
呼ばれるや否やノフィナはまるで感情も無いロボットのように立ち上がり、自分より背が高く出立ちの派手な女性についていく。
「全く最近の若いモンは!」
と女は難癖をつけながら少し乱暴にノフィナの手を引く。
『ノフィナさん!一体どうしちゃったんですか!??』
ワイマが慌てて引き止めようとする。
「私、ここで働く事にしたから……」
ノフィナは覇気の無い声でそう答える。
『冗談はやめてください!』
しかしノフィナは女に連れられて姿を消す。
ワイマはそんなノフィナにこうトドメの言葉を放つ。
『見損なったよノフィナさんっ!!!』
その時ノフィナは女について行きながらこう思っていた。
(ワイマごめんね…でもこうしてお金を貯めて行けば…せめてユグドさん達に恩返しは出来るから…)
『これで良いのかノフィナ…?』
ノフィンは戸惑った様子で聞いてみるがノフィナがその問いに答える事は無かった。
それから一
仕事を終えると自分の持ち場に戻り、ゴロンと横になるノフィナ。
そこでノフィンがノフィナに叱りを入れる。
『騙されて悔しいのはわかる!しかし悔しさをバネにするのが勇者だろう!』
「勇者なんてもうどうでもいいよ…」
グリグリ…。
「ひゃっ!やめてそこは…!!」
ノフィンはノフィナと体が同化しており、一部が体からはみ出している状態である。
それを良い事に拷問の意味も兼ねて体を畝らせる事による責めを行っている所だ。
グリグリを止めるとハァハァと息を立てる。
『僕もこんな事はしたくない、でもこのままじゃいけない事は君が一番よくわかってるはずだよ』
ノフィンは心を鬼にして言う。
「お願い、暫くはこうさせて…他に何して良いかわからないもの…」
ノフィンはこれ以上何も言わなかった。
(ここで働いている人の気持ちは今の私ならわかる…)
ノフィナは吹っ切れた様子だった。
希望が絶望に変わり、色々どうでもよくなった。
テレビが備えつけられているのでテレビをつけてみた。
『○○市の50代の男性とその家族が新型コロナにかかっており…』
ピッ、と見飽きた報道は変えるノフィナ。
そしてそして、気になるアニメに目が止まりそれを観る。
「ナポリタンやってる…」
姫紀と言うトラブルメーカーの魔法少女が料理屋を開きたいと意気込むが爺や他のキャラを巻き込んでしまう回だ。
前回はナポリタンが桃太郎世界にやって来てキヨちゃんと恋に落ちて鬼と戦うと言った話だったっけ。
それを観ていると憂鬱だった気持ちが一気に吹き飛ぶ。
まあいいか、ユグドさん達にお金を入れられる事が出来れば良い!
そしてそして、ノフィナはメールでお金を入れられる準備が出来た事を報告した。
身を売る仕事をしている事は後ろめたい思いから言ってない。
(ちゃんと言うべきかなあ?)
ともあれ後は連絡が着くのを待とう。
ーーー
『ノフィナさんには幻滅したよ!』
ワイマはノフィナといざこざを起こし、喧嘩をして出てきた所だ。
ゴミゴミしい街並みが続く。
ドブくさい異臭が漂い酔っ払いが千鳥足で右往左往している。
ワイマはとぼとぼと言った感じで歩いていたがある者と肩と肩がぶつかる。
『痛い〜骨折れちまった〜』
『おいそこのチビ!兄貴に謝ったらどうなんだ!』
相手は自分より体の大きい2匹の野良犬だった。
『ご、ごめんなさい…』
『ごめんで済んだら警察いらねえんだよ!500万払って貰おうか?』
『そ、そんなに!?』
『体で払っても良いんだぜ?』
ワイマを脅しだす2匹の野良犬。
(どうしようどうしよう!ノフィナさん助けて!!)
ワイマは祈るが肝心のノフィナが今はいない。
『ごめんなさああああああぁい!!!』
『あっ!逃げんなコラ!!』
2匹の野良犬は恐ろしい形相でワイマを追いまわす。
あっちに曲がりこっちに曲がり無我夢中で逃げるワイマ。
こうしてこうしてワイマはある隠れ場を見つけ、そこに潜る。
『くそーあの犬どこに逃げやがった?』
『まだ遠くには行ってないだろう、あっちを探そうぜ』
2匹の犬はちょうどワイマのすぐ近くに止まっていたがすぐさま向こうへと走って行った。
『ふう、助かった…でもノフィナさんがいないと僕にはこの世界は怖すぎる…』
命からがら何とか逃げおおせたワイマ。
しかしその時になってはじめてノフィナの立場になったときのやり場の無い気持ちが段々とわかってきた。
『そうか、ノフィナさんはちょうどこんな気持ちなんだ…』
一人じゃ何も出来ず、目の前にあるものを取り敢えず掴むしかなくなる。
ノフィナの場合は王女に戻れると言う希望を早速打ち砕かれたので尚の事だ。
ノフィナは一件のボロいアパートに、他の水商売の女性と共に敷き詰められて生活している。
そしてそして、ワイマも特別な許可が降りて住まわせてもらえる事になった。
そんなワイマが今ノフィナの部屋に戻った所だ。
「どこ行ってたのワイマ!?汚れているじゃない!今洗ってあげるからっ!」
ノフィナはシャワーを借りてワイマの汚れを落として洗ってあげる。
『ノフィナさん、さっきはごめんなさい』
一瞬え?と思ったがノフィナはすぐに目を細めた。
「気にしてないよ♪」
グリグリ
「ノフィン!?なんなのいきなりっ!」
『君はワイマに甘いんだ』
少しくらい甘くしてよ……そう思うワイマなのであった。




