9話
それから時は進み、入学式の次の日。
「おはよう。吾妻くん」
「お、おはよう。赤森さん」
俺は教室の自分の席に付き、隣の席の赤森さんと話していた。
「おはよう」なんて言葉、何年ぶりに言ったんだろう。
俺にとって数年ぶりの「おはよう」をこんな可愛い子に言えるなんて、人生何があるかわからないものだ。
「昨日は大変だったね。体調はもう大丈夫なの?」
「ああ、すっかり。心配させて悪かったな」
「本当?それならよかった〜!」
心の底から心配してくれてたのか、赤森さんはほっと胸を撫で下ろしている。
「ははっ、大袈裟だな。赤森さんは」
「そりゃあ心配もするよ。だって好きな人だもん」
「え·····好きな人·····?」
「ひぇ·····!?い、いや!違うの!今のはそういうのじゃなくて、大切なお友達として心配だっただけで·····!」
「そ、そうだよな·····!あはは」
やばい、一瞬でも俺に気があるんじゃないかって思った自分を殴りたい。
だって今の顔めちゃくちゃ可愛かったし!?あんな顔誰にでもしちゃうの!?なあ赤森さん教えてくれ!
俺は頭を抱えながら、脳内で一人会議を行った結果、こうやって勘違い男は増えていくんだなという結論にたどり着く。
「やあやあやあ、おふたりさんおはようっ!」
元気な明るい声で登場してきたのは、今日も眩しい笑顔を振りまく竹岡。
俺は何気なく時計を見てみると、遅刻ギリギリの時間だった。
「なあ竹岡っていつもこんなギリギリの時間なの?」
「ううん。さっき職員室で、入学式の途中で抜けちゃったこと怒られちゃってさ〜」
たっはー、と豪快に笑っているが、どう考えても俺のせいな気がして途端に申し訳なくなる。
「あ、陽くんのせいとかじゃないからそんな顔しないで!」
そんな俺を察したのか、竹岡は俺のせいであることを否定してくれた。
少し不穏な空気になったところを、赤森さんがすかさずフォローする。
「月ちゃんは、新入生代表挨拶とかやってたから、途中で抜けちゃうと先生にバレちゃうもんね」
「そうなんだよ〜全くも〜」
「でも、それだけ先生達も月ちゃんに期待してるんだよ。どうでもいい生徒だったら怒らないもん」
「期待·····?どういうことだ?」
赤森さんの発言が理解できなかった俺は、会話に首を突っ込んでみる。
すると赤森さんは、にこやかに俺の疑問点を説明してくれた。
「月ちゃんは大企業竹岡グループの社長の一人娘なんだよ!頭も良いし、運動神経も抜群って噂だし、羨ましいよね〜」
「え、竹岡ってそんなにすごいやつだったの?」
だから昨日一緒に登校した時、あんなに足が早かったのかと納得してしまう。
「そう、かな。あはは、ありがとう」
しかし俺の関心とは裏腹に、竹岡は少し悲しそうな顔をして、歯切れが悪い返事を返してきた。
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