しらたまさんとの小説その9?その後
好きな人とやることといえば…
言えないけれどあれではないかとは思う。
「今年も薔薇がきれいに咲いた。喜ばしいことだ」
「そうですね、伯爵」
不思議なことに幽閉された城は毎年四季が巡り、美しい花が咲く。
それでも私は、伯爵のお顔が世界で一番美しいと思っている。
庭を散策し、お茶を用意する。食欲の心配は二人共ないので完全に嗜好品だ。
「この間から何か言いたいことがあるようだが」
「…!!」
ハーブティーを思わず吹き出しそうになる。
「零はすぐ顔に出るからな」
面白そうにからかう伯爵。その笑った顔も美しいから言いづらいのだ。
「伯爵はわたくしのことをどう思っていますか」
「世界で唯一の私の愛しい方だ」
顔の温度が一気に上がる。
「あの…伯爵」
「どうした」
「そう思うなら…わたくしを抱いてくれませんか…」
「その行動の意味がよくわからぬが、零が望むならそうしよう」
…意外と簡単にしてくれるんですね…
そう思った途端後ろから抱きしめられた。
「我々は死体なはずだが…零は温かい」
…そうですね…確かに「抱いて」ますね…
伯爵の胸にもたれかかると、甘い香りと優しい温度に落ち着き、いつの間にか眠ってしまった。
起きるとそこは伯爵のベッドだった。一応自室はそのままだが、帰ってからはずっと伯爵の寝室を兼用している。というか、一緒に眠っている。文字通り「一緒に眠っている」だけである。
考えてみれば、伯爵はその存在が死体なので子孫繁栄という概念がないのだ。ということは、その行動の存在すら知らないのかもしれない。
これは…覚悟を決めなければ。
図書館で優雅に本を読んでいる伯爵を見つけるとすぐさまその本を取り去った。
「伯爵今日から勉強をしましょう」
「ほぅ、万物を知る私に何を教えると」
「人間の子作りについてです」
「…待て、それを知って何になる」
「万物を知っているのではないのですか」
「必要なことだけだ」
「これも必要なことです、まず女性は…」
「興味はない。私にはいらぬ知識だ」
そう言うと、伯爵は図書室から出て行ってしまった。
いきなり人間の子作りでは確かに納得が行かないかもしれない。しかし、まず子作りという概念を学んでもらわねば、そこまでたどり着けないのだ。
「零、今夜は満月だ」
いつの間にか横にいた伯爵がつぶやく。
満月。一番力が無くなる日だ。
抱き合ってお互いの首筋を噛み、血を貪る。
食欲の概念は全くないが、月の満ち欠けで力のあるなしは分る。
お互い行為を終えた後も、しばらくは抱き合ったままだ。
「…伯爵目をつぶってください」
「いきなりなんだ」
「いいですから」
「…こうか」
「…動かないでくださいね」
自身の唇を優しくゆっくり伯爵の唇に重ねる。時間をかけて離す。
「…零、私は何か変だ」
そのまま突き飛ばされて、伯爵は暗闇に姿を消した。
伯爵はほどなくして見つかった。というか私には分るのだ。これが眷族というものらしい。
なぜか使わなくなった、昔の私の部屋の床にうずくまっていた。
「伯爵…申し訳ございません」
「何を謝る」
「伯爵の望まぬことをいたしました」
「謝るのは私だ…」
いつもの堂々とした風格はどこへやら、まるでおびえる子供のような態度だ。
「何をわたくしに謝ることがあるのでしょう」
「…おそらく私は今零が殺した悪魔と同じことを考えている」
…知識がないのではなかったのか。
「私は知っているのだよ。城の者は皆人間だったからな。当然子供を作ることもあった」
「なぜ知らぬふりをしたのでしょう」
「私には愛する者が零しかいない。ならば零をずっと大事にしたかった。大事にしたかったから…こんな感情はあり得ないと思った。それに私は零の弟の話も覚えている」
床にうずくまる伯爵をそっと抱きしめる。伯爵の身体が震えた。
「伯爵…大事に思っていただきありがとうございます。でも弟は望まぬものに犯されたので、幸せになれなかったのです。わたくしは望んでいます。伯爵…あなたにこの身全てが愛されることを。わたくしは幸せ者です」
それまでうずめていた顔をゆっくりと持ち上げる。
「私は零にこのような感情を持って悪魔ではないのか」
「伯爵は伯爵です。どんな感情を持っていてもわたくしには伯爵に変わりはありません」
「ではこれから…」
「…お互い初めてなので優しくしてくださいね」