第8話
「ク、ククク……ハハハハハ!そこまでか?少年。」
俺が倒れている場所まで来た中村は気持ち悪い程の笑みを浮かべ、弥生に見せつけるように俺の身体を持ち上げた。
「見ろ!貴様の助けは見事に外れてしまったなぁ!?これだから………………ん?」
「どこを見ているデカ物。」
俺はTシャツを脱いで中村から逃れると、足に力を込めて勢い良く蹴り抜いた。
「ギャアアアア!!!な、なんだ!?その力は!?」
中村の腕は折れ曲がり、骨が皮膚から飛び出していた。その痛みから押さえていた弥生を放り出してしまう。
「キャアッ!」
「むっ。」
俺は放り出された彼女を受け止めると、少し離れた場所に置いた。
「ぬ、ぬぉおおお!舐めるなぁ!」
中村は折れ曲がった腕を押さえながらも、俺に向かってパンチをくりだす。
【避けるな、受け止めろ!】
避けようとする気持ちと反して、なんと俺はその拳を片手で受け止めてしまった。
「な、なにぃ!?」
「っ!?成る程………こういう訳か。」
【やっと理解し始めたか。そうだ、全身に硬い鱗があるイメージを持て。それは全てを本能で教えてくれる。】
自分の中にいる何かが、俺に教えてくれる。この身体の動き方を。
「ぬぅうう!!これならどうだぁ!」
中村は転がっていたバーベルを鉄パイプのように振り回し、俺に振り下ろした。
─────バギャッ!
バーベルが俺の脇腹に当たり骨が砕ける音がする。それに加え、鈍い痛みが襲ってきた。
【まだだ!まだイメージが正確じゃない!】
「うぅ………!硬い鱗…………硬い鱗…………。」
俺は
【全身に硬い鱗があるイメージだ、集中しろ。身体中に鱗が………龍のように硬い硬い鱗…………。如何なる攻撃や衝撃を防ぐ無敵の盾を………………。】
「はぁ!なぁに止まってやがる!隙ありぃい!!」
中村は立ち止まって瞑想している俺をめった打ちにしようとバーベルを振り上げた。
────ガキリ
先程とは違う音がした。目を開けると私の腕に当たっていたバーベルはグニャリと凹み、俺の腕は爬虫類のような真紅の鱗に覆われていた。
「なぁ!?なんだそれは!?」
中村の驚愕した声を無視して、俺は自分の身体がどういうものか確かめていた。
「成る程………。今度こそ理解した。たしかにこれはヤバい。」
身体の奥底からマグマのように溢れるエネルギーの脈動を感じる。力を出そうと、暴れようと訴えている。俺は目の前にいる丁度良い雑魚に自然と笑みがこぼれた。
「な、なにを笑っていやがる……………。」
「【さぁ?何でだろうね?】」
俺は四つん這いに近い体位になり、足に力を入れて飛び出した。
「う、うぉおお!!」
中村が足元に飛び出してきた俺を叩きつけようとするが、遅すぎる。迫ってくるバーベルを蹴り跳ねると、一気に中村に組み付き首を締め上げた。
「ぐぐぐぐぐ…………。」
「さぁ…眠りな。」
「んんぐぎぎぎ…………。」
「落ちろ!」
中々絞め落とせないのでさらに力を籠めると、首当たりからミチミチという音がし始めた。中村は、うっと言って動かなくなった。
「やっと、落ちたか。」
首から腕を外し、ぐったりした中村の下から這い出る。
「ふう。疲れたな。」
身体中に纏っていた鱗が元の人間の皮膚になっているのを確認した。
(さっきの力と声はなんだったんだろう。まぁ、後で考えるか。………そういや弥生はどこ行ったんだ?)
そう思ってジムの周りを見渡したが、ぐちゃぐちゃになった機材が散乱しているだけで、彼女は何処にもいなかった。
「うーん、先に逃げたのか?」
更衣室を抜けて、ジムの受付まで先程からぶり返した脇腹の痛みをこらえながら歩いていく。
「動くな!」
「誰か出てきたぞ!?」
「被害者の言っていたもう一人の奴のほうだ!」
受付には弥生やお兄さんはおらず、代わりに沢山の警備員のような人達と数人の武装した人間がこちらにシールドと銃を突き付けながら大騒ぎしていた。
「イチチ……。え、えぇ………なにこれ。」
「動くな!」
近くにいたオッサンに話しかけたら、銃を突き付けられた。初めて見る黒光りする銃はとても怖いものだった。
先程の自信は何処に云ったのか、俺は力なく座り込むと両手を上げて叫んだ!
「お助けー!俺は只の一般人だぁー!」
俺がそう言うと、武装した人達が俺を取り押さえた。
「よし!容疑者確保!早く手錠を!」
「止めろ、離せ!……っ!痛い痛い痛い!脇腹折れてんの!」
「大人しくしろ!」
「三人に勝てるわけないだろ!」
「痛い痛い痛い痛い痛い!」
俺の抵抗は虚しく、先程の力もできなかった為俺は腕を押さえられ、手首に冷たいものが嵌まる音がした。
「よし!15:48。現行犯逮捕な!」
「ほら、立て!」
「この痴漢野郎め!ムショでたっぷり反省するんだな!」
「ちょっと待て!俺は痴漢なんかやってない!」
「ハイハイ、犯罪者はみんなそう言って逃げようとするんだよ。話は後から聴いてやるさ。」
「ノォオオオ!!!」
彼等はおそらく弥生らが呼んだ警察だったのだろう。俺は大勢の警察に隠すように病院内を歩かせられ、外にあったパトカー(覆面)に乗せられ、連れていかれてしまった。
「俺は無実だぁああああ!!!」