第7話
あー疲れたわ。さっさと水飲んで戻ろ。
「へー。ここのジムってこんな給水場まであんのか。ほんといたせりつくせりだよなぁ。」
給水場は学校にあるようなチンケなものではなく、ホテルの一室にあるようなキャンデターに冷たい水とコップが並べてあり、端の方にはソフトドリンクまでついていた。
コップの一つを手に俺は水を並々と注ぐと一気に飲み干した。
「ぷハァ、給水完了。んじゃ戻りますかね。」
水を飲むと、さっきまでの疲れが嘘のようにはたと消えた。やっぱり水なんかも特別な水かもしれないな!
◆ ◆ ◆
「嫌ああ!!」
「ハッハッハッハ!やっと二人っきりになれたな弥生さん。」
彼が水を飲みに行って、ジムにいる人間は二人っきりになった瞬間。こいつは私を物凄い力で押さえつけて来た。
私は嫌悪感とおぞましさから叫び声を上げたが、ここは防音性の高いこの部屋はそんな叫びを消してしまう。
「ククク…!」
「こ、このぉ!」
念のために仕込んでいた対痴漢用小型ショッカーを取り出し、やつの肌に当てるとスイッチを入れた。USBメモリ並みの大きさだが、一撃で並みの人間がひっくり返るほどの電撃を与える最早凶器レベルのショッカーである。
「グァア……………なんてな!」
「そ、そんな!?なんで!?」
私は信じられなかった。あのショッカーを食らって動けるなんてあり得ない。
「フフフフ、2日前からこうしたかった!やはりこの力は最高だな!」
「やっ!」
やつは息を荒げながら私の胸をまさぐった。耳元にかかる鼻息と胸にある感触が気持ち悪る過ぎて気絶しそうだ。
「イヤァアアア!離して!」
「ハッハッハッハ!それは嫌だな!俺は今日でここを辞めることになったんでな!最後に楽しんでもバチは当たらないだろ!」
「こんなことして!あいつが帰って来たらどうするつもり?」
「かまわないさ。男はこういったシュチュエーションは大好きなんだよ!案外乗り気になるかもだぞ!?それに歯向かおうなら痛め付けてやるだけだ!見ろ!」
やつはそう言って片手で私を押さえながら目の前にあったトレーニングマシンを摘まむと、まるで粘土のように引きちぎった。
「嘘…………。」
あり得ない。人間の力で鉄棒を曲げることはできても、引きちぎることは不可能の筈だ。
「ハハッ。」
私の口からは最早乾いた笑いしか出てこなかった。無理だ、こんな化物に人が敵う訳がない。私の脳はそう判断したのか、抵抗する力を失った。
「おや?諦めてしまったか。それじゃあ心おきなく楽しめるなぁ。」
やつはニタリと笑うと私をストレッチ用のマットに寝かせた。
あぁ、私今からこの男に汚されるのか………。
私の人生はこんなことで終わるのか。女って、やっぱり悲しい生き物なんだなぁ。
「フーッ、フーッ、じゃあ頂きまーす。」
やつの手が私の下半身に手が触れそうになり、私が諦めの涙を流した。
「おやっ!?お楽しみ中でしたか!」
KYな声が響いた。それは私にとっては最高のタイミングで来た王子様のように見えた。その声に何故か力を取り出した私はありったけの力を込めて声をだした。
「た、助けて!」
◆ ◆ ◆
給水場から帰って来ると、弥生と中村さんがストレッチ用マットの上でまさにハッテンハッスルする瞬間だった。
「おやっ!?お楽しみ中でしたか!」
俺はついついそう言ってしまった。最悪だ、これ傍目から見たら二人の仲が良いとこになった瞬間に邪魔したKYじゃないか!
「な、なんだ、お前。もう戻って来たのか!」
「は、はい。なんかすいませんね。二人きりの良いとこ邪魔しちゃったみたいで。出ていった方がいいっすか?わかりますよ、はい。禁断の恋する二人ですよね?」
「えっ、…………あっ、そ、そうだな!そうしてもらえるとありが……。」
中村さんは片言で言って、俺に離れるように言った。寝かされていた弥生さんを見ると、こっちを泣き目で見ながら大きい声で叫んだ。
「た、助けて!」
「助けて?え、まさか強姦!?」
俺はやっとこれは純愛ではないと理解した。我ながらアホだな。
「…………………。警察呼びます?今ならセクハラで済みます。中村さん、自首は………。」
「この状況を純愛と勘違いするお前も、大概だと思うが………俺が自首すると、………思うかぁあああ!!!」
「わっ!?ぶっ!!」
中村さんは目にも止ま…………る速さで殴りかかってきた。俺は喧嘩なれしてないので硬直してしまい、まともに顔面パンチを食らって飛ばされてしまった。
「イヤァアアアあああ!!!」
「ふん、イキリイケメンは死ね!」
弥生の悲鳴と中村さんの声を聞きながら吹き飛ばされた俺は、沢山のトレーニングマシンを巻き込みながら壁際まで転げ回った。
(あれ、なんで俺無傷なんだ?それにさっきのパンチも痛くないぞ?)
俺は打撲の痛みに震えたが、それは幻痛だったようだ。俺はその現象にとてつもない恐怖心と、興奮に駆られた。
なんなんだ、これは?何か俺の身体にいるような感覚は?
【おい、おい。勘弁してくれよ。誇り高き龍と同化した化物が、あんな下級の性欲ゴミ野郎に負けるなんて、私は見たくないぞ?】
誰だお前は?俺じゃない?いや、俺の心の声か?
【私はお前でお前は私だ。どちらとも不完全な場所を補った仲だ。それよりも今は………。立ちな、戦い方を助言してやる。】
果たして彼の正体とは?主人公は一体何者なのか?