第6話
更衣室のロッカーでTシャツ短パンに着替えジムに出ると、弥生さんは既に着替えて待ってた。女性用のトレーニングウェアはぴっちりしていてとてもエロいが、何故かこいつには異性的なトキメキがわかないな?何故だろう。
「遅い。」
「お前が早いんだよ。遠足楽しみ過ぎるガキか?」
やっぱりガキっぽいからかな。こいつ背低いし。
「………………。」
痛……………くはないがまた蹴りやがったな。
「じゃあ、さっそくトレーナーさんに挨拶でもしようかね。」
二人でジムにいたムキムキのナイスガイなおじさんに挨拶しにいった。おじさんは俺達を見ると、持っていたダンベルを下ろしてこちらを見上げた。
「あぁん?お客さん?二人とは珍しいな。」
「はい。今日はよろしくお願いいたします。」
「そうかお前が、あいつが言っていた新規さんだな。俺はトレーナーの中村だ。中々綺麗な体つきしてるな。バランス良く鍛えていたのか?」
「まぁ、はい。」
本当は違うが、そういうことにしとこう。
「今回はリハビリということで、メニューとしては全て軽い重さで数をこなすタイプのトレーニングをする。まずは有酸素運動からだな。こっちにきな。弥生さんはここで待ってな。」
中村さんが、一緒に付いて来ようとした弥生さんを止めると、弥生さんは明らかに嫌そうな顔をした。
「何故?」
「いや、何故って弥生さん。貴方まだランニングマシーンはキツイだろ。本来、弥生さんのメニューは特別にカスタムされてるからな。君は普通のコースをやってもらうから。」
中村さんに言われてはなんとも言えないが、弥生さんは嫌みたっぷりに睨みつけた。
「…………お前嫌い。」
「そんな失礼なこと正面向かって言うなアホンダラ。」
弥生さん、もう弥生でいいや。頭をペチンと叩いて注意する。
「…………痛い。DV男め!」
弥生は頭を押さえてこちらを睨みつけた。
「お前と俺は赤の他人だから安心しな。」
「早く来てくれないか?」
中村さんが少しイラついた声で催促する。
「おっとすまない。じゃあ弥生、後でな。」
「……OK。まぁ、直ぐに会うでしょうけどね。」
俺はランニングマシーンの上に乗って、中村さんにスイッチを押してもらう。
「今回はリハビリだから、スピードは歩く程度にしましょう。ここのタイマーが10分になったら、呼んでくださいね。」
「了解っす。」
中村さんがスイッチを入れると足元のベルトがゆっくりと回転しだし、はや歩き程度のスピードをだす。まぁ、このくらいならまだまだ余裕だな。
もうちょい上げて………………おっ?!な、なんか止まらなくね?あり?ヤバいヤバい!?
◆ ◆ ◆
私は清水 弥生。訳あってこの病院に入院している。最近は病状も良くなったし、もうすぐ退院できるだろうと先生からも太鼓判を押してもらった。
そこから寝たきりだった体を元に戻す運動をするためにこのジムに通っているのだが、最近は嫌になっていた。
「じゃあ弥生さん。いつものようにマッサージから始めるかい?」
黙れセクハラ野郎。この前もそう言って私の尻撫でただろうが。
「い、いえ。結構です。」
「そう?じゃあ最初はストレッチからしようか。」
こいつだ。こいつは私のトレーナーとして来たのだが、いつ頃か私にセクハラまがいの行為をしてくるのだ。受付のお兄さんに何度も言ったのだが、彼もこいつには辟易しているらしく、何とか追い出したいが、この病棟を知りすぎており、解雇するには特別な事件がない限り難しいとのことだった。
だから、料金が払われている今月いっぱいまでは通うが、その後を払うつもりはない。
それに、今日は珍しく同年代?のお客さんが来ている。ちょっとムカつくやつだが、根は良さそうだし背も高い。何かあったら駆けつけてくれると願いたいものだ。
流石に近くに人がいる前ではあからさまにしてこないだろう。……そう思いたい。
「一…二…三……………。」
「はい、もっと手を上げてー。」
そう言ってやつは私の手を握ってくる。ゾワワと鳥肌が立つが、ここは我慢だ。
「は、はい。」
「──八、九、十。はい、オッケー。じゃあ次は前屈をやろうか。」
「はい。」
私が身体を前に倒すとやつは頼みもしてないのに背中を押してくれる。その時に脇あたりをまさぐるの止めてくれませんかね?
「────八、九、十。はい、オッケー。次はアキレス腱を伸ばして。」
「はい。」
アキレス腱のストレッチが一番気が楽だ。やつがボディタッチしてこないし。だけど心なしかこの時だけやつのカウントが早い気する。
「────八、九、十。はい、オッケー。それじゃあ………」
「中村さぁああん!止めかた教えてぇえええ!!!マシンの速度が上がり続けてて止まらないよぉ!」
叫び声が聞こえ、慌てて見るとあの赤髪の少年がランニングマシーンの上を恐るべきスピードで走っていた。手すりに掴まりもせずに唸るマシンの上を走れる人を見たのは初めてだった、
「服に着けたピンがあるだろ!それを外せ!そしたら緊急停止するから!」
やつも流石にヤバいと感じたのか急いで駆けつけていった。
「緊急!?スイッチぃ?!お、おっ!これか!」
少年がピンをTシャツから引き抜くとマシンの回転数は一気にクールダウンに入った。
「ハァ、ハァ、ハァ。止まったー。」
「全く、勝手にテンポを上げるからだよ。」
「は、は、は。そうですね。ちょっと水飲んできます。」
「そうだな。少し甘い飲み物でも飲むといい。」
「はい。じゃあちょっと失礼します。」
ふざけるな!私にとっては死の宣告レベルだぞ!?こいつと二人っきりとか最悪である。私も休むとか言ってずらかろうかな?
「あ、あの私も…」
「じゃあ弥生さん。ストレッチを続けようか。」
やつの顔は今まで見たことほど笑顔だった。その顔に私はとてつもない恐怖を感じていた。