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世界樹の門  作者: どら焼きドラゴン
第1章 変わる世界
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第5話

「それは……どういう意味なんです?」


 その疑問に葉倉は待っていましたとばかりに語りはじめだ。


「言葉の通りさ中島教授。彼は人間ではない。彼のDNAは人間のものとは全くの別物だ。科学者達も驚いていたよ。今まで見たことのない。全く新たな生物だ。」


「それで?私にそれが何の関係が?」


「ふむ。君はやはり余興話は嫌いなようだね。では、単刀直入に言おう。彼、古橋 竜鬼は約一ヶ月後日本科学研究所に移送したい。君には彼のサポーターとして、我々と協力して欲しい。勿論、これは政府から許可を取るつもりさ。」


「つまり、貴方方は彼を新たな研究対象にしたいのかい?」


「………そういうことだ。これを見たまえ。」


 葉倉が書類を中島に渡す。そこには古橋君の分析結果が書いてあった。


「ふーん。髪の毛は強度がバカ高く、皮膚片を乾燥させたものは強力な薬になる………か。薬ってのは抗がん剤か?今君たちが研究してたのは抗がん剤と次世代型兵器だろ?」


「まぁ、兵器の話は置いといて、彼の身体から取れる素材はすべて新素材。皮膚から作った薬は文字通り万能薬さ。しかも細胞寿命を若返りさせる力もあるんじゃないかと、期待されてるんだ。髪は軌道エレベーターのワイヤーに使えそうだ。」


「つまり、貴方方は彼を、古橋竜鬼を宝島と見てるわけだ。そんなことが許される訳がないだろ、彼は人間だ。言葉を話し、人間と変わらない身体をして、社会構造も理解している。私は彼の担当医師としてそこを譲る訳にはいかない。」


 僕は彼を人間と信じるつもりだ。葉倉とその仲間達はその言葉に噛みついてきた。やっと本性をあらわしたか。


「き、貴様!彼は人間ではないんだ!彼は新生物!人権なんて存在しない!」


「そうだ!そうだ!あれは人類の希望になるんだ!」


「この非国民め!日本の為とは思わないのか!」

 

 なんとでも言え、彼は戸籍だってあるし保険にも入ってる、彼は人間としてこの国に認められてきた普通の少年だ。それに、彼は僕の許可と彼の希望がない限り、退院や移院は出来ないきまりになっている。


 今回呼び出したのはその為だろう。全くもって馬鹿馬鹿しい話だ。君たち自身が、彼を人間と認めてるじゃないか。全く、時間のムダだったな。


「おい!何とか言ったらどうなん………。」


「僕は許可を出すつもりはないし、彼に本当の事を話すつもりだ。彼に聞かないで僕に聞くのはお門違いさ。本当に彼が欲しいのなら、彼自身に聞いてみるといい。」


 もう、言うことはないな。さっさと出ていこう。


「お、おい!待て!まだ話は済んでないぞ!」


「こっちは済んだ。」


「…………!中島ぁ!貴様、覚えておけよ!」


「嫌です。なんでそんな汚いオッサンの話を覚えなきゃいけないんです?聞くなら可愛い女の子の話がいいですねぇ。ハッハッハッハ。」


 僕は捨て台詞を吐く葉倉の言葉を切り捨てると、会議室の扉を閉めた。


「うーん、スポーツジムに行って身体動かすかぁ。彼にも色々話さないといけなくなったし。」


 ◆ ◆ ◆


 ハァー、お腹空いたなぁ。

 あれ全部食べても全然足らなかったしなぁ。

 どんだけ燃費悪いんだよこの身体。


 まぁ、いくらか動けば満腹感も来るだろ、なければジムに売ってるプロテインバー食べよ。


「あれっ?スポーツジムは何処だ?」


 カフェから出たはいいが、ここが何処かわからなかった。たしか、今一階だからエレベーターに行けばいいかな?

 早速エレベーター乗り場に行くと、そこには先客がいた。後ろ姿からしか見えないが髪を伸ばしているし、スカート姿からおそらく女性だろう。


「こんにちはー。」


「………………………。」


 挨拶をしたが、こちらをチラッと見ただけで彼女からは何の返事もなかった。その時見えた顔は中々美形だった。和風美人だなこの人。


 しばらくすると、エレベーターがやって来た。

 俺はそそくさと乗り込むと二階のボタンを押す。彼女も乗ってきたが、ボタンは押さなかった。どうやら同じ階に行くようだ。


 上にあがる独特の感覚のあとエレベーターを降りて、近くにある案内板を見た。


「えーと、スポーツジム……スポーツジム……。あっ、あったあった、直ぐ近くだな。」


「えっ…………。」


「うん?」


 声がしたので振り返ってみると、さっきの女の子がこちらを見ていた。正面から改めて見ると茶色いくりくりした目が特徴的な美少女だった。


「…………あなたもジムに行くの?」


「あ、ああ。そのつもりだが?………何か問題でも?」


「いや、問題ないわ。ちょっと驚いただけ。」


「そうか?そんなに運動したいって思うやつはここにはいないのかい?」


 やっぱりお偉いさん方やその子供達って、忙しいから運動する暇とかないんだろうか。


「そうね。多くはないわ。いつも貸し切りみたいだけどね。」


 そう言って彼女はクスクス笑った。


「そうか、ならじゃあな。俺は、久しぶりに身体でも動かすから。」


「あっ、待って。良ければ一緒に…………。」


 彼女はまだ何か言っていたが、面倒くさいので無視した。ああいう女の子はときめくだけ無駄である。


「こんにちはー。」


「はい、こんにちは。君は今日初めてかな?」


 ジムの入り口のドアをくぐると、受付には日焼けした茶色い肌を隠しもせずに見せるマッチョなお兄さんが立っていた。


「はい。取り敢えず、リハビリがてら身体を動かしたいんですが……。」


「ふーん。結構がっちりした身体してるみたいだけどねぇ。トレーニングとかやっていたの?」


「いえ、トレーニングはあまり……。」


「すいません、こいつは私と同じメニュー組んでもらっていいですか?」


 横を見ると、さっきの女の子が俺を指さしながらそう言った。


「あっ、弥生(やよい)さん。えっと?」


 受付のお兄さんは、弥生と呼ばれた少女と俺を交互に見ながら戸惑っていた。戸惑うのは俺だって同じである。


「えーと、じゃあ君もそれでいい?」


「いや、別でお願いします。」


 そう言った瞬間に脛に鈍い痛みを感じた。この女……。


「何か文句ある?」


「おおありですが、仕方ない。どうせ色々と動くつもりだったんだ。それでいいっすよ。」


「えーと、じゃあ二人ともリハビリCコースってことだね。じゃあ、カードキーを預かるから提出をお願い。」


「ほい。」


「えっ、なんでグリーンキー………。」


 ん?緑色の鍵は珍しいのか?よく見ると、弥生さんのカードキーは赤色だった。ふむ?フロアごとに違うのか?


「グリーンキーはたしか、最上階の特別治療室のカードキーだね。弥生さんのレッドキーは三階の治療室だったかな。」


 お兄さんはそんなことを言って不思議そうに俺を見たが、直ぐにハッとなって裏から一枚のTシャツと運動靴を出してきた。


「それじゃあ、トレーニング用の服とシューズは貸し出しするよ。見た感じ、持ってきてないだろう?今度からは自分で持ってきてね。」


「じゃあ、私は先に行くわね。」


「ハイハイ。」


 弥生さんが更衣室に行ってしまうと、お兄さんはすまなそうに謝った。


「ごめんね。最近はお客さん、彼女だけだったから寂しかったんだろうね。トレーナーも年上しかいないから、同年代の仲間が欲しかったのかもね。君もちょっと付き合って上げてくれないか?………だから、あいつ止めとけって言ったのに………。」


「いや、いいっすよ。皆悩みの一つや二つありますからね。」


 最後の方は聞こえなかったが、寂しくて俺は巻き添えを食らったらしい。

 全く、とんだ貧乏くじを引いたものだな。


 俺はそう思いながら、更衣室へと向かった。






















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