第19話
「………どうしたものか。」
飯を食い終えると、中島教授が残していった封筒を開き、中の書類を確認した。そして驚愕した。
日本政府は今、異能力者達に市役所に報告することを義務付けた。そして暫定的に政府が異能力者の能力をランク付したらしく、その力のグレードにあわせたナンバーと国民ナンバーを併せた新たな身分証明制度を入れたらしい。
嘘をついて登録しなかった場合、かなり重い罪に問われるそうだからかなりの人数が集まった。
しかも、その制度の中でも俺の能力の判定は──012。
今のところ変身系の異能力者は俺を除いても数人しかいない。その中でも俺は異質らしい。他の異能力者は変身するものが違いはあれどひと鳴きで雷を落とす狼であったり、炎を纏う熊であったり、風のような物凄い速さで奇襲を得意とする豹であったりと動物をモデルにしたかのような異能力者が多い。そりゃそんな中で1人だけドラゴンに変身しますとか、規格外にも程があるだろう。
それに、他の異能力者は能力を得てから人間の姿形が原型がなくなる程変わった人はいなかった。強いて言えば髪の色が変わったり、変身できる動物の特徴の一部が出たりぐらいだ。俺のように肉体が変わった奴はいないらしい。
話は変わるがそんな異能力者達は当選調子に乗っている。今までなかったファンタジーが、ゲームの中やアニメの中だけで子供達や大人達が望み、諦めていった能力が出てきたのだ。調子に乗らない方が可笑しかった。
能力の発現若しくは覚醒は、確かテレビによれば200人に1人の割合だと言われていた。
それが本当ならば、学校に能力者が1人から2人いると考えてみよう。全校生徒の中で自分だけが特別な不思議な力を持っていて、その力さえあればやりたい放題できる。後は言わずもがな解るはずだ。
そんな奴を見て、他の異能力者になれなかった生徒、大人はどう行動するか、答えは一つである。
──差別
なぜ俺にはない、なぜあいつが持っていて私にはない。……そんな羨みが恨みに変わり、最終的には批判、非難と化した。一部の学校や仕事場では吊し上げも起こったらしい。人は理解できない、したくないモノを排除したがる傾向がある。これは仕方ないことだったのだろう。
そんな軋轢が生まれることを事前に読んでいた政府は、ここぞとばかりに新たな法律を提唱した。
それが『能力者基本法』だ。
能力者を理不尽な差別や犯罪から身を守るというものだ。政府の用意した雇用で国家公務員の特別枠に入れるようにしたのだ。これには、民間企業が異能力者達を取り込もうとする動きがあり、特に国外からスカウトマンを送り込み異能力者を確保する動きに、対策として取り入れたようだ。
児童や中高学生に至っては、政府が新しく用意している学校に転校するということになった。異能力者が少ないならば逆に全員異能力者にしてしまうという動きだろう。当然俺もここに入る予定……なのだが、それこそが本題であった。
ここまで即事対応、対策したのは日本政府及び各業界のお偉方及びその子息、ご令嬢が異能力者として覚醒した者が多かった。偶然の産物ではあったのだが、そんなことは無能力者に受け入れられない。そこで彼らは自分の身の保身、子供達がやぐされてしまわないように、そのような場所を作り上げた。というか建設を始めた。
そして、これが一番悩みの種であるのだが、俺達のようなその中でもトップ100に入った奴等は特別な仕事が与えられた。
それは用心棒である。今、異能力者達だけの学校や職場を政府が提供し、差別をしないようにしているが、そのうちその場所さえも乗り越えて襲ってきたり、海外の連中が少年少女を拐って実験に……なんてこともあり得るだとか。
封筒の内容はその転校手続きと俺の保護者の変更。そしてその仕事を受けるか受けないかの確認書類だ。一応全部に目を通してみたが、ハッキリ言って面倒くさい。
「やっぱり、断るかな。」
考えをまとめると、会議室に向う。多少道に迷ったが、なんとかなった。扉を開けると、もう沢山の人が集まっていた。ちょっと遅刻してしまったようだ。
「すいません、遅くなりました。」
「いやいや、大丈夫だよ。まだ予定より早いだけだからね。じゃあ、あそこの席に座ってくれ。」
進行役らしき若い研究者のお兄さんが指差した席を見ると、俺と比較的同年代の人々が疎らに席に座っていた。どこに座ろうか考えていると、席に座っている奴等の中に見知った顔がいた。
「あ、隣いいかな。弥生。」
「ええ。勿論よ、龍鬼。」
彼女は快く答えてくれた。弥生さんの隣に腰掛け、周りを見渡してみる。
会議室は大学の講堂のように席が段々になっており、一番前にある発表台には滝雄さんと中島教授の姿があった。下の席には頭しか見えないがちらほらと研究者達の姿がある。ちなみに俺達の席は5段目の席だ。
「ねぇ、龍鬼ってどんな異能力を手に入れたの?」
弥生が小声で聞いてきた。
「あー、まぁ、なんだ。俺は変身系の能力だ。まだ力の加減や強さすらわからないがな。」
龍になれることは隠すことにした。明らかに異質な異能力だ。言うのは躊躇われた。
「ふーん。」
弥生はその答えに曖昧な返事をした。彼女の目がこちらを見透かすような感じがして、目を逸らした。なんとなく嫌な気分になったのだ。
「……観測終了。龍鬼、あなたの能力は変身系じゃない。それは嘘でしょ?」
「は?」
いきなり何を言ってるんだコイツは。
「だって私の異能力は解るの。他人の全てをね。あなたの異能力も当然解る。龍鬼の異能力は……あらゆる動物とコミュニケーションが取れるって能力の筈よ? 当たってるでしょ?」
俺はしばらく彼女の言葉の意味がわからなくなった。