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世界樹の門  作者: どら焼きドラゴン
第2章 異能力
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第16話

 

「GAAAAAAAARUUUUOOOOONNN!! 」


「な、何だ!」


「第7セクターからかだ! 収容違反か? 機動部隊を呼んでくれ!」


 ドラゴンの咆哮は他の実験棟や収容室にまで響き渡り、その声は地下室そのものに多大なダメージを与え始めていた。

 第7セクターから一足先に、もしくはほうほうの体で逃げてきた研究者達は執務室や談話室にいた仲間の元にたどり着くと、崩れ落ちるように咽び泣いた。


「化物が出た! 早く逃げないとこの地下室は埋るぞ!」


 一人の研究員が狂気染みた声で叫ぶと、場は騒然となった。いくら異能力者研究員と言ってもたった一週間前に創設されたばかり。危険マニュアルすらまだ製作段階であったのに、実験と同時平行でやった為に研究員はどうすれば良いか分からず、不安によるパニックに発展した。


「化物!? 何だそれは!? 」


「知るかよ! 早く地上へ! いや、シェルターか!?」


「資料が! 資料が!」


 そんな中第7セクターでは実験室に転落してしまった中島を助けようと滝雄は躍起になっていた。しかし、未だに暴れまわるドラゴンが猛威を振るい、飛び出した警備兵も風圧だけであっという間に吹き飛ばされてしまう。


「ぐぬぅ、なんとかならんのか! このままでは中島が死んでしまうぞ!」


 滝雄はなんとか機動している計測器や通信機を駆使し、部下に指示を飛ばしていた。


「今は無理です!」


「あれは!? コンバットタロットがあった筈だろ!」


「アーム系統の機器は破損しています! 反応ありません!」


「くそっ! なんとかならんのか!?」


「GAAAAAAAARUUUUOOOOONNN!!!」


 そう叫ぶ同時にドラゴンがこちらに向けて爪を立てる。金属が引き裂かれるような音が響き、滝雄は吹き飛ばされた。起き上がると、とうとう耐えきれなかったのか、強化壁が剥がれ落ちドラゴンがこちらを覗くように眼をギラつかせていた。


「ひぃぃっ。」


 縦に裂けた目で睨み付けられ、怯み上がった滝雄は悲鳴を上げた。

 壊された壁から早く遠ざかろうと足に力を入れるが、身体は反応してくれない。あまりの恐怖心によって生存本能が激しく刺激され、身体が混乱しているのだ。


 ──殺される。


 ドラゴンの顔が壁越しに見えた。滝雄は自分が無残に殺される姿を想像し、目を瞑った。


「……ん?」


 しかし、その衝撃はやって来なかった。おそるおそる顔を上げると、滝雄の目の前にはいつの間にか一人の少年が立ちふさがり、ドラゴンからの攻撃を受け止めていた。


「君は…。」


「話は後です!早く逃げてください!」


 滝雄が質問する前に少年は叫ぶ。足元を見るとジリジリとではあるが、少年の体が押されていた。こんな年端もいかない少年が、あのドラゴンの馬鹿力を押さえているのには驚きではある。しかし、今はそんな事を考えている暇はなかった。


「恩に着る! しかし君はどうする!?」


「僕があのドラゴンを押さえています! あなたはあの警報器を止めてください! ヤツはあの音に驚いて暴走していると思います!」


「あいわかった!」


 滝雄はいつの間にか感覚が戻っていた足に力を入れると、警報装置の前に走った。しかし、件の警報装置は先程の衝撃のせいか外装が吹き飛び、基盤が剥き出しになっていた。更にそこから伸びるコンデンサがショートしている為だろうか火花が飛び散り、とてもではないが素手で触れなかった。


「クソッ! 基盤がイカれてる! 何か別の方法がないか…。」


 滝雄は辺りを見渡し何か使えるものがないか探す。そしてふと散乱した机に目が止まった。


「これは…!」


 机の上に置かれていたのは手袋だった。おそらく警備兵のものだったのだろうが、何故かそこに置いてあった。


「これなら!」


 滝雄は手袋を掴むと腕に通し、その上から瓦礫とワイヤーの切れ端で即席の絶縁手袋を作成した。これならばしばらくは持つだろう。

 先ほどの警報器の前に戻ると、基盤の破損箇所をチェックする。


「頼む、頼む、頼む、警報器の解除装置の回路だけでも生きててくれよ。」


 背後からは絶えずドラゴンの咆哮と彼の少年の戦闘音が響いてくる。残された時間はあまり長くなかった。急いで確認していくと警報器とスイッチをつなぐケーブルが切れていることと、コンデンサがいくつか飛んでいたことがわかった。修理用の道具は生憎とない。これでは修理ができなかった。


「……クソッ! 切れてやがる。こうなったら……一か八か賭けるか。」


 滝雄は手袋の片方を脱ぐと、もう片方を更に包むように周りの廃材を集め強化した。手袋は鉄屑やシート、断熱材等の素材が剥き出しになり最早作業用というより凶器に近かった。そしてそれを装着した右手を大きく振りかぶった。


「うぉおぁおおおおおおおおおおお!!! とまぁれぃ!」


 素人のパンチにしては綺麗なフォームで警報器の基盤に当たった。

 金属を擦るような破壊音と共に、基盤や様々なパーツが弾け飛び、火花が絶え間なく飛び散った。警報器はしばらくなり続けていたがショートしたのか、はたまた誤作動を起こしたのか警報は鳴り止んだ。


「……やった。 止まった。 あっ、ドラゴンは!?」


「大丈夫です! ドラゴンは落ち着きました。」


 背後から声がし、滝雄が振り返るとあの少年がボロボロになりつつも満面の笑みで笑っていた。


「ドラゴンが落ち着いた?」


「はい!ドラゴンはあの警報が止まる少し前から動きが鈍り始め、今はほとんど動かなくなってます。僕の攻撃に堪えた訳ではなく自分から丸まってしまったんです。多分、エネルギー切れじゃないですかね?」


「……とにかく、今はもう暴れる危険はないと……。」


「はい。」


 少年の観察によるエネルギー云々の話の真偽は今追及する事ではなかった。滝雄はその場に崩れ落ちると、緊張が溶けたのか意識が遠退いてしまった。


「ちょっ!? おじさん!? しっかり!」















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