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僕の親友の通りすがりのオジサン。

作者: 七瀬




僕は、子供の頃から一人で何でも行動するのが好きだった。

誰かと一緒に、何かをするという事が苦手なのだ!


人に合わせるというのが、苦手な僕は。

家族の間でも、学校でも、仕事場でも人と合わせられない。


何かと一人でいる僕に、心配して話しかけてくれる人もいたのだけど?

・・・時間が経つと? 誰も僕に話しかけてくる人がいなくなったんだ。



僕は、仕事で溜まったストレスを発散する為に一人でいつも行く居酒屋がある。

___昔ながらの居酒屋だ!


店の中もこじんまりしていて、顔なじみのお客さんに優しそうなお店の

店主、そしてその店主を支える奥さんの二人でお店を切り盛りしている。



___僕がこのお店に行くと?

いつも、店の奥の角の席に一人で座る。

奥さんが、僕が入って来るのを見て、注文を取りに来るが。

僕は、いつも同じものを頼むので。


『あら? いらっしゃい~お兄さーんー! いつものでいい?』

『___あぁ、それで!』

『ちょっと、待っててね!』


___そう言うと?

キンキンに冷えた生ビールとお通しにその日は、【肉じゃが】だった。


『じゃあ~ゆっくりしていってね!』

『___えぇ、ありがとう。』




___その日は、何時も来る常連客のお客さんが何人かで来ていて。

お店の中で店主と一緒に楽しそうに話していたけど、、、?


・・・まあ、よくある事だ!

僕は、一人で生ビールを飲みながら、居酒屋に付いている小さな

テレビを見ながら、注文した焼き鳥を食べていたんだ。



___僕は、そのお店で2時間程飲んでほろ酔いになりながら家

に帰る途中。



駅の近くにあるコンビニの光が少し当たった道端に1人のオジサンが

缶ビール片手に、座り込んで飲んでいたんだ。


___僕は、そのオジサンの横を通り過ぎようと思ったら?

そのオジサンが、僕に話しかけてきたんだよ。


『おい! そこの兄ーちゃん!』

僕は気づかないフルをしていた。

『おい! 俺の声が聞えているだろう?』

それでも、僕は何も言わずに通り過ぎようと思っていたのに。

『おい!』とオジサンが僕の腕を掴む。

『___なんなんですか?』

オジサンは、僕の方を見てから夜空を指差したんだ。

『いい月じゃないか? お前はこの月を見てないのか?』

『___えぇ!?』

『お前は、ちゃんと月を見ているのかと聞いている!』

『___あぁ、見てませんでした。』

『こんなにキレイな月を見ないなんて! 人生損をしていると思わないか?』

僕もオジサンに、そう言われて月を見た。

『なんて! キレイな満月なんだ!』

『___そうだろう!』

『___あぁ!』



___僕は、何故か? このオジサンが気になるようになって。

いつも行く居酒屋の帰りは、このオジサンがいないか? 

コンビニの近くを通るようになったんだよ。


オジサンは、いつも同じ服に右手に缶ビールを持っていたんだ。

気さくに僕に話しかけてくれるこのオジサンだけは、なんだか凄く

話しかけられる事が嬉しかったんだよ。


___それから、僕たちは仲良くなって。

僕の家で、一緒に飲む事もあったのだけど。


『僕がオジサンに、今日はココに泊って行ったら? 帰るところ

あるの?』


___そう、僕がオジサンに訊くとね?

オジサンは、ただただこう言うんだよ。


『大丈夫! これでもオジサンは、1人でもなんとかやってるから!

お前さんに面倒見てもらうほど落ちぶれてないよ。』

・・・ってね!




___ただ、僕はオジサンが心配だっただけだ。

同じ服で髪もボサボサだし、お風呂にも入ってないような臭いもするし!

日雇い労働者に間違いないと思うから。


その日暮らしで、寝どこもビニールシートのおんぼろな家なんじゃないかと。

夏はクソ暑い中、扇風機もないところでいるんだろうな。

冬はクソ寒い中、あんな薄ぺらいビニールシートの中で凍え死んじゃうん

じゃないかとね!




___僕は、オジサンの事を何も聞かないようにしているんだ。

聞かれたくない過去だってあるだろうしね。


___ただ、このオジサンだけは! 僕にとって特別な人だから。

心配で、何度も僕はオジサンにこう言ったんだよ。


『ねえ、オジサン! オジサンが良ければココで一緒に住まないか?』

『___えぇ!?』

『___ずっと考えていた事だよ! オジサンの事が心配だからさ!』

『・・・あぁ、ありがとう。でもな! 俺はやっぱり一人で自由気まま

に生きてきたから、この生活がいいんだ! 別にお前が嫌いな訳じゃな

いんだよ!』

『そんなの、分かってるけど?』

『___そうか! たまにこうやってお前と会ってココで一緒に飲みな

がら話ができるだけで、俺は幸せなんだよ。』

『___ううん。』



___オジサンといる時の僕は、誰といるよりも居心地が良くて。

幸せな時間を過ごせていたんだよ。


___今まで、ずっと一人がいいと思ってた僕が。

オジサンといる時だけ、癒されていたのかもしれない。






___でもオジサンと知り合って10カ月と23日...。

とうとう、オジサンと会えなくなってしまったんだ。


いつも行くコンビニの近くにも、オジサンが住んでいる河川敷にも

何処にも居なくなってしまったんだ。


・・・僕の家にも、もうオジサンは来ない。

【___オジサン、どうしちゃったんだろう?】



___僕が、そう思っていると?

テレビの朝のニュースで、オジサンらしき人の話をしていたんだ。

河川敷のビニールシートの中で、浮浪者の男性が冷たくなって亡く

なっていたって。


___きっと、僕はオジサンだと思ったんだ。

そこは、オジサンが作った河川敷にあるビニールシートの家だと思ったから。


___そう言えば?

新しい場所に新しい家を作ると言っていたけど。

まさかな、“亡くなってるなんて。”



『僕のたった一人の、親友の通りすがりのオジサンだったから。こんな風に

なって、僕は寂しいよ。一人よりオジサンといる時間が僕にとって大事だと

初めて思えたからね!』







最後までお読みいただきありがとうございます。

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