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P•I•O

作者: はち

  落ち着いて聞いて欲しい。まず、一言言っておこう。私は変態ではない。普通の一般男性である。

 人並みに生活して、人並みの給料を貰い、人並みの嗜好を持つ。どこにでもいる村人Aなる存在が私です。

 そんな私が、会社の健康診断を受ける。何の問題があるだろう。何の問題もない。

 だが、私は村人Aでありながら、特殊な事情を持っている。

 実は、父親が再婚して、いきなり13歳の妹が出来たのだ。


 その妹が可愛いんですよ。もう、本当にかわいい。とてつもなく可愛い。

 13歳という反抗期でツンケンする時はあります。冷めた瞳で「近寄らないで」とか「殺すぞ」とか言われるのは、良いんです。ごほうびです。そういう口癖だけではなく、中学生という学生らしく、髪も染めず、眉も剃らない。おまけ眼鏡を着用している。

 ポイント高いでしょ。妹。

 そんな可愛い妹だからね。彼女の使った箸を消毒(レロレロ)するのも兄の仕事だ。仕方がない。お兄ちゃんの責任は重大です!


 それだけではない。私は、兄としての大きな役目がある。

 それは、悪い虫がつかないよう常時観察すること。女は隠し事が上手い。男は女の浮気を見抜けずとも、女は男の浮気を見抜くカンを持っている。実母は、父の浮気もすぐに見抜いた。

 私は男。しかも、女性経験が非常に乏しい。そんな私は、妹の隠し事をカンで見抜くことは出来るだろうか。いや、出来ない。では、どうすれば、妹に悪い虫がついたかついていないかを確認するか。

 これは、先輩の話であるが、女に男が出来ると、まず変わるのは「下着」らしい。

 白いショーツがレースつきのTバックになったとか。ブラジャーがベージュから黒になったとか。そういう変化があるという。

 だからまぁ、兄である私が日々妹の下着を観察したり。被ってみたり においを嗅いでみたり なめてみたりするのは、妹に悪い虫がついているかどうか確認するため、当たり前の事なのだ。

 生まれてくる赤ちゃんとお母さんの絆作りの一環として、妊娠中の母親が自身の胸にガーゼを当て、生まれてきた赤ん坊に自分の匂いを覚えさせるように、兄と妹の絆づくりとして、妹の下着に兄の匂いを込めるのに何が問題があるだろう。赤ちゃんとの絆作りとなんら変わりはない。


 安心しろ私。そうだ。私は普通の事をしている。妹の下着を穿いていたとして問題ないはず。どうしてだろう。更衣室の中、動悸のような息苦しさが私を襲っている。

 あぁ。わかっているんだ。妹のパンツを履いている。こんな事、一般人(勇者達)は理解してくれない。理解されない中、酸味の強い2日間履きっぱなしの妹のパンツを履いている私は、どういう顔をして健康診断を受ければ良いのだろう。

 私は、狭い更衣室の中、膝をおり、天に向かって祈りを捧げた。

 おぉ。神よ。私をおたすけください。ただ黄ばみの強い妹の使用済みパンツを履いてちょっとだけ舐めちゃった罪深い私をお救いください。

 天への静かな祈りを捧げると、神は応えた。一筋の光が、私のバッグに注がれる。私は、光が射す物を漁ってみた。すると、そこには、私の商売道具がある。私は、即座に神が意図する事を理解しました。


「おぉ。神よ。感謝いたします」



「近藤さまー。Aの診察室にお入り下さい」


 私の番だ。頭がツルツルピカピカに禿げ上がった先生は、私を見ると、とても驚いた表情で私を出迎える。そう。私の姿をみた人は、皆、先生と同じような顔をするのです。


「先生、何か?」

「き、君。ど、どうしてオムツなんかを穿いているのかね?」


 今日、この健康診断で何度も聞いた問いだ。看護師にまで聞かれた。上半身は白シャツ。下半身はオムツ。正確には、パンツ インザ オムツ (略して PIO) 


「先生。私は、介護オムツの製造会社の社員です。私は、会社のオムツがどれだけすばらしいかを広めるために働いていました。しかし、私は疑問に思いました。どうすれば、自社製品の良さを伝えられるのだろうかと。本当に、弊社のオムツが良いというには、実際に他社のオムツを履き比べ、比較しなければなりません。私は、この健康診断、2回ほどオムツを履き替えました」


 私の股間に熱がともる。パンツを守るオムツに蒸れが生じ出した。


「もう、それだけで、弊社の商品と他社の商品の違いが理解できています。現在、激しく蒸れています」

「近藤さん、あんた漏らしているのかい?」

「まさか。漏らしていません。勿体無いですし」

「そうですか」


 当たり前です。妹の排卵日と思しきパンツを私の小水で汚すなど、もってのほかです。


「先生。オムツは履かなければわかりません。違和感や吸収性。ウエストサイズの合わせ方。パンツ型とテープ型。何がどう違うのか。これらは、実際に利用しないとわからない事ばかりです。私は、売る側の視点しか持っていませんでした。使う側と使用する側。この視点に齟齬があれば、不快にしかならない。そうです。私の役目は、使う側と使用する側の潤滑油として、視点の齟齬を生じないようにするのが、私の本来の仕事なのです。オムツを履かずに、一体、オムツの何が言えるというのですか」


 力説する私をよそ目に、先生はカルテに何かを記載している。一体何を記載しているのだろう。もしかして、PIOがばれたのか。いや、それは断じてありえない。今、穿いているオムツは薄型軽快型パンツではなく、もっと本格的なものだからだ。ばれていない。妹のパンツを穿いているなんぞ、断じて――。


「近藤さん。とりあえず、紹介状書いておくから。働きすぎかな? 少しリラックスしたほうが良いと思いますよ。お大事に」


 あぁ。引っかかってしまった。今まで健康優良児だったのに。ガックリとうな垂れる私。待合室の外では、色々な視線が私を刺す。

 彼らの視線をみて、激しい疎外感を感じる。


 普通のパンツを穿く人と、PIOの僕。


 (僕は普通なのに、どうして、世間はこうも冷たい視線を注ぐのだろう)


 僕は近藤。 妹の初潮を受け止めたパンツを探す兄なり。


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― 新着の感想 ―
[良い点] PIOの破壊力が抜群すぎます!笑 私も変態の自覚ありますが、主人公の変態さに完全にひきました……笑 世に出したらダメな奴やん!!! [一言] 引くくらい笑いました。
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