真実の鏡
「鏡よ、鏡、鏡さん。この世で一番美しいのはだあれ?」
女性は、大きな鏡に向かって話しかける。
「奥様は、また鏡に向かってぶつぶつやってるのかい」
「そうさね。ここのところ、ひどくなっていやしないかい」
「今でも歳の割には小ぎれいにしているのにね。昔にちやほやされてたのが忘れられないのかね」
「自分が一番じゃないと我慢ならないんだろうさ。嫉妬だよ、嫉妬。若さへの嫉妬。残念だねえ。今、街で噂になっている美人の若娘さんの話なんて聞いたら、許せなくって、暴れだしちまうんじゃないかい」
「本当に、わたしたちもいつまでここで働くかね。今はまだ鏡の前でにやにやしているだけだからいいけど、あんまりひどくなるようなら、もう付き合ってられないよ。何か問題を起こしたりなんかしないか、気が気でない。なんだって、こんなことになっちまったのか。」
「そりゃあ、鏡は、真実を映し出すものだからね。世界をそっくりそのまま反射する。だからこそ、自分が見たいものだけ見えるんだよ」