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ブラックサンタの復讐

曇った空から雪の気配を感じるこの季節。

いつも決まって子供達は皆あるモノを待ち望み胸を踊らすのだ。



5歳の少年、ハミリアもその1人だった。

穴の空いた靴下も家の壁に吊るした。

欲しい物を書いた紙もポストにぶち込んだ。

『ゲームボーヤエクストリーム』

そしてその宛先には拙い字でこう書かれていた...


『サンタクロースへ』と...。



そしていよいよ12月24日...時刻は22時を回っていた。


「母さん、サンタさん本当に来るかな!?」

ハミリアは寝付けず、何度も飛び起きては母にそう尋ねた。


「...。」

しかし母は何も答えず俯くばかりだった。

そして、彼女は最後にこう言った。


「ほら、早く寝ないと...良い子にしてないとサンタさん来ないよ。」

「うっ、そうか!!やばっ、お休み母さん!!」


こうしてハミリアはやっと眠りについた。

だが次の朝...。


「無い!無い!...母さん、プレゼントが無いよ!?」

泣き出しそうに家具をひっくり返して回るハミリア。それを目で追いながら彼の母は小さく呟いた。


「ウチは貧乏だから...。」

幼いハミリアにはその意味を理解できなかった。

「嘘だ嘘だ!!だってサンタさんは全ての子供の所に...嘘だ...。」



するとハミリアの母はゆっくり彼を抱き締めた。

「ごめん...ごめんねハミリア...!」

「嘘だ...だって...。許さない、サンタなんて...。」


ハミリアはいつまでも泣き崩れた。




それから20年。

彼も大人になった。

だが、何年経ちどれほど成長しようと...変わらない事があった。


...サンタへの怨念だ。



そして今年もクリスマスのシーズン。

またも日は12月24日をまたごうとしていた。


「いよいよこの時が来た...。サンタ、てめえへの恨みは一瞬足りとも忘れた日はねえ。...復讐だ。」

意外とよく似合ったサンタ衣装にハミリアは身を包んでいた。しかしそれは従来の物とは少し違う。

色が赤ではなく、黒だった。


「このブラックサンタが一日でてめえの評判を地に落としてやるぜ...まずは手始めにこの街からだ!」


かくしてハミリアは夜の街へ繰り出していった。




ほのかにイルミネーションを飾るアパートの一室。

そこでもこの日、何処でも見られる光景が繰り広げられていた。


「ママ!ぼくサンタが来るまで起きてるよ!!」

鼻を垂らした少年が目を充血させながら叫ぶ。


「下らないこと言ってないで寝なさい。心配しなくてもサンタは来るわよ。」

母親は苦笑を浮かべながら彼を窘めた。しかし少年は引かない。


「...サンタさんって煙突から来るんだよね?ウチ煙突なんて無いじゃん!?大丈夫かな!?」

「そういう家には窓から来るのよ。ウチだとそこのベランダから...。」


母親がベランダを指さそうとしたその時だ。


がしゃん!!

何かが倒れるような大きな音と共に、その男はベランダの窓を開け現れた。


「やべ、ハシゴ倒れちまった。帰りどうしよ...まあいいか。メリークリスマス、ブラックサンタ参上だぜ...!」

そう言いながら、黒の風呂敷を担いだ黒ずくめの不審者は家の中に入って来た。


「ひっ、泥棒...!?」

母親が後ずさりするのを他所に、ブラックサンタは硬直する少年にゆっくり歩み寄った。


じわり...じわり...。


「トーヤ!危ない、逃げて!!」

悲鳴虚しくブラックサンタは少年の目の前に到達する。...すると彼はどさりと風呂敷を下ろした。

がさごそり...。


ブラックサンタはこれまた真っ黒いリボンで締められた、真っ黒い箱を取り出すと...それを少年に手渡した。


「ほらガキ...プレゼントだぜ。」

「えっ、あっ...ありがとう。」

少年はキョトンとしながらその箱を受け取った。

ブラックサンタは小さく微笑むと、風呂敷を持ち上げた。


「待って!お兄さんはサンタなの...?」

少年が尋ねると、その男は歯を見せ邪悪に笑った。


「違うな...俺はブラックサンタだぜ。今年はサンタの野郎に出番はねえ。」

そう言うとブラックサンタは目の前で呆ける少年の頭をポンと撫で部屋から去っていった。

帰りは玄関から...。




サンタの衣装に身を包み非道の限りを尽くして、サンタの評判を地に落とす。

当然その考えもハミリアの頭には浮かんだ。

だが彼はそうしなかった。何の罪も無い人々に迷惑をかけるのは何か違う。

何よりプレゼントを待ち望む子供達には...。


そこで彼は別の策を考えた。

それは、サンタの仕事を奪ってしまう事だ。

彼より先に子供達にプレゼントを配ってしまえばいい。

そうすればあんなものはただの空飛ぶヒゲデブだ。誰もありがたがらない。


そしてブラックサンタには従来のサンタとは全く異なる点があった。

それは「区別しない事」

金持ちの子も、貧乏な子も、病気の子も、親のいない子も...

分け隔てなく全ての子供にプレゼントを配るのだ。


自分のような思いは...もうさせない。




ばきっ!

嫌な音を立ててドアを蹴破る。


「へへ、ブラックサンタ参上だぜ。メリークリスマス...!」

決まり文句を放つと彼は困惑する親子へプレゼントを渡した。




『止まりなさい!!そこのバイク!!スピード違反ですよ!!』

数台のパトカーがサイレンをけたたましく、黒ずくめのライダーを追い掛ける。


「うるせえな...そんな悠長な事を言ってたら配り終わらねえんだよ。」

ブラックサンタは更にアクセルをぶっ飛ばした。




高級な雰囲気の一軒家。


「メリークリスマス...ブラックサンタ参上だぜ...。」

換気扇をぶち破り不法侵入したその黒ずくめは...そう言って黒い箱を置くと、ガードマンの到着を待たずによろよろとふらつきながら去っていった。


「はあ...はあ...さてと、次は...。」

ぽとり。ブラックサンタは住所をメモした紙を落としてしまった。

手の感覚が無い。

気付けば雪が降り注いでいた。彼は寒さと疲労でボロボロだった。


(くそっ...あの野郎は毎年こんな事を...それも全世界のガキ共に...。)

ハミリアはもう限界だった。


「ちっ、あとたった1軒なんだ...あんな髭ダルマにできるんだ、俺だって...!」

彼は歯を食いしばり、もう一度立ち上がった。




バイクはもう燃料が尽きてしまった。もはやこの悪天候の中歩くしかない。

それでもブラックサンタは進み続ける...雪に足を取られながらも歩みを止めない。


(見えた...!あそこだ!)

視界の端にボロ小屋のような民家を捉える。彼はその足を早めた。

...そして目的地まで後ほんの数歩という所だ。

ブラックサンタはついに力尽きてしまった。


どさり!積もる雪の中へ前のめりに倒れる。


「...この...!」


もう立ち上がる気力は無い。だが彼は諦めず、這ってでも進んだ。

やがて、それも止まってしまう。後は扉を開けるだけなのに...。


ふと、中の会話が聞こえてきた。


「母ちゃん...今年もオイラの所にはサンタさんは来ないのかな。」

少年の声が悲しげに呟く。


「...サンタなんてのは子供のまやかしだよ。お前の所に来ないのは、それだけお前が大人になったという事さ。」

諭すように言うこの声は...恐らく母親だろう。


しかし、それきり少年の返答は無かった。

彼が今どんな表情をしているか...ハミリアには容易に想像できた。


「ちくしょう...動け!動けよ!」

しかしその体は凍り付いたように動かない。


奇跡なんてものは無い...。ハミリアはその事を嫌という程知っていた。

子供はその事を知らないだけで、それを知るのが大人になるということなのだろう。

...だったら、子供でいい。


「年に一度...たったこの日くらいは...!夢見るガキに奇跡を起こしてやっても良いじゃねえか...!!」


しかし、ハミリアの叫びは寒空に消え失せた。

彼の意識はそのまま薄れていった...。






目が覚めた時、彼は見慣れぬソファの上にいた。


「おや、目を覚ましたのかい...?」

色黒の夫人が声をかける。...この声は、先程の母親だ。


「この子が突然『サンタさんが来た!』って言い出してね...そしたらあんたが家の前に倒れてたんだ。」

「ねえ、サンタさんなんでしょ!?これってもしかして...。」

少年は風呂敷の中の最後のプレゼントを興味津々に見ている。


「ああ、やるよ...メリークリスマス。」

ハミリアが呟くと、少年は歓喜に絶叫し飛び跳ねた。その姿に思わず笑みが出る。


ふと、ポケットに妙な感触。ハミリアはそれを引っ張り出した。


「...なっ!」


それは、ゲームボーヤエクストリームだった。今や絶版、リサイクルショップを回っても手に入らない。


(...サンタの野郎...。)

ハミリアはその主になんとも言えぬ思いを馳せた。

奇跡なんてものは...どうやら無くはないらしい。


「おい、ガキ...」

ハミリアが声を掛けると少年は振り向いた。


「俺はサンタなんかじゃねえ、ブラックサンタってんだ。覚えときな...。」

彼はニヤリと、邪悪に笑った。



おわり

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