2-3
今回ちょっと短いです。
それは生徒が開催できるパーティの質を遥かに凌駕していた。綺麗に並べられた料理、積み重ね方に意匠が凝らしてある割り箸、テーブルクロスの引かれた机。もはやちょっとした立食パーティだった。
「どう、凄いでしょう?」
自慢げにそう言うスイレンに、俺は大きく頷いて見せた。
俺の想像を遥かに超えていた手厚い歓迎にしばし呆然としていた俺は、スイレンに肩を叩かれて我に返り、オカマ達と乾杯の音頭を上げた後、並べられた料理を口に入れて二度目の衝撃を受けていた。上手い、家で食べる父の料理より遥かに美味しい。
「ミズキ、はいお茶」
スイレンが注いでくれた麦茶を一気にあおる。飲み物自体は普通の市販のものだが、うん、美味い。
「どうやら二人はすっかり打ち解けたようね」
横合いから聞き覚えのある声がした。振り向くと、春巻きを食べているラ・フランスがにやつきながらこちらを見ていた。
「スイレン大丈夫? セクハラされてない?」
「あ、うん、今は大丈夫だよ」
「今はって何だ今はって」
スイレンの発言に突っ込みを入れる俺をよそに、ラ・フランスはテーブルにあった唐揚げを一つ口の中に放り込んだ。美味そうにそれを頬張る彼に釣られて俺も唐揚げを一つ頂いた。うん、良い歯ごたえだ。美味い。
「どうかしら。お口に合う?」
唐揚げを食う俺を見てラ・フランスが問うてきた。
「……正直、予想以上だった、色々」
面と向かってそう言うのが恥ずかしかった俺は、出来る限り料理を見ながら答えた。ラ・フランスはその返答で満足だったのか小さく笑うと、喜んで貰えて何よりだわ、と独り言のように呟いた。
「今の内に楽しんでおく事ね。あなた、これからが正念場よ――あら、遅かったみたい。訂正するわ、今からが正念場ね」
俺がその発言に首を傾げたとき、後ろから名前を呼ばれた。振り返ったそこには長身痩せ型で目つきの凜々しいオカマが立っていた。天啓、俺はの背筋に悪寒が走った。
「……スイレン、この人は?」
「転校生に是非とも挨拶したいんだってさ」
そう言われて肩を叩かれたオカマは頬を赤らめた。
「あの、アタシ、ダイアモンド☆アタイっていうの。アナタの事……沢山知りたいわ」
見れば、ダイアモンド☆アタイの後方には種々雑多なオカマが列を成していた。詰め寄らずにきちんと整列している辺り、オカマは礼儀正しい。
「質問攻め、慣れっこでしょう?」
ラ・フランスは面白そうに笑うと、他のテーブルへと皿を持って行ってしまった。
「どうしたのミズキ。ほら、ちゃんと挨拶して?」
ラ・フランスの後を追ってこの場から逃れようにも、スイレンに手を掴まれてしまったためそれも出来ない。俺は笑顔で迫ってくるオカマの列にただ引き攣った笑顔を見せることしか出来なかった。
「あ、挨拶ならさっきしたじゃないか……。なあ、スイレン?」
「オカマの出会いはフレンチキスから始まるって、前に姉御が言っていたような」
「マジで!?」
瞬間、オカマ共にどよめきが走った。
「火に油を注ぐんじゃねえよバカ!」
オカマ達の目の色が変わったことを敏感に察知した俺は即座にスイレンの手を振り解き脱出を試みた。だが踵を返そうとした瞬間、両肩をがっしりと掴まれてしまった。眼前には息を荒くしたダイアモンド☆アタイがいた。オカマはせっかちである。
「あ、姉御がそう言ったなら、仕方無いわよね……」
顔を両側から押さえつけられた。万力じみた力でゆっくりと顔を引き寄せてくる。涙が溢れてきた。ついでに鼻水も垂れてきた。すぐにでもこの場から走り去りたいのに、体中の神経を抜かれてしまったのか、体は面白いくらい言う事を聞いてくれない。迫り来る災厄をただ眺める事しか出来なかった。微かに動く口元で必死に助けを求め続けながら。
「仕方無くない、やめろ、ほんとやめろ、顔を近づけるな、止めてくださいお願いします俺まだ童貞なんだそれ以前にファーストキスすらまだなんだだから許しておねがいだか――」
――。