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俺の人生、ニューハーフ!?  作者: 喫茶店ラギ
第一話 『お前はどちらなのか』
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1-3

 そして何も起きずに終業式となった。あの日以来、周囲は俺と距離を取るようになっていた。別に俺が嫌われているわけではない。ただ彼等にとってクラスメイトが転校してしまうという事が初体験だから対応の仕方が分からないだけだ。


 一週間程前だろうか、担任の口から俺が転校するという説明がされた。それ以来クラスメイトは露骨に俺に対して気を遣うようになった。その扱いも慣れっこだ。密かに俺を送り出す会の準備をしている事も解った。分かっても何も感じない自分が嫌だった。


 どうせ寄せ書きを貰った所で、一度も読まずに机の隅に置かれることになるのだろう。俺はそんな事ばかり考えていた。だからだろうか、折角の送別会も全然頭に入ってこなかった。


 うわべだけの笑顔を顔に貼り付けて送別会をやり過ごし、俺は下を向きながら家に帰った。


 家には段ボールが詰まれていた。引っ越しの為の荷物は既に出来上がっていた。父が仕事から帰ってくるまで数時間空いている。無気力なまま俺はベッドに寝た。


 瞳を閉じると、さっきまでの送別会での皆の顔が浮かんでくる。男友達は純粋にレクレーションを楽しんでいた。女子は一部涙を流していたが、それが嘘泣きであることくらいすぐに気が付いた。大体親しくもないクラスメイトが転校するだけで泣くのなら、もっと他のシーンで泣いているはずだ。


「ああ、つまらない」


 そう呟いていた。どこの学校へ行ったって毎回同じだ。特に大きな騒動もなく、無難に日々は過ぎていく。学校生活は、俺の人生は、こんなにもつまらないものだったのだろうか。


 いや、きっとつまらないのは俺自身なのだろう。俺は自分から殻にこもって外界とも関係を断ったのだ。そして、その現状に満足してしまっている。だから俺は、自分が嫌いだった。


 アニメや漫画みたいなラブコメを望んでなんかいない。でも、もう少し騒々しい生活がしたい。ベッドの上で微睡みながら、俺はそんな事を願った。


 誰かに肩を叩かれた。重い瞼を開けると、そこには父の顔があった。部屋の電気を付けっぱなしで寝てしまったらしく、天井の照明が目に刺さった。父は俺が起きたのを見ると、うん、と頷いた。


「俺、寝てたのか」

「そりゃあもうぐっすりとね。日頃の疲れでも出ていたのかしら」


 おたまを右手に持った父はそう言うと、エプロンを翻して台所へと向かった。どうやら俺は夕食時まで寝ていたらしい。そして夕食の準備をする今、父は母親モードになっている。


 俺の父は男にしては線が細く女にしては筋肉質な、いわゆる中性的な体をしている。声も一緒だ。その為父がその気になってお洒落をすると、初対面の人は必ず騙されて父を母親だと勘違いしてしまう。


 四十を過ぎた今はその程度で済んでいるが、俺が小学生低学年の頃は大分女装にも磨きが掛かっており、父の武勇伝を信じるのならナンパは序の口、痴漢までされた事があるという。


「お尻を触ってきた男の手を掴んでね、その人の顔を見てから手をワタシの股間まで持っていくの。そしてナニに触れさせる。その時の相手の青ざめた顔といったら……くせになるわよ」


 正直これにはどん引きした。間違っても実の息子に女装をした状態で言うセリフではない。


 そのまま暫く部屋で寝転がっていると、台所からご飯よと呼ぶ声がした。


「今日は奮発してハンバーグにしてみたの。おかわりあるから沢山食べてね」


 肉厚のハンバーグを口に放り込みながら、俺はぼんやりとテレビを観ていた。


「ミズキ、勉強のほうは大丈夫なんでしょうね」


 不意に父がそう尋ねてきた。


「ああ、編入試験か。そんなに難しいところなのか?」

「中の上、上の下、まあ大体そんなところね。偏差値も特別高くはないけど、油断してたら十分落ちる可能性はあるわよ」

「えー、なんでそんな面倒なところにしたんだよ。また勉強しないといけないの?」

「そこしか無かったのよ。まあミズキの学力ならキチンと頑張ればいけるはずだから、期待しているわよ」


 頻繁に編入試験を受ける身の上なので、自慢ではないが学力は高い部類に入っている。今日別れを告げた学校でも常に上位一桁に入っていた。だけどだからといって油断はできない。冬休みはまた問題集と睨めっこする日々になりそうな予感がして、俺は人知れずため息をついた。


「それと、黒光山高校について自分でも調べておきなさいよ。何でも昨年教育改革かなんかがあって学校の中身ががらりと変わったらしいから」

「……そういうの早く言ってくれよ」

「ワタシも詳しく知らないのよ。そういう噂を聞いただけなの」


 夕食を終えた俺は自室に戻り、編入試験対策の勉強を始めた。とはいえやることは学校の授業の復習だけである。精神的な疲れからか、今日はそれ以上やる気になれなかった。教科書を捲り、寝る時間が近づいたら風呂に入り、ベッドに潜る。普段となんら代わり映えの日々。


 寝落ちする直前父が話していた教育改革の件が頭の隅を過ぎったが、俺は明日調べれば良いと楽観的に考えてそれを無視した。

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