誰よりも英雄だった男
英雄と呼ばれた男がいた。
男は戦争で功績を挙げ、平民から英雄となった。
戦争で功績を挙げたということは、沢山の人を殺したということである。
沢山の人を殺し、彼は英雄と相成った。
全ては祖国の為に。
男は孤児であった。
生きるために何でもした。
盗み、喧嘩、殺し、人には言えない事まで。
そんな仕事の方が金が沢山貰えたから。
そんなある日、彼は盗みの現行犯として憲兵に捕まった。
牢で処分を待つだけだった男に誰かが聞いてきた。
お前に家族はいないのか、と。
男は答えた。
家族とは何ぞや、と。
その誰かは驚いていた。
男には何故驚かれたのか分からなかった。
その誰かはいつの間にか居なくなった。
そして、処分が降る。
それは国の孤児院へ行く事だった。
男は大層驚いた。
刑罰が降ると思っていたから。
刑罰が降るはずだった男は孤児院へ行った。
孤児院では何もかもが新しい事だらけだった。
いつも誰かがいる。
いつも誰かが笑っていた。
いつもご飯が食べられた。
暖かいお湯に浸かれた。
ほんの少しの仕事だけで金が沢山貰えた。
人の暖かさを知らずに育った男にとって、其処は幸せに満ち満ちていた。
男の今までの人生からは信じられない事だらけだった。
男はこの楽園を作った国に深く感謝した。
数年後、孤児院を出た男は戦争に志願兵として参加していた。
国を脅かす蛮族を排除するために。
男はもうすでに人殺しだったから、良心が今更痛むはずもなく。
ただ淡々と殺し続けた。
男には武の才能があった。
それもただの才能ではなく、天賦の才が。
しかも、肉体はその時が全盛期。
剣を使い、的確に蛮族の首を跳ねていく。
そんな芸当は他の凡百の者には出来る訳がなかった。
人を人とも思わないで淡々と首を跳ねていく姿に、仲間のはずの人すらも恐怖させた。
だが、男が蛮族の首を跳ねながら蛮族の頭領のいる場所に行き、頭領の首を呆気なく跳ねる。
蛮族は降伏した。
そして男は国で功績を積む。
功績と言っても他の国にとっては傍迷惑だったろうが。
功績を挙げて、男はいつの間にか英雄と呼ばれていた。
男は祖国を守っていただけであったから、英雄なんて自分には出来ないと思っていた。
だが彼は、英雄に相応しい活躍をした。
敵の大将を葬り去り、宰相と国王を捕虜にした。
その功績で、彼は大将となった。
だが、男も人間だった。
敵から受けた剣。
それは、男の鎧を貫通して、体を抉る。
耐え難いほどの痛みに襲われながらも、男は祖国を守るために戦う。
しかし、途中で折れた。
男が折れて。敵の蹂躙が始まった。
男はそれを見ていた。
動けない体で。
いくら体を奮い立たせようとしても、動かない。動かせない。
そして男は捕虜となった。
因果応報、彼を表す言葉はそれが一番相応しいだろう。
そして、男が居なくなった祖国は降伏した。
男はその事を知らなかった。
男が祖国に帰ると、浴びせられたのは耳をつんざくような罵声。
人殺し、戦犯、愚王の狗と。
つい先程までは英雄だったはずなのに、今男は愚者と呼ばれていた。
そして男は処刑される。
祖国の為に。
処刑の日、英雄はこんな言葉を残した。
「英雄とは誰よりも愚かな者であろう」
「祖国に栄光を」
誰よりも英雄だった男
fin




