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非王道5

「ねぇどうしよう、ピンチだよ、ピンチ!!!

私の人生で最大のピンチ!」


今年で25歳になる私だが、ついに先日彼氏の一人も出来そうにもない私を見かねて親がお見合いを持ってきたのだ。

釣書を持って私の下宿先に押し掛けてきた母の目は本当にほんとーに怖かった。

目が据わっていて、その日の気温は30℃を超えているはずなのに、母の周りから冷気が漏れていて、断ったら私が氷漬けになりそうな勢いだった。

私と年が近い従姉妹に先日可愛い赤ちゃんが生まれたことが母をこのような行動に駆り立てた原因らしい。母曰く「私も可愛い孫がほしい」とのことである。

ただ、母よ、気づいてほしいのだが、私は一重のつり目で、鼻は低く小さく、逆に口は大きい。つまり、不細工である。色が白く、ぱっちり二重で、鼻は高く、口は小さい、可愛い従姉妹から生まれた赤ちゃんだから可愛いのであって、不細工な私から生まれる赤ちゃんが可愛い訳がないのである。

しかし、『可愛い孫がほしい』母には、そんなことが気づくはずもなく、来週の日曜日に勝手にお見合いを入れてしまったのだ。


そして、そんな母に思わず言ってしまったのだ。

「実は黙っていたけど、結婚の約束をした人がいる」と。

その言葉を聞いた母は大喜び。

早速来週の日曜日に実家にその『婚約者』を連れていくことになってしまったのだ。


もちろん、これは口からでまかせである。私には、婚約者どころか彼氏の一人もいない。ただ、あの時の母が怖すぎて、このままだとお見合いさせられそうで、気がついたらこんな言葉が口からすべり出ていたのだ。

もちろん私とて、結婚したくない訳ではない。世間では、クリスマスと言われる年齢だとはちゃんとわかっている。しかし、母には言っていないが小学生の時、変質者に追いかけられたことが少々男性恐怖症の気があるのだ。社会に出て、これでも昔よりは男性になれたのだが、やはり初対面の人とは一言も喋れないのだ。


そこでこの事態をどうしようかと親友に相談しているという訳である。

こんな私の相談を聞いた親友はあきれかえっていた。

「アホ」

「だって、本当にイヤだったんだもん」

「婚約者どころか彼氏の一人もいないだろ」

「こんにゃくなら家の冷蔵庫にあるんだけどね!キラッ」

「...帰ろうかなあ」

「ごめんなさい、ちゃんとするので帰らないで下さい。」

「はぁ、帰らないから。で、どうするんだ?」

「はい、わたくしこの事態を回避する方法を思いつきました!!!ねぇ、婚約者のフリしてくれない?」

「……は?」

「だぁかぁらぁ、婚約者のふりして私の母に会ってくれない?」

「イヤって言ったら?」

「結婚の約束もしたことあるじゃない!」

「…あの時は、お前が酔っぱらってて、返事するまで離してくれなかったから、仕方なく…」

「でも、約束は約束!ね、お礼に何でもするから!お願いします!このとーり!」

手を合わせて少し上目遣いに親友を見ると、はぁとため息をついて

「仕方ない。わかった。」

と婚約者の役を引き受けてくれることになった。


そして、少しでもこんにゃく、じゃなかった婚約者に見えるように、恋人同士のフリの練習をしようということになった。

最初は、手をつなぐことすら恥ずかしくて出来なかったが、もともと親友ということもあり、一週間もすれば恋人同士のアレコレも恥ずかしがらずに出来るようになった。

今では、腕組みをしたり、お互いアーンと食べさせ合ったりすることも当たり前に出来るようになった。母と会う前日には、さらに信憑性を高めるため親友が私の家に泊まりに来て、一緒にご飯を作って、同じ布団で横になって一緒に寝たりまでしたのだ。さすがに同じお風呂には入らなかったが、朝、一緒に横に並んで歯磨きをしているとまるで本当に結婚しているみたいと二人で笑い合ったりもした。


そして、日曜日。

私の実家にて親友は私の婚約者として私の母と父に会ってくれた。

作戦は大成功。一週間かけて、恋人のフリをしてきた成果が発揮されて、母もすっかり親友を本当の婚約者と思い込んでくれた。

そして、こんな人がいるならもっと早く紹介しなさいと怒られてしまった。


「本当に、本当に、ほんとーにありがとう!」

「…いいよ、でもこの後は自分でなんとかしろよ。」

「わかってる。適当に時期をみて、母には別れたって報告するつもり。

本当にありがとうね。」

「……別に、このまま、本当に結婚してもいいけど。」

「やだ、冗談。








だってレイナは女の子じゃん。」


そう、男言葉で喋っているこの親友、実はれっきとした女の子なのだ。レイナは上から、礼一、零治、令、蓮士という男4兄弟の5番目に生まれた女の子だから、兄弟のマネをして喋っていたら、男言葉の方が喋りやすくなってしまったらしい。また、この4兄弟に混じって遊ぶうちにレイナも男の子っぽくなってしまったらしい。また、声が低く、切れ長な目ときりりとした眉で、本人はそれを面白がって男装と言ってわざと髪を短くして、ズボンばかりはくのだ。

レイナの母に会ったことがあるが、折角待望の女の子が生まれて『レイナ』と女の子っぽい名前をつけたのに、女の子っぽい格好をしてくれないと嘆いていた。

私も、親友の外見は男の子というより中性的で髪を伸ばして女の子っぽい格好をすれば絶対に可愛いと思うのだが、本人はなかなかそういった格好をしてくれない。

何はともあれ、レイナのおかげで私は、母のお見合いから逃げれて万歳である。


「そう、冗談。

だいたい、令兄(3番目の兄)が黙ってないだろうし…」

「ん?何か言った?よく聞こえなかったんだけど…」

「んー、冗談って言っただけ」

「そう?令兄って聞こえた気がしたんだけど気のせい?」

「気のせい、気のせい。」

「そういえば、令兄って、シンガポールの出張からまだ帰ってきてないの?」

「何か向こうでトラブルがあってもうしばらく帰って来られないみたい。」

「ふーん。」




だが、私は知らない。実は、令兄が私をロックオンしており、レイナが男装しているのは、令兄の命令で私の虫避け係をしていることを。そして、出張でトラブルさえなければ、この偽婚約者の役は令兄がして、そのまま、結婚まで持ち込むつもりであったことを。

出張から帰ってきた令兄が今までよりイチャイチャしている私とレイナを見て嫉妬するのは、また別の話。


レイナは令兄の命令で男装して虫避け係をしていますが、男装のレイナと私がイチャイチャして令兄が本末転倒で悔しがっているのを楽しんでいたりもします。また、可愛いものスキーなので、バレンタインデーなどに女の子に囲まれるのを楽しむため、男装していたり…

あと、レイナの母はレイナがこんなんなので、私と令兄に早く結婚してもらって、レイナと出来なかった母娘のアレコレを私で早くしたいと画策していたり…


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