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君がいたからーー

君がいたからーー如月麻人の場合ーー

作者: 智遊

 保月瀞は変だ。

 女なのに女子の制服が似合わない。男子の制服を渡したらむしろ喜ぶ。

だから、恭弥の父親が学校に圧力かけて瀞を男子の制服で通わすことにしたし、徐々に徐々に短くなっていく髪もなにも言わなかった。


 昔から瀞は物知りで、そのころから恭弥の家に入り浸りだった俺にも退屈しないように色んな話を教えてくれた。同じ年とは思えず、何度かなんでそんなことを知っているのかと聞いてみたら、私は転生少女ですからと嘯くし。

 そのあと恭弥がネットで調べてるんだよっておしえてもらって信じずにすんだ。


 中学に上がってからも俺たちの距離は変わるわけもなく、瀞が振ってくる話題も年頃の話題が多くなった。

 ちょっといらっとしたからだと思う。意地悪のつもりで聞いてみた。


「瀞はどうすんだよ。もしかしたら、クラスのやつ……あ、俺から告白とかされたら」

「学校の人はお断りしてますけど、麻人様は冗談でもやらないでくださいね。如月の坊っちゃん誑したとなれば、私はここを出て旅に出ないといけません」


 笑いながら拒否する瀞は気づいてなかったと思う。

恭弥の顔が強張っていたことに。俺も笑ってごまかしたけれど、頭が殴られたような感覚を覚えた。恋愛対象ではないとその表情や態度で理解できた。


 その日、俺と恭弥は失恋した。

それでも、近くにはいたくて必死で感情が外に出るのをこらえた。



※※※※



 天翔学院は、高等部のみ全寮制だ。

全寮制とはいえ、生徒の中には上流階級のそれも相当な人もいるわけで。そういう人たちには、傍付きのものがいる場合に限り隣接しているマンションで暮らすことができる。

 当然、寮と比べて維持費が相当かかる。そして、当然俺はマンションに滞在している。



「……おい、で、これはなんだ」


 自分でも思ったより低い声が出た。

俺が持っているもの、それは壁に飾ってあった横断幕だった。



 ウィンターパーティーの会場で自分が誤解をしていたことを知って、すぐに恭弥の姿を探した。けれど、会場にあいつの姿はなくて。

 遠見と櫻井と合流して、マンションに急いで戻った。

 恭弥の部屋は俺の部屋よりも奥にある。奥にあるってことは当然自分の部屋の前を通るわけで。


『相澤様のお部屋に伺っています  田沼』


って張り紙はさすがに嫌な予感しかしなかった。

 田沼というのは20代前半の俺付き。若いができる男で俺も信頼をしている。

信頼はしてるのだがこの男、面白いことが好きでしょっちゅう瀞と組んでおれをからかって遊ぶような男である。

 まさか瀞に手を出すとかサスガにしないだろうが、いやいや、恭弥もパーティー会場いなかったしな。

 少し急いで恭弥の部屋に行き、勝手にドアをあける。鍵はかかってなかった。


 リビングのドアを開けると、恭弥がコタツに入ってプロジェクターでウィンターパーティーの動画を見ていた。もっと詳しく言うと、でかでかと俺と水戸が写っている。そして二人で踊っている。

 さらに言えば壁に横断幕がさがっていて、『祝!麻人ヘタレ脱却記念!』と書いてあった。


 ダッシュで棚を登って横断幕をはがして、プロジェクターのスイッチを切った。



で、今に至る。



 ちなみに瀞と田沼は後ろの隅の方に並んで立っていて、二人とも顔をそらして笑いをこらえている。


「麻人……何の用?ていうか、消さないでよまだ見てないんだけど」

「いや、だからこれなんなんだよ」

「あ、三人ともいらっしゃい。あと水戸さんおめでとー」

「なにがだよっ!」


 俺を無視して後ろの女子3人に声をかける恭弥。俺の質問に答える気はないらしい。

と、瀞がすっと近寄って……なぜか水戸の肩を抱いた。


「いらっしゃい、その格好は寒いから、さあコタツにお入り、愛華」

「その手はいらねえだろうが!ていうかなんでお前が水戸の名前をさも当然のように呼んでんだ、瀞ぃっ!」


 しかも呼び捨てだった。

とうとうこらえきれなくなったのか、恭弥と瀞が笑い出した。遠見と櫻井まで笑ってやがる。


「あっはっはは、瀞……じゃなかった、保月に嫉妬するなよ」

「男の嫉妬は見苦しいわよ」


 とうとう櫻井から突っ込まれた。なんでだよ。

当の瀞は、水戸をコタツに入れたあと遠見と櫻井を呼んでコタツにいれた。


「あ、麻人さまのはいる場所がなくなりましたね。しょうがない、麻人様コタツの外で我慢してください」

「なんでだよ!ちょ、恭弥お前寄れ」

「もー、水戸さんにいれてもらえよ」

「だからなんでだよ!」

「だって付き合い出したんだろ?」


 さも当然のように恭弥。なんで知ってんのいや確かに今見てた動画ってその動画だった気はしないでもないんだけどいやいやいなかったよねやっぱなんで知ってんのいやいやいやむしろなんで今言う


 とか一人でパニック起こしていたらーー女子軍は俺に丸投げしたらしく俺の顔見つつなにも喋らないーー


「……ねえ、本当にお前なにしにきたの?」


恭弥の視線が冷たかった。

 そんな冷えた空気の中、田沼がココアを淹れて配っている。瀞、腹抱えて笑ってる場合じゃないだろ。

 俺はそれでも恭弥の隣に割り込んだ。ケーキが出てきた。瀞、お前いい加減俺らと一緒にコタツに入るか田沼の手伝いするかしろよ。つーかケーキでかいなぁっ!手作りか!!

 女性陣の目が輝いていた。今日のーー恐らくは瀞の手作りのーーケーキはチョコレートケーキだった。チョコクリームに苺がのっている。切り口から黒いスポンジにラズベリーが挟んであるのがみえる。


「おいしぃー!」


水戸がケーキを一口食べて嬉しそうだ。やべー可愛い。

 和んでたら、隣から頭に手が飛んできた。


「早く報告しろよ」



※※※※



 あのあと、色々報告したり、謝ったり、これからのことを話したりした。

主に俺が恭弥に謝って、恭弥が女子3人に謝ったんだけど。結局、嫌がらせに恭弥がーー実行犯は主に瀞だが指示したのは自分だと言い切ったところが潔いーー加わったのは、俺が周りの影響力を考えずに行動したせいで、嫉妬やら僻みが全部水戸に向いたらしくここで自分が庇ったりなんかしたら余計に油を注ぐと判断したらしい。

 それよりも、自分が表だって敵に回ることで沈静化と、そして怪我をしないように統制とってくれていたらしい。

 久しぶりに瀞の説教を正座でうけた。なぜか女子3人も正座で聞いていた。


 あれから年が明け、冬が過ぎ、二年に進級し。

愛華と出会って一年が過ぎた。


 恭弥がスマホをもて余しながらビミョーな顔をしている。

愛華は沙穂と莉子に怒られていて、俺もスマホを確認してみるが瀞からの返事はない。


 夜遅くに愛華と喧嘩して、愛華が走ってどこか行ってしまい、俺はいつものメンバーにお願いして愛華を探してもらった。

 結局は、温室でうとうとしているところを発見したのだが、今度は一人、抜け道から校外に探しにいった瀞が戻ってこない。

ケータイに電話してもメールしても連絡が取れないことになっている。

 心配しなくても瀞は大丈夫だと思っている。

なにしろ、護身術も完璧で大人の二三人くらいなら軽く撃退するみのこなしだ。

不審者の一人くらいなんとかなるから俺たちも外を任せたんだけど。

 いや、あいつのことだからきっとスマホを部屋に置いてきたパターンとかありえそうだ。


と、考えていたら、恭弥のスマホがなった。

全員がホッとしたかんじで恭弥を見やる。恭弥もスマホを確認してホッとしたように口角をあげた。一度深く息をすって電話にでる恭弥。ようやく連絡がついたか。


「はい、保月?あの……え?父さん?」


 安心して力抜いてたところに思わぬ人の名前が出てきて恭弥をガン見した。急にそっちに顔をやったので首がいたい。

 恭弥は、動揺を隠せないようではい、と相槌をうちながら視線をさ迷わせている。

そのうちにピタッと俺と目をあわせるとすがるような視線をおくってきた。


「わかりました……はい、おやすみなさい」


電話を切るともう一度だけ視線を狼狽えさせてから言った。




「……瀞が事故にあった……」




恭弥の身体は震えていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] とても面白いです! ただ・・・やっぱり交通事故は免れなかったのでしょうか。 続きがとても気になります。
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