第4話 「君の朝 私の朝。」
次の朝、七時二十五分に家を出た。
「今日もまた随分早いのね。」というお母さんに、私は
「なんかこの時間の方が自分に合ってるみたい。」とだけ言った。
そんな私にお母さんは”そっか”とだけ言って、それ以上は
聞こうともしなかった。
聞かれても、私自身もその理由をわたってないから困るけど・・・
学校には七時四十五分に着いた。
相変わらず静かで誰もいない。
誰かが来る気配もない。
私は玄関へと向かった。
玄関を通り抜け、とりあえず辺りを見回してみる。
――昨日と同じ――
私はそう思った。
自分の下駄箱へ足を進めようとした。
「あ、あはよ。」
突然後ろから声がした。
振り返ると、室岡くんがそこにいた。
口から心臓が飛び出るかと思った――
とはまさにこのことかもしれない。
「おはよう。」
そう言って私は下駄箱へと歩いた。
室岡くんが後ろからついて来る。
同じクラスだから当たり前なんだけど、どこか落ち着かない。
「いつもこんなに早く来てんの?」
靴を履き替えている途中で、室岡くんが言った。
「私は――昨日学校に辞書忘れちゃって、今日当たるとこ予習
してなかったから・・・」
嘘だった。
辞書を忘れてなんかいないし、予習も一応してある。
なんでこんな事言ってんだろう、私――
ふぅん――とだけ室岡くんが言う。
「朝練って毎日あるの?」私が聞いた。
「うぅん、火曜と木曜だけ。」
そう言えば、朋ちゃんからメールがきた一昨日は火曜日だった。
意味もなく早く家を出た昨日は水曜。そして今日は木曜日――
『そうだったんだ。』
私はまた心の中で言った。
内履きに履き替えた彼は、下駄箱の扉を閉め歩き出した。
「じゃあね、佐倉さん。」
そう言うと、体育館へと続く廊下を進んでいった。
相変わらず踵をつぶし、パタッパタツという靴音を鳴らしている。
そんな彼の後姿を、心臓を足早に脈打たせながら見送った。
その時の室岡くんの声も、しばらく耳の奥で響いていた。