第37話 「さよなら。 ありがとう。」
美術部の後輩からは花束と、それぞれ一言ずつ言葉を
書いた色紙が渡された。
受け取った時からすでに目頭は熱くて、後輩の前で
泣くのは少し恥ずかしかったけど、我慢できず結局
涙があふれた。
卒業証書に卒業アルバム、後輩からもらった記念品。
両手いっぱいに高校生活を終えた証を持って、私は
家への帰り道を歩いていた。
この道を歩くのも、今日で最後――
見慣れた景色も思い出へと変わる。
学校から家までの一歩一歩が、とても愛しく思えた。
「佐倉!!」
うしろから声がした。
最初、誰だろう・とも思ったけど、こんな風に私のことを
呼ぶのはひとりしかいない――
足を止めて振り返った。
室岡くんが走ってくる。
いつもあるはずの自転車は無かった。
最後に室岡くんに会えてよかった。
さよならが言える――
”室岡くん、三年間仲良くしてくれてありがとう。”
”海に行ったり、クリスマスパーティーをしたり、
自転車を二人乗りしたりと、本当に本当に楽しかった。”
”またいつか会えたら、その時も笑って過ごせるといいね。”
――さよなら、室岡くん。今まで本当にありがとう――
最後は”ありがとう”と言いたかった。
時が経って再び会えた時に、心から笑って会えそうな
気がしたから。
「佐倉が帰っていくの見て、急いで追いかけてきたんだ。」
呼吸を乱しながら彼は言った。
「私に何か用でもあるの?」
私は聞いた。
「俺、佐倉に、どうしても言いたい、事、が、あって・・・」
ハァ、ハァ――という息遣いを交えながら室岡くんが話す。
私が「なに?」と聞くと、室岡くんは”ちょっと待って。”と
言って、頭を下げて息を整えた。
そんな彼の姿を、私はすぐ傍でただじっと見ていた。
しばらくして落ち着きを取り戻した彼は、ゆっくりと
頭をあげた。
そして真っ直ぐ私を見た。
少し照れくさかったけど、その目はあまりにも力強くて、
私は目を反らせなかった。
室岡くんがゆっくりと口を開く。
今さら彼は、何を言うのだろう――
「俺、佐倉が好きだ。」