第36話 「今日は卒業式。」
将来何になりたいか、なんて高三になってもちっとも
思いつかなくて、大学に行くほど勉強もしたくなかったし、
かと言ってすぐに就職する気も無かったので、とりあえず
自分の得意な分野に進学するのが無難だと思った。
私はデザイン系の専門学校に、すんなりと推薦で合格した。
三年間は本当にあっという間だった。
今日は卒業式――
一・二年生の頃は式がとにかく長く感じて、ただ退屈なだけだった。
けれど自分達のための式となると、卒業証書をひとりひとりが
受け取る時間や、校長先生達の話がすごく意味のあるものに
思えた。
「理子ちゃん、写真撮ろー。」
式のあとの最後のホームルームも済み、教室ではあちこちで
写真撮影が行われていた。
インスタントカメラを片手に、由美ちゃんが声をかけてきた。
「うん。」
由美ちゃんを交えたクラスの何人かと、入れ替わり何度も何度も
写真を撮った。
持ってきたインスタントカメラのフィルムはどんどん減っていき、
あとで朋ちゃんやさやかとも会うつもりでいたので、数枚
残して携帯のカメラに切り替えた。
おかげでメモリーは、その写真だらけになった。
写真を撮っている間、泣いて、笑って、そしてまた泣いてを繰り
返した。
由美ちゃんと一緒に教室を出て、朋ちゃんのクラスに行くと、
「朋子、泣きすぎだよ。」と由美ちゃんが言う。
だってぇ――と言って、朋ちゃんは笑いながら、すでに赤くなり
すいぎている目からまた大粒の涙を流した。
そんな朋ちゃんを見て、私まで目頭が熱くなった。
三人でさやかのところに向かった。
さやかは大勢の女子生徒達の中でひたすら笑っていた。
だけど目はやっぱり赤かった。
さやかのクラスのひとりの女子生徒にシャッターを押してもらう
よう頼むと、私達は四人で並んだ。
「こんな目で映るってちょっと嫌かも。」
朋ちゃんが言う。
「みんな似たようなもんだからいいんじゃない?」とさやかが
言うと、私達は一斉に笑った。
こんな風に四人で笑うのはきっと、一年生のとき以来だと思う。
何枚も何枚も四人での写真を撮って、インスタントカメラの
フィルムは、いつの間にかあと一枚だけになっていた。
なにかが頭を過ぎった。
私は、フィルムを一枚だけ残すことにした。
「みんなバラバラになっちゃうんだね・・・」
ふと由美ちゃんが言った。
春から、由美ちゃんは平本先輩のいる専門学校に、朋ちゃんは短大に、
さやかは県外に就職が決まっている。
「あんまり会えなくなるね。」
私が言う。
同じ高校で、同じ場所にいつもいたのに、それぞれ別々の道を
行かなければいけない時がようやく来た。
そんな日が来ることを嫌だと思ったこともあったけど、どんなに
嫌でも、そうしなければ誰も前に進めない。
そんな風に私も、いつしか思えるようになっていた。
「時々会おうね。連絡もしようね。」
と由美ちゃんが言うと、自然と涙があふれた。
四人とも涙をこらえきれず、私達はひたすら泣いた。
泣くに泣いて、四人で教室をあとにした。
下足場から玄関の外を見ると、大勢の下級生が待機していた。
卒業する三年生を最後に見送るために、長い時間待っているのだ。
自分もああやって、先輩達を見送った。
下足場で靴を履き替えるのも、今日が最後。
そんなことを思いながら、私は靴を履き替えた。
玄関を出るととにかく人の波で、どう通り抜ければいいか
わからないほどだった。
奥の方に美術部の後輩を見つけた。
後輩達も私に気づいたのか、大きく手を振っている。
「じゃあ、私ここで。」
私は言った。
「またね、理子ちゃん。元気でね。」と由美ちゃんが言う。
「うん、由美ちゃんもね。」
と私が言って、また泣き出してしまった由美ちゃんを、肩を
撫でながら私は宥めた。
「四月まで遊びまくろうよ。」
さやかが言った。
「メールするね。」と朋ちゃんが言う。
これが最後の別れじゃない。それだけを私は信じた。
「じゃあね、みんなまたね。」
そう言って私はみんなと別れた。