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高校生の恋。  作者: 黒蝶
34/40

第34話  「出会えたことはきっと運命。」

月曜の朝、七時三十分になっても私はまだ朝食のパンを、

のんびりと口へ運んでいた。

壁にかけてある時計に、極力目をやらないようにしながら。

「理子、時間いいの?」

お母さんが聞いた。

「うん。もう早く行くのめんどうになったんだよね。」

私が言うと、”そう・・・”とだけお母さんは言った。

「ごちそうさま。」

カップと皿を重ねて流しのシンクに置くと、そのままリビングを

後にした。

二階への階段を、いつもならいつもなら走るように駆け上がるのに、

その日はまるで一段一段確かめるかのようにゆっくりと上った。

部屋に入って、ベッドに腰を下ろす。

窓の外に視線をやった。

良く晴れた青空に、うっすらと浮いている雲をぼんやりと見た。

気が付くと八時になろうとしていた。

重たい腰をベッドから上げ、鞄を手に部屋を出た。

階段を降りリビングへ向かう。

「じゃ、行ってきます。」

「いってらっしゃい。」

このやりとりはいつもと変わらない。

玄関で靴を履き替え、私は家を出た。

学校へ行く道を歩いていると、何人かの同じ学校の人に

横切られたり、横切ったりした。

朝、学校へ向かう道で多くの生徒に紛れることは、高校に入って

初めての経験だった。


下足場に着くと、靴を履き替えている最中の由美ちゃんに会った。

「由美ちゃん、おはよう。」

私は声をかけた。

「あれ、おはよう。理子ちゃん、今来たの?」

「うん。」

由美ちゃんは少し驚いたような表情をした。

「めずらしいね。理子ちゃんがこんな時間に来るなんて。」

「うん、なかなか起きれなくて・・・・」

自分の下駄箱から靴を取り出し履き替える。

「そういう時ってあるよね。」

隣で由美ちゃんが言った。

靴を履き替え終えると、そのまま由美ちゃんと一緒に教室に

向かった。

教室に入って何人かのクラスメイトと挨拶を交わすと、そのまま

クラスの生徒に紛れた。

室岡くんの姿を探したりはしなかった。

しばらくして彼が入ってきても、出入り口に目をやったりは

しなかった。

そんな態度をとるために私は必死だった。

本当は、すぐにでも彼の顔が見たかった。

だけど、これ以上私のなかで室岡くんの存在が膨らんでも、きっと

悲しいだけだろう。

切ない恋だった――なんて思い出で残したくはない。

これ以上好きにならないように抑え込む事で、綺麗な思い出として

私の中に残ってくれるような気がした。

その日、私は一度も室岡くんに視線をやらなかった。


次の日の火曜日、私は昨日と同じくらいの時間に家を出た。

先日の試合で、サッカー部の三年生は引退。その後の朝練は自由

参加となるため、行っても行かなくてもいいという話しを、

随分前に室岡くんから聞いていた。


彼は朝練に行くだろうか――


もしかしたら、また決まった曜日には彼と下足場で会えるかも

しれない。

だけど、今はもうそんな賭けすら私にはできない。

入学してまだ間もない頃を思い出した。

偶然早く行くことになった朝の学校の下足場で、初めて

室岡くんと話した。

翌日、サッカー部の朝練のない日、私は意味もわからず早々と

家を出て学校へ向かった。

今思えば、室岡くんに会いたかったのかもしれない。

静かな下足場に、私と室岡くんがいることが嬉しかった。

それはまるで、ふたりだけの秘密のようだったから。

あの日、教室に行かず体育館に足を運んだのも、室岡くんが

いるかもしれないと思ったから。

毎日毎日、朝早く学校に行っていたのも、ただ室岡くんに

会いたかったから。


とにかく好きで好きでたまらなかった。


初めて下足場で会った時も、クリスマスのプレゼントのことも、

帰り道で声をかけられた時も、全部偶然なんかじゃなくて

私はひとり運命を信じた。


室岡くんに会ったことは、運命だと思った。

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