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高校生の恋。  作者: 黒蝶
33/40

第33話  「恋に疲れた。」

グラウンドの入り口は、校門よりも進んだところにある。

私が着いた時、グラウンドには多くのサッカー部員が、試合直前

の準備体操や体慣らしをしている様子だった。

それを見守る観客もまた、多く群がっていた。

観客は男女様々で、同じ制服を着た人もいれば別の学校の人もいる。

グラウンドの端にはベンチが置いてあって、何人かサッカー部員

が座っていた。

ベンチの真後ろは野球用のフェンスが張られていて、部員とフェンス越し

で話したりするのに最適な場所だった。

そのせいか、その場所は大勢の観客で埋まっていた。

フェンスの手前はすでに人だらけで、入り込む隙間も無い。

私は、フェンスから大分離れた所から室岡くんを探した。

彼はゴールのすぐ傍で、何人かの部員と話していた。

そんな彼を、案外あっさりと見つけられたことにひとり浮かれた。


「ピ―――ッ。」


笛を吹く音が鳴った。

試合開始の合図。

きっと彼は、今私がここにいることなんて知らないだろう。


――頑張って、室岡くん。――


伝わらないことはわかってる。それでも私は心の中で叫んだ。


私が見ていたのは試合なんかじゃなかった。

走る彼を、ボールを追いかける彼をひたすら見ていた。

初めて、サッカーをしている彼を見た。

私には室岡くんしか見えなくて、ずっとドキドキしたままだった。。

「ピ――ッ。」と、試合終了の笛の音が鳴る。

選手達が皆足を止めた。

どうやら前半戦が終わったらしい。

相手校と礼を済ませると、選手は散り散りになった。

部員に紛れた室岡くんが、ゆっくりとベンチへと向かってくる。

ベンチに腰を下ろした彼は、スポーツドリンクを勢い良く口へ

運んでいた。

そんな彼の近くに行きたいと思ったけど、ベンチを囲うかのように

人が群がっているフェンス前の光景を見て、少し溜め息が出た。

「頑張って。」なんて、ありきたりな声援かもしれないけど、

その一言が言いたかった。


私はフェンスに近づこうとした。

踏み出そうとした足が、反射的に止まる。

フェンス越しに誰かと話す室岡くんが目に映った。

ベンチに腰掛けていた室岡くん。そのすぐ後ろで、

フェンスに手をかけながら話す女の子がいた。

着ていた制服は他の学校のもの。

胸がギュッとなった。

あの制服には見覚えがあった。

忘れもしない。私が、室岡くんを好きだと気づいた日。

校門でじゃれ合う室岡くんとその彼女を見て、胸が痛かった。

室岡くんはその子と別れたと言った。確かにそう言った

はずだった。

なのに――

室岡くんとその子が今、フェンスを挟んで話している。

楽しそうに、仲良さそうに――


なんであの子がここにいるの?――


別れたんじゃなかったの?――


フェンス越しに話すふたりを、私は離れた場所から見ている

しかなかった。

胸の奥が張り裂けそうに痛い。


――こんな所にはいたくない――


私は今すぐこの場所から逃げ出したくなった。

だけど彼から目が話せなくて、それでこんなにも苦しいのに、

どうしても足が動かない。

ふと、室岡くんがこっちを見た。

その瞬間、まるで金縛りが解けたかのように体が軽く感じ、

私は振り返って勢い良く走り出した。

グラウンドを出て、校門を通り過ぎ、それにさえも気づかない

ほど一目散に私は走った。

後ろを振り向くことも、気にすることもせず。

行き先なんてどこでもいい。

あの場所から抜け出せれば、それで良かった。


どれくらい走っただろうか。

息が切れて、額からは汗が吹き出している。

もうこれ以上は走れないくらいまで私は走った。

こんなにも死に物狂いで走ることは、体育祭のリレーでも

ないだろう。

気が付けば、帰り道から大分反れた土手沿いに私はいた。

立ち止まったまま、息を整える。

しばらくすると呼吸も落ち着き、私はゆっくりと歩き出した。

試合はどうなったんだろう――

別れたはずの彼女が、室岡くんの出場するサッカーの試合を

見に来ていたということは、もしかしたらヨリを戻したの

かもしれない――

そんなことはもうどうでもよかった。


涙が出た。


上手くいかない恋が苦しい。


縮まない距離が切ない。


”友達”以上になりたかった。でも、くだらない事で笑い

合ったり、ふざけ合ったりしているその瞬間が心地よくて、

そんな関係を崩してしまうのが恐かった。


”好き”と言えないことが悔しかった。


何も変わってほしくないと言いながらも、何も変わらない

ままが悲しくて悲しくて・・・・

そんな矛盾に、私はもう疲れてしまった。

もう、この恋に疲れた――

友達のままだったら、こんな気持ちにならなかったかもしれない。

彼のことを好きじゃなかったら、切なくも苦しくもならない。

室岡くんは友達――

ただの友達――

好きじゃない。室岡くんのことなんて何とも思ってない。

そんな風に言い聞かせてもみたけど、やっぱり好き。


私はやっぱり、室岡くんが好き――


そしてまた、涙がこぼれた。

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