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高校生の恋。  作者: 黒蝶
32/40

第32話  「ただ君に会いたい。」

もしかしたら、初めて室岡くんのことを知った時から、

彼に惹かれていたのかも、と思う。

あの入学式の日に行われた、ホームルームでの自己紹介――

彼の声だけが耳に響いたのも、何か違うものを感じたのも

全て、”好き”になる前兆だったのかもしれない。


ただの友達だと思ってた。

彼に彼女がいるってわかったとき、彼の彼女に嫉妬した。

彼女が羨ましかった。


室岡くんが好きだということに気づいた――


彼女がいるから好きだと言えなかった。結果がわかっている告白

なんて、しても意味ないと思った。

今、彼は彼女と別れ誰とも付き合っていない。

だけど、彼には好きな人がいる。


私達は、よく話し、よく笑ったりしたけど、それ以上にはなれない。

私と彼の間にある微妙な距離。

それがふたりを創っていて、それがあるからこそ私達は私達で

いられるんじゃないだろうか。


上手く言い表せない関係――


それにいつしか慣れて、それが当たり前だと思っていたのかも

しれない。

そんな関係を崩さないように、私はいつも必死になっていた。





ふと目が覚めて、枕元にある目覚まし時計を見ると、

八時五分前だった。

ベッドから降り、部屋を出る。

リビングの扉を開けると、お母さんが食器を洗っていた。

「おはよう。」

私が言った。

「あら、おはよう。休みなんだからもう少し寝ててもいいんじゃない?」

お母さんが言う。

「うん、でもなんか目が覚めちゃったんだ。」

冷蔵庫からオレンジジュースのペットボトルを取り出し、

グラスに注いだ。

「裕也は?」と私が聞く。

「あの子なら、野球部の練習があるって言って、朝早く出掛けたわよ。」

ふぅん――と私は言った。

椅子に座ってオレンジジュースを飲んでいると、お母さんが

焼きたてのトーストを出してくれた。

「ジャム、どれにする?」

「ピーナッツバターがいい。」

お母さんが、冷蔵庫からピーナッツバターの入ったパックを取り出し

渡した。

ピーナッツバターの甘い香りがリビングに広がる。

「あなたも部活?」

再び食器を洗い始めたお母さんが、その後ろで朝ご飯を食べている

私に振り向かず言った。

「うん・・・・。」

曖昧な返事をこぼした。


トーストを食べ、オレンジジュースを飲み干し、ついでにヨーグルト

まで口にした。

久しぶりに、のんびりと朝食をとったような気がした。

時計を見ると、八時四十分だった。

「ごちそうさま。」

使った食器を重ねて、流し台へと運ぶ。

「お昼はどうするの?」

隣で、洗った食器を布巾で拭いているお母さんが言った。

「まだ決めてないけど、午後までかかるようだったらコンビニに

買いに行くよ。」

そう――とお母さんは言った。

「お母さん今日は仕事だから、お昼帰ってくるようなら、食べられ

そうなもの冷蔵庫に入ってるから、好きなの食べていいわよ。」

うん――と言って、私はリビングを出た。

ゆっくりと二階への階段を上る。

部屋に入り窓を開けた。

九月も中旬だというのに、夏の名残りのような暑さが広がる。

外は良い天気だった。


ここ最近、室岡くんとは口をきいていない。

朝、火曜日でも木曜日でも、それ以外の曜日でも、室岡くんと

下足場で会わなくなった。

教室でも廊下でも、偶然目が合うことがあってもすぐに彼に

反らされてしまう。

メールも送られてこないし、私から送ろうとしても何を言えば

いいのかわからず、結局堂々巡りを繰り返していた。

帰り道で声をかけてもらうどころか、姿さえも見ない。

何かが崩れてきているのだろうか――


シャワーを浴びて部屋に戻ると、時刻は九時二十五分だった。

私はしばらく時計を見つめた。


確か今日は――


家着としている服を脱ぎ、壁にかけてある制服に袖を通す。

必要最低限のものだけを鞄に詰め、私は部屋を出た。

階段を降りてリビングの扉を開けると、お母さんの

姿はそこにはなかった。

居間を覗くと、掃除機をかけようとしていた。

「じゃあ行ってくる。」

私は声をかけた。

「あら、いってらっしゃい。」

廊下を進み、玄関で靴を履く。

後ろから、掃除機の廻る音が聞こえた。

私はそのまま黙って家を出た。


学校のグラウンドで朝十時から――


その話をした時から、もう二週間ほど経っていた。

今日は、サッカー部の試合の日。

話を聞いたときから、絶対に見に行くと決めていた。

休日でも彼に会えることが、楽しみだった。

それにもしかしたら、どこか不安定な私達の関係も、修復

できるんじゃないかと思い、どこか期待を胸に私は学校へ向かった。

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