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高校生の恋。  作者: 黒蝶
30/40

第30話  「嘘なんてつきたくなかった。」

「夏休みは何してた?」

後ろの方から彼が聞いた。

「特には何もしてないよ。ずっと家でゴロゴロしてた。」

窓の外を見ているフリをして、彼の話に言葉を返していた。

ふたり以外この教室には誰もいないということに緊張して、

後ろを向けなかった。

「学校には来なかったの?」

室岡くんが聞く。

「うん。今年は部から課題が出なかったから。」

そう私が言うと、彼は”そっか”と言った。


今、彼はどんな表情をしているんだろう――


その答えを知りたくて後ろを向きたかったけど、できなかった。

「室岡くんは何してた?」

今度は私が聞いた。

「俺?俺はずっと部活だったよ。夏休み明けの試合が終わったら

引退だからさ。」

私は”そっか”と言った。

「試合っていつあるの?」

「再来週の土曜日。」

「出るの?」

「出るよ。俺フォワードなんだぜ。」

「そうなんだ。」と私は言った。

彼のサッカーをする姿はどんななんだろう――


「良かったら見に来る?」


後ろから彼が言った。

「え、いいの?」

私は思わず振り返った。

後ろで彼はただ笑っている。

ドキッとした。

「いいよ。再来週の土曜、ウチの学校のグラウンドで朝十時に

試合開始だから、来れたら来ればいいよ。」

行っても行かなくても、どっちでも良いような感じに聞こえた。

「うん、じゃあ行けたら行くかも。」

私も曖昧な返事をした。

本当は絶対行くつもりでいたけど、上手く言えなかった。

そして私は、また窓の外を見るフリをした。

後ろから彼の、”うん”という声が聞こえた。


「よしっ、終わり。」

しばらくして後ろから彼が言った。

「佐倉、マジ助かった。サンキュー。」

そう言って室岡くんは席を立つ。

「はい、どうもありがとうございました。」

私の席まで来て、彼が問題集を差し出した。

「どういたしまして。」

そう言って私は彼から受け取った。

室岡君は振り返り、自分の席へと戻る。

その途中で、彼はふと足を止めた。

「あのさ、佐倉・・・」

私は思わず彼の方を振り向いた。

「なに?」

室岡くんは、少し下を向いていた。

彼が何を言いたいのか、私には全くわからなかった。


「お前、俺のことどう思ってる?」


突然室岡くんは言った。

どう思う?――なんて、そんな質問の答えはひとつしかない。


――私は、室岡くんが好きだよ。――


喉のすぐそこまで出かかっているのに、声にまでならない。

私はまだ、あと一歩の勇気が出せずにいた。

私は窓へと視線を移した。

彼を見ているのが辛かった。

すぐそこまで出かかっている気持ちが言えずにいる自分に、

無性に腹が立つ。

私は口を開いた。


「そんなの、友達に決まってんじゃん。」


窓を見ながら私は言った。

室岡くんは、静かに”そっか”と言った。

その声に、胸が軋むように痛んだ。

「室岡くんはどう思ってるの?」

窓に目を向けたまま私が言った。

少しの間、沈黙が流れた。


「友達だよ。」


しばらくして、呟くように言う彼の声が聞こえた。

ふぅん――と私は言った。

彼は立ち止まっていた足を動かし、そのまま教室を出て行った。

私は泣きそうになるのを、必死で堪えた。

”好き”と言えていたら、こんな気持ちにならなかったのだろうか。

確かな気持ちはあるのに、どうしても勇気が出ない。

どうして言えないのか、自分でもわからない。


少しすると、教室に何人かの生徒が入ってきて、私はその中に

埋もれた。

由美ちゃんと挨拶を交わし、何気ない話をした。

そして先生が教壇に立ち、一日が始まる。

あの後、室岡くんがいつ教室へ戻ってきたのか、私は確認せず

にいた。

”友達だよ。”

そう言った室岡くんの声が胸を締め付ける。

そんなことわかってた。当然のことだと思ってた。

なのに、今こんなにも苦しい。

やっぱり私はどこかで期待してて、きっと自惚れていた。

由美ちゃんと話していても、胸の奥がズキズキと痛かった。

室岡くんが私のことを好きなんて、そんなこと絶対ない。




何かが音をたてて崩れるような感じがした――

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