第3話 「何かを期待した朝。」
翌日、朝ご飯を食べ終えてふぅっと一息ついてから、
時計をちらりと見た。
時刻は午前七時三十分。
昨日は朋ちゃんとの突然の約束のために、早く家を出なければ
いけなかった。
でも今日はそんな必要はない。
約束もしていなければ、メールだって来ていない。
私はココアの入ったカップを両手で持ち、ゆっくりと口へ運んだ。
そしてもう一度時計を見た。
秒針がコチコチと動いている――
残りのココアをグッと飲み干して、テーブルにカップを置いた。
「ごちそうさま。」
傍に置いてある携帯を取り、リビングを出て二階へ行った。
部屋に入り時計を見ると、七時三十二分。
私は鞄を手に、持っていた携帯を押し込めながら部屋を出て
階段を下りた。
「行ってきます。」
リビングに顔を出して私は言った。
「あら、今日もお友達と約束?」
「う・・・うん。」
そう言って私は玄関に急いだ。
靴を履いて立ち上がって、「行ってきます。」と言うと、お母さん
はいつも通り「いってらっしゃい」と言った。
玄関の扉を閉めると、私は急ぎ足で学校へ向かった。
何が目的でこんなにも急いでいるのか、自分でもわからなかった。
とにかく早く学校へ行きたい。
ただそれだけしか頭にはなくて、それだけで足は自然と前に出た。
学校に着くと、時刻は昨日と同じ七時五十分を指していた。
途中走ったりもしたせいか、少し息切れがする。
私はゆっくりと校門を抜け、玄関へと足を進めた。
昨日と同じで人気は無く、とても静かだった。
私は玄関を通り、自分の下駄箱の前で立ち止まった。
そして靴は脱がないまま周りを見渡した。
誰もいない。
本当に静かだ。
ふと体育館へと続く廊下にも目をやった。
そこにも人気はなかった。
「ふぅ。」
一息ついてみた。
私、何してるんだろう――
そんな考えが頭に過ぎった。
「キィ・・・バン!バン!――ガチャン!」
内履きを取り出し、履き替えて靴を下駄箱に仕舞った。
――教室へ行こう――
確かにそう思ったはずなのに、いつの間にか私は逆の方向へ
歩いていた。
校舎とを繋ぐ渡り廊下を通り、辿り着いたのは体育館だった。
その扉は頑丈そうな金属でできていて、だけど動かすのは
意外にも簡単だった。
私は体育館の扉を少しだけ開けた。
バスケットのゴール、壇上、そして片付けられずに放置された
いくつかのボール達が転がっている。
そこにも人の気配はなかった。
『そっか。』
心の中で私は呟いた。
体育館の扉を閉めて、私は早足で教室を目指した。
何を期待していたんだろう――