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高校生の恋。  作者: 黒蝶
29/40

第29話  「朝の教室でふたりきり。」

始業式は月曜日だった――

最後の夏休みも終わり、卒業までもうあと半年ほど。

いつの間にか、随分と時が経っていた。


「宿題はちゃんと終わってるの?」

朝ご飯を食べている最中にお母さんが言った。

「終わってるよ。」と私が言う。

「姉ちゃん全然手伝ってくんねぇんだもん。俺大変だったんだぜ。」

隣で一緒にご飯を食べている弟が言った。

「遊び惚けてたアンタが悪い。」

そんな弟に対してキツイ一言を返すと、弟は”なんだよー”と

言ってむくれた。

時計に目をやると、七時二十五分だった。

今日は月曜日。サッカー部の朝練はない。

たまにはちょっと遅くてもいいか――

そう思った。

「ごちそうさま。」

私は立ち上がってリビングを出た。

階段を上って二階の自分の部屋へ入ると、ボスッとベッドに勢い

よく座り込んだ。

「ふぅ。」と一息ついてみる。

私は立ち上がった。

通学鞄に携帯を押し込め部屋を後にした。

階段を下りリビングの扉を開ける。

「じゃ、私行くから。」とだけ言ってその場を離れた。

真っ直ぐ玄関へと向かい靴を履く。

「忘れ物ない?新学期早々呼びつけたりしないでよ。」

後ろでお母さんが言う。

「大丈夫だって。」

靴を履き替えて立ち上がった。

「行ってきます。」

「いってらっしゃい」とお母さんが言う。

少し遅く行こうと思ったけど、なんだか落ち着かなかった。


やっと室岡くんに会える――


それがとにかく嬉しくて、じっとなんてしていられなかった。

学校へ向かう私の足は軽やかで、まるで羽が生えているみたい

だった。


下足場は当然のように静かで、下駄箱の扉を開け閉めする音や、

内履きを下に落とす音が響いた。

靴を履き替えると、私は教室へと向かった。

廊下も階段も人気が無くて、自分だけが独占しているみたいだった。

「ガラッ。」

私は教室の扉を開けた。

誰もいない。

机の横のフックに鞄を引っ掛けて椅子に座る。

そして私は窓を開けた。

朝の涼しい風が入り込んできて、気持ちが良かった。

しばらく、窓から見える景色をボーっと眺めていた。


「ガラッ。」


突然扉の開く音がした。

私は最初、由美ちゃんが来たのだと思った。

出入り口の方に視線をやると、私は思わず目を見開いた。


「あれ、佐倉じゃん。」


室岡くんだった――


今日は朝練は無いはず。

こんな時間に会えるとは思わなかった。

一番最初に顔を合わせる人が、室岡くんだとは思ってもいなかった。

「相変わらず早いな。おはよ。」

彼は言った。

「おはよう。」

彼は机に鞄をドサッと置いた。

「なんか久しぶりじゃね?」

室岡くんが言う。

「うん、そうだね。」

彼の顔を一瞬でも見ただけで、会えなかった時の不安が一気に

吹き飛んだ。

「俺さ、実はまだちょっと宿題残ってんだよね。」

鞄の中を探りながら彼は言った。

「え、そうなの?ヤバイじゃん。」

「だから朝早く来てやろうと思ってたんだけど、佐倉がいてくれて

助かったよ。」

私の方を見ながら彼が言う。

「頼む佐倉、一生のお願い。写さして!!」

両手を合わせて頭を下げながら彼は言った。

その姿が可笑しくて、私は笑ってしまった。

「ジュース奢ってくれるならいいよ。」

私は言った。

「やったね!!じゃあ今即効で買ってくるよ。何がいい?」

「いちごオレ。」と私は言った。

”オッケー”と言って、彼は教室を出て行った。


室岡くんが出て行った後の教室は、最初のようにシーンと

静まりかえっていた。

まるで室岡くんがいなかったかのよう。

もしかして、彼とさっき会ったのは夢で、本当は彼はまだ学校に

来ていないんじゃないかって、そんな風に思えた。

「佐倉。」

名前を呼ばれた。

出入り口から室岡くんが歩いてくる。

「はい。これでよかった?」

私の席まで近づいてくると、冷えたいちごオレを差し出した。

「うん、ありがとう。」と言って私は受け取った。

「どれ写すの?」私が聞く。

「あぁ、英語。」

私は鞄の中から英語の問題集を取り出し、「はい」と言って

彼に渡した。

「答え違ってても文句言わないでよ。」

「間違えんなよ。」

「えぇ!!」

そう私が言うと、彼は大きく笑った。

教室中に彼の笑い声が響いて、近くに彼の笑う顔があって、

なんだかホッとした。

「じゃ、すぐ写すから。」

そう言うと、彼は私の席を横切って、私よりも後ろの方にある

自分の席へと戻った。

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