第28話 「友達以上、恋人未満。」
「え、室岡くん、彼女と別れたの?」
高校最後の夏休みを過ごしていたある日、朋ちゃんが家に
遊びに来ていた。
「うん、そうみたい。」
私は言った。
「みたいって、これはチャンスだよ、理子。」
朋ちゃんが言う。
「チャンスじゃないよ。室岡くん、好きな人がいるって言ってたし。」
「え、そうなの?」
うん――と私が言うと、朋ちゃんは”そっかぁ”と言った。
少しの間ふたりで黙った。
しばらくして朋ちゃんが口を開いた。
「ねぇ、それって理子のことなんじゃないの?」
「は?」
ベッドに座っていた朋ちゃんが、ベッドを背もたれにして床に座って
いた私に近づいてきた。
「だから、室岡くんって理子のことが好きなんじゃない?」
「まさか。そんな事あるわけないじゃん。」
私は思い切り否定した。
「だって、仲いいじゃん。理子と室岡くん。」
朋ちゃんが言った。
「仲がいいだけだよ。室岡くんは私のこと友達としてしか
見てないって。」
「そうかなぁー?」
「そうだって。」
朋ちゃんは納得のいかないような顔をした。
室岡くんが私を好きなんて、そんな事あるわけがない。
彼にとって私はただの女友達で、それ以上になんてなれない。
そんな、夢物語みたいな展開になんてきっとならない。
私の想いは、きっと届かない――
自分で自分に言い聞かせた。
期待をしてしまえば、それがただの自惚れだったことに気づいた時、
悲しくて悲しくてたまらないだろうから。
今年の夏休みは、一度も室岡くんに会っていない。
去年までは、美術部の課題製作のために何度か学校へ足を運び、
そのうちの数回、同じように部活に来ていた室岡くんに会った。
だけど今年は、部からひとつも課題が出ていない。
三年生は勉強や進路の方を優先してほしいということで、
課題が出されるのは二年生までとなっている。
おかげで学校へ行く理由がひとつも無かった。
室岡くんを交えて遊ぶような計画もひとつも立っていない。
彼と会う機会は全くなかった。
メールだけは時々した。
『宿題進んでる?』とか、『毎日暑いよな。』とか、たいした話題
じゃないけど、その瞬間だけは彼と繋がってるような気がした。
だけど、やっぱりそれだけじゃ不満で、彼に会いたくて会いたくて
たまらない。
あの声が聞きたくて電話をしようともしたけど、通話ボタンを
どうしても押せなかった。
あの笑顔が見たくて理由なく学校へ行こうとしたけど、空回りを
するのが恐くて止めた。
室岡くんに会いたい――
会いたいって言いたい。だけど言えない――
彼を恋しいと思う気持ちが募るだけの夏休みだった。