第24話 「高校三年生。」
気がついたら、私は高校三年生になっていた。
「離れちゃったね。」と朋ちゃんが言う。
今年も朋ちゃんとクラス発表を見に来た。
朋ちゃんとは大分クラスが離れてしまった。
隣どおしでもないため、選択授業で一緒になることもない。
「やっぱ三年間一緒ってのは無理だよね。」
「そうだね。仕方ないよ。」
私は言った。
そして私達は、離れた下足場でそれぞれ靴を履き替えた。
「理子、良かったね。」
階段を上ってる途中で朋ちゃんが言った。
「何が?」と私が言う。
「室岡くんと一緒じゃん。見なかったの?」
「忘れてた・・・」
室岡くんとまた同じクラスになれるとは思っていなかった
から、自分がどのクラスかしか見ていなかった。
「ちゃんとあったよ。理子のより下のほうに室岡くんの名前。」
そうなんだ――と私が言う。
室岡くんと同じクラス――
私はまた、あの背中に声にならない声で”好き”と言うのだろうか。
「いろいろ辛いかもしんないけどさ、良いこともあるって。」
そう朋ちゃんは言った。
朋ちゃんの言うとおりだ。
悲しくて切なかったりするけど、嬉しいと思える時も確かにある。
この恋はきっと、嫌なことばかりじゃない――
そう思った。
「まぁ、何かあったらいつでも話聞くから。」
そう言って朋ちゃんは私の肩をポンッと叩いた。
「うん、ありがとう。」
私が言うと、朋ちゃんは”じゃあね”と言って、私のよりももっと
奥に行った所にある新しい教室へと歩いていった。
私は新しいクラスの扉を開けた。
知ってる人もいれば、初めて関わる人もいる。
少し緊張した。
「理子ちゃん!!」
突然名前を呼ばれた。
「由美ちゃん。」
すっかりコンタクトが馴染んだ由美ちゃんがいた。
「理子ちゃん、同じクラスだよ。」
「えっ、本当?」
どうやら私は本当に自分の名前しか見ていなかったらしい。
由美ちゃんに会って少しホッとした。
「私知り合いいなくて困ってたんだ。理子ちゃんがいてくれて
良かった〜。」
そう由美ちゃんは言った。
三月の卒業式に、由美ちゃんは一年の頃から想いを寄せていた、
平本先輩に告白した。
先輩に彼女はいなかったけど、先輩は卒業、由美ちゃんは
まだ一年高校生活が残っているから、ということで、先輩の
答えはNOだったと由美ちゃんは話してくれた。
結果的に振られてしまった由美ちゃんは、涙を堪えきれず泣いた。
さやかと朋ちゃんと三人でそれを宥めた。
私は、そんな由美ちゃんがいずれの自分に見えて仕方なかった。
けれども、由美ちゃんは”諦めない”と言った。
平本先輩と同じ専門学校に進学して、もう一度頑張るらしい。
そんな由美ちゃんが私は羨ましい。
振られても強くいられることが、好きな人に好きって言える勇気が
あることが。
私はやっぱり、自分が嫌いかもしれない。
由美ちゃんと話していると、出入り口から室岡くんが入って
くるのが見えた。
「あ。」と私は心の中で言った。
室岡くんと、一瞬目が合った。
けれど、私も彼もすぐに反らした。
私は由美ちゃんと話し続けた。
ふと、制服のブレザーのポケットに入れておいた携帯が、ブルブルと
震えた。
携帯を開くと、”メール受信”の文字が出ていた。
誰だろう――
私はメールボックスを見た。
送信者の欄に書かれていた名前は”室岡尚志”。
室岡くんからのメールだった。
『また同じクラスじゃん。よろしくな。』
すぐ目で見える距離に彼はいる。
そして口でも言えるようなことを、言わなくても別に良いような
ことがメールで送られてきて、なんだかふたりだけの秘密ができた
みたいな気がして嬉しかった。
『こちらこそヨロシクね。』
私は返信した。
「嬉しいメールだったの?」と由美ちゃんに聞かれた。
なるべく平常心を保とうと思っているのに、どうしても伝わって
しまうのかもしれない。
「うん、まぁ。」と私は言った。
口元が緩む。
彼の言葉に一喜一憂している自分。
私は、どうしようもなく室岡くんに惚れているみたいだ。