第23話 「切ない恋に涙が出る。」
元旦に、朋ちゃん・由美ちゃん・さやかの四人で初詣に行った。
日にちが日にちなだけにかなり混雑していた。
人を掻き分けてなんとか境内へと辿り着いた。
お賽銭を投げ入れて手を叩く。
パンッ、パンッ――
願いごとはひとつしかない。
神様にお願いするくらいならいいと思った。
――どうか、室岡くんと恋人どおしになれますように――
冬休みが終わって、今日から新学期。
冬の朝はとにかく寒い。
私は相も変わらず早々と学校へ行く。
校門をすり抜け、玄関を通り下足場に着くと、寒さと静けさ
だけが広がっていた。
「よぉ、おけおめ。」
靴を履き替えている最中に室岡くんがやって来て、私の真横
で言った。
「おめでとう。」と私も言う。
彼は私の後ろで靴を履き替える。
「餅食った?」
後ろから彼が言った。
「食べたよー。」
「俺なんて食いすぎて腹壊した。」
彼がそう言うと、私はアハハと笑った。
室岡くんは、”笑うなよ――”と言って、グーにした手で
私の頭をコツン、と叩いた。
静かな下足場に、私と室岡くんの笑い声だけが響いた。
「そんじゃあな。」と言って、彼は下足場を後にする。
「理子。」
名前を呼ばれ、肩をポンッと叩かれた。
振り向くと、朋ちゃんがそこにいた。
「朋ちゃん、おはよう。随分早いね。」
「うん、宿題がまだ終わってないから、朝早く来てやろうと思って。」
私は”そっか”と言った。
朋ちゃんとふたりで教室へ向かった。
教室は当然のように誰の姿もなく、シン、としていた。
「寒っ。」
と朋ちゃんが言うので、私はすぐにストーブを点けた。それでも
すぐに暖かくなったりはしないので、私達はそれぞれの席に適当に
鞄を置いてストーブを囲んだ。
朋ちゃんも私も何も話さず、ただただストーブに手を翳した。
「あのさ、理子。」
しばらくして最初に口を開いたのは、朋ちゃんだった。
「理子って、室岡くんのことが好きなの?」
「え?」
「さっき下でふたりが話してる時、理子すごく室岡くんのこと
恋しそうに見てたから・・・」
と朋ちゃんは言った。
自分の気持ちを知られたことは嫌ではなかった。
室岡くんのことを恋しそうに見ていた――
そんな目を自分がしていたかと思うと、少し恥ずかしかった。
「うん・・・。」と私は言った。
そう――と朋ちゃんが言う。
「ごめんね、いないとか言って。」
「うぅん、言いたくなかったんならいいよ。」
朋ちゃんのさり気ない優しさが嬉しかった。
「告白はしないの?」
朋ちゃんが言った。
私は少し黙った。
「私、恐いんだ。」
「何が?」
「告白したら、今の関係が崩れそうで、あんな風に話さなく
なっちゃったりしたら、そっちの方が私は辛い。」
「うん、その気持ちはわかる。」と朋ちゃんは言った。
それに――と私が言う。
「室岡くん、他の学校に彼女いるから・・・。」
そう言うと、朋ちゃんは”そうなんだ”と静かに言った。
告白なんてできない。
だけど本当は、できないんじゃなくてただしないだけだって、
自分でもわかってた。
悲しい想いをしたくなくて、傷つきたくなくて、いろんなもの
から逃げてきた。
それを受け入れられずに目を反らしてばかりいた。
それじゃ何ひとつ変わりはしないのに、自分から何もしようと
せず、何もかも悲しい恋のせいだからと言ってきた。
だけど、勇気も出なかった。
押し込めていた濁ったモノがあふれてくる。
一筋の涙がこぼれ、私は泣いた。
隣で朋ちゃんがそっと肩を抱いてくれた。
その優しさが愛おしくて、また涙が出た。
恋をすることは、切ない気持ちになることと常に同時進行
だということを、私は初めて知った。