第20話 「友達の恋、私の恋。」
「あのさー、理子。」
「うん?」
もうすぐ夏休み。
夕方になっても汗が吹き出る暑さの中、私は朋ちゃんと
一緒に帰り道を歩いていた。
「私、告ろうと思うんだ。」
隣を歩く朋ちゃんが言った。
「誰に?」
「塚田くんに決まってんじゃん!!」
朋ちゃんの一大決心だった。
「いつ言うの?」
私が聞いた。
「夏休み前には言うつもり。」
”そっか”と私は言った。
「ヘコんでたら慰めてね。」
朋ちゃんが笑って言う。
「告白するのって恐くない?フラれたら悲しいじゃん。」
私は言った。
うん――と朋ちゃんが言う。
「そりゃあ恐いけどさ、言わなきゃ伝わんないし、何も
変わんないじゃん。」
私はチラッと隣を見た。
朋ちゃんの目はとても真っ直ぐで、キラキラしていた。
彼女の言葉に、胸が締め付けられた。
私は恐い。
だって、”好き”って言っても、相手には彼女がいるからフラれる
に決まってる。
それに、今の微妙な距離が心地よくて、それを崩してしまうのも
また恐かった。
「理子はいないの、好きな人?」朋ちゃんが聞く。
「いないよ。」
そっか――と朋ちゃんは言った。「できたら教えてね。」
そう言う朋ちゃんに、わたしは”うん”と静かに言った。
室岡くんが好き――と口に出してしまったら、押し込めている
悲しさや切なさまで溢れ出して、止まらないような気がして恐かった。
室岡くんに彼女がいるのが嫌――
私のほうがずっとずっと室岡くんのことを好きなのに――
彼のことが好きだと思った瞬間からあった、私の中の濁ったモノ。
そんな気持ちが自分の中にあることに、私はずっと目を反らしてきた。
向き合えずにいた。
でないと、好きでいることがもっともっと辛くなりそうだったから。
そんな風に、多くのことから逃げている自分が、私は心底嫌いだった。
夏休みに入ってまだ間もない頃、朋ちゃんから携帯に
電話がかかってきた。
=理子、聞いて聞いて。=
朋ちゃんの叫ぶように話す声が、受話器越しに響いた。
=どうしたの?=
私が聞く。
=私、塚田くんと付き合うことになったの!!=
どうやら朋ちゃんは、告白してOKをもらったらしい。
=そっか、よかったね、おめでとう。=
朋ちゃんが電話の向こうで”ありがとう"と言った。
朋ちゃんの話によると、塚田くんも朋ちゃんのことが好きだったみたいで、
いわゆる両思いというやつ。
いいなぁ――
朋ちゃんが羨ましかった。
好きな人に好きって言ってもらえて。
両思いになれて。
――好きな人に、好きになってもらえて――
私は初めて室岡くんに自分からメールを送ってみた。
『塚田くんと朋ちゃんがくっついたんだって!!知ってる?』
すぐに返事は返ってきた。
『知ってる。塚田にさんざんのろけ話聞かされた。』
『私も似たような感じ。』と私は送った。
室岡くんから返事は返ってこなかった。
初めて私から送ったメールは、案外短時間で終わった。
室岡くんとメールをするようになったのは一年前から。
勇気が出なくて、あと一歩がどうしても踏み出せなくて、
いつも彼からのメールを待ってばかりいた。
”言わなきゃ伝わんないじゃん”
そう言った朋ちゃんの言葉が、ずっと頭の片隅にあった。
それが私の背中をちょっとだけ押した。
自分からメールを送ったことにはすごく緊張した。
だけど、それをやり終えた今、とても心地よいものが自分の体の
中にあることがわかる。
――勇気を出してよかった――
そんな気持ちになれた。
「好き」と言う勇気はまだちょっと出ないけど、私にとっては
大きな一歩でもあった。
ほんの少し、自分を好きだと思えた。




