第18話 「高校二年生。」
春休みが終わり、今日から新学期が始まる。
いつもより少し遅めに家を出て、私は朋ちゃんと一緒に学校に
向かっていた。
「やだなぁー、クラス替えなんて。」
隣を歩く朋ちゃんが言った。
今日はクラス発表の日でもある。足取りもいつもより少し重め。
「塚田くんとまた同じクラスになりたいなぁ。」
クリスマスパーティーの日の帰り道、朋ちゃんは塚田くんと
途中から一緒に帰って以来、彼のことが気になってるらしい。
「さやかや由美ちゃんとも同じだといいよね。」
私が言うと、朋ちゃんは”そうだよね”と言った。
――室岡くんとも同じクラスだといいなぁ――
半ば祈るように私は学校へと足を進めた。
学校に着くと、玄関は人だかりができていた。
貼り出されているクラス割りに、生徒達が注目している。
私と朋ちゃんは、人ごみを掻き分け前へ進んだ。
「理子、また一緒だよ。やったね!!」
私と朋ちゃんはまた同じクラスだった。
井川朋子・・・・・・・佐倉理子・・・・・・
私は目線を下へと下げていった。
”室岡尚志”という名は、私の新しいクラスの中には無かった。
「あ、塚田くん隣のクラスだ。」
すぐ傍で朋ちゃんが小声で言った。
「だったら体育とか、選択授業で一緒になるじゃん。」
私達のクラスと塚田くんのクラスは、合同で受ける授業がいくつかあった。
「あ、室岡くんもいるよ。」
そう朋ちゃんが言ったので、私はもう一度クラス割りの紙に
目をやった。
室岡くんは塚田くんと同じクラスで、私達の隣だった。
少しだけホッとした。
同じクラスになれなかったのは残念だけど、隣どおしになれたことが
せめてもの救いかもしれない。
「理子、行こう。」と朋ちゃんが言う。
「うん。」
私達は新しい下足場へ向かった。
私は高校二年生になった――
「よぉ、佐倉。」
始業式から何日か後。
その日は木曜日だった――
私は相変わらず朝早く登校している。
室岡くんに会った。
「あ、おはよ。」
そう言うと、彼は”おぉ”と返した。
「佐倉、隣のクラスなんだってな。」
室岡くんが歩きながら言った。
彼は私の後ろで立ち止まった。
下駄箱の扉を開け、内履きをバタバタと床に落とす音が後ろから
聞こえてくる。
「教科書とか忘れたら貸してくれよな。」
そう言って、彼は私の肩をポンッと叩いた。
びっくりして振り返ると、微笑んでる彼と目が合った。
ドクンッと心臓が鳴る。
「いたずら描きとかしないでよ。」私が言った。
室岡くんがアハハッと笑う。
「人物にヒゲとか描いて返そっかなぁ〜。」
そんな彼の言葉に、私も思わず笑をこぼす。
「じゃあね。」
そう言って室岡くんは体育館の方へと歩いて行った。
私のクラスと室岡くんのクラスの下足場は向かい合っていて、
彼の下駄箱は私の真後ろだった。
それはあまりにも些細なこと。
だけどそんな何気ないことに、私はまたひとり運命を感じた。