第17話 「ホワイトデーに君は何を贈る。」
3月14日のホワイトデー目前に、室岡くんからメールがきた。
『女って、ホワイトデーにどんなものもらったら嬉しい?』
どんな返事を返そうか迷う。
私はしばらく携帯を見つめた。
『突然どうしたの?』と、とりあえず送ってみる。
『バレンタインにチョコもらったからお返ししたいんだけど、
何をあげたらいいかわかんないんだよね。』
『彼女から?』なんてことを私は聞いてみた。
『うん。あれ、俺言ったっけ?』
聞かなくても、誰からチョコをもらったかなんて大体想像がついた。
『学校の近くで一緒にいるとこ見たことあるから。』
やっぱり彼女からもらったんだ――
わかってたけど何かが気に入らなくて、胸の奥がモヤモヤした。
『で、何もらったら嬉しいの?』
室岡くんが聞いた。
『何でもいいんじゃない?』と私が送る。
『なんだよー、もっと親身になってくれよ。』
そんな事言われても・・・―――
『やっぱ無難にクッキーとかがいいんじゃない?』
私は送信した。
『でもさぁ、彼女はわざわざ手作りのチョコとかくれてんのに、俺は
店で買ったクッキーなんてなんか失礼じゃない?』
彼の、そんな風に相手を思いやるところに私も愛しくなった。
でも、彼が思いやっているのが彼の彼女だというところに、胸が
締め付けられた。
『じゃあ、どこかに遊びに行ってもいいんじゃない?』
私が送る。
『え、そういうのでもいいの?』
『物より気持ちだと思う。』と私は送った。
好きな人の恋愛相談にのるなんて、馬鹿みたいだと思った。
だからと言って投げやりにもできない。
室岡くんに嫌われたくなかったから。
せめて、「女友達」という枠の中にはいたかった。
『佐倉ならどんなお返しがいい?』
室岡くんが聞いてきた。
私は・・・・・
『映画見に行ったり、ご飯食べたりとかしたいな。』
『そんなんでいいの?』と彼が言う。
『うん。一緒にいられる方が嬉しい。』
何かをもらえるのも嬉しいけど、好きな人と手を繋ぎながら、
たわいもない話をしてどこかに出かけることに憧れた。
そんな恋がしたかった。
そっか――と室岡くんが送ってきて、メールは終わった。
私はベッドに寝転んだ。
室岡くんの彼女は、どれくらい室岡くんのことが好きなんだろう。
私とどっちが室岡くんのことをより好きなんだろう。
そんなこと比べられるわけないのに、計れやしないのに、
顔も名前も、何ひとつ知らない室岡くんの彼女に嫉妬した。
もし私がチョコをあげていたら、彼はこんな風に悩んだのだろうか。